第19話 緊急地震速報です

ピザのいい匂いが部屋中に広がる。

土曜日の夜、「今日はごちそうにしよう!」と恵美さんはピザをデリバリーしてくれた。

「本当は自分でピザを作りたかった」と悔しそうに言っていたが、時間も時間、締め作業をしていたら二十時を軽く超えていた。

「いいんですか?ピザなんかご馳走してもらって!?」

「いいも何も泊まり込みの日は私がご飯用意するようになってるでしょ?それに朝からバイト以上に働いてくれて本当に助かってる」

「いえいえ、少しずつ戦力になれて嬉しいです」

「だからって!また無理したらダメだからね?」

「分かってます!」

「それじゃ!食べよっか!」

「はい!」

「いただきます」と手を合わせて私たちはピザを食べた。

笑美さんが長野県に引っ越して来たのは店の開店準備に合わせて今年の二月頃らしい。

元々は都会人で東京の真ん中に住んでいたらしい。

やっぱり東京の人はみんな綺麗なんだ・・・

『芋』とまで自分の評価を下げる訳ではないが周りのみんなに比べれば私はまだ全然垢抜けてないし、ましては都会の高校生なんかと比べたら天と地の差だろう。

そんなくだらない悩み話を笑美さんにも話したりしながら楽しい夕食を済ました後、それは予想外の形で訪れた。

「もう時期お風呂が沸くから、先に入ってていいよ!」

夕食の洗い物をしている笑美さんにそう言われ私は脱衣所に駆け込み服を脱ごうとしたその瞬間、何か嫌な違和感が

体全体を襲い、服を脱ぐのを一旦やめた。

突然、大きな音が携帯から鳴り響く。

『緊急地震速報です、緊急地震速報です、強い揺れに警戒してください』

「え?」

その瞬間、脱衣所が大きな揺れに見舞われる。

強い、強い、強い・・・これはやばいやつだ。

そう全身で危機を感じた瞬間、何事もなかったように突然地震は止んだ。

「デカかった・・・」

私は何とか呼吸を整え、脱衣所から一旦出て、リビングに向かう。

「笑美さん!びっくりしました強い地震・・・」

笑美さんも突然の地震で驚いているはずだと思い、声をかけたが、目の前に転がった割れたマグカップが目に入る。

「笑美さん!大丈夫ですか」

そして笑美さんは泥酔して家に帰って来たお父さんのようにその場に膝を着いて下を向いていた。

首元には汗がグッショリと湧き出ていて、呼吸がおかしい。

「笑美さん?大丈夫?」

私はすぐに笑美さんに駆け寄る。

「ごめん!大丈夫!地震苦手でさめちゃくちゃ驚いちゃって!」

そう言って笑美さんは何事もなかったように立ち上がり、汗を拭う。

「美心ちゃんは大丈夫?」

「は、はい!強い揺れだったけど本当に一瞬だったので」

リビングを見渡しても特に何か物が崩れたり落ちたりはしていなかった。

地震はほんの数秒の出来事で、特に大きな被害もなくて安心した。ただ一つ笑美さんが心配だった。

笑美さんは再び作業に戻り、私も「お風呂行きます!」と言って脱衣所に駆け込む。

私は上に来ていたTシャツを脱ぐ、そして左手の手首を見つめる。

笑美さんは明らかに尋常じゃなかった、一歩間違えたら過呼吸なんじゃないかってくらい・・・

そしてもう一つ、膝をついている時にうっすら見えた左手の傷。

いつもは作業着を着ていて見えなかったが・・・あれは

ただの傷じゃない、周りに何度も傷つけられた様な痛々しい白い傷が沢山あった。

確信は無いけど『リストカット』だ。

私は頭によぎる疑問を何度も否定しなが湯船に浸かる。

気づいたら十五分以上も浸かっていた。

後で確認した情報だと長野県の北部は震度6弱という最近では珍しい強い地震だった。














   

   




 


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