第1話 朝食
朝食に並べられたクロワッサンはいつも母が近所のスーパーで買ってくるペラペラのやつとは訳が違う。
黄金色に輝く表面、ふんわりとした生地。綺麗な月形。
私は机に並べられた他のおかずに一切目も当てずクロワッサンにかぶりつく。
美味しい! 生地がふわふわなのに厚みがしっかりある、そして口全体に広がる甘さと柔らかな食感。
久しぶりにこんなに美味しいパンを食べた気がする。
ここ最近の食事の記録を頭から取り出し眺めてみるが、このクロワッサンがダントツで輝いていた。
「お母さん?これどこのパン?」
母にこのクロワッサンの詳細を尋ねるが返答がない。
保険会社で働く母にとって朝の準備はスピードが命、いつも私が起きて十分足らずで家を出てしまう。
会社員の父はとっくに出勤していて家にはいない。
無視られた事に少しイラッとするがまた後で聞けばいい、そう思い朝食に出されていたサラダにしぶしぶ手をつけ始める。
「昨日家の近くに移動販売で来てたの、気になったから買ってみたのよ」
朝食を取る私の机の前に上着と通勤バックを置く母。
なんだ無視された訳じゃないのか。
「移動販売?」
「そう、千曲の方からわざわざ上野まで売りに来たんですって」
「パン屋が?」
「そう、最近できたらしいわよ名前は忘れちゃったけど」
移動販売・・よく食品などを田舎の辺境地に届ける時に使われる物だと思っていたけど・・わざわざ車を走らせてこの街にパンを売りに来るのか・
もう少し細かく母から聞きたい所だけど母はもう仕事に行ってしまうだろう。
私も呑気に朝食を食べたら数少ない朝の電車に乗り遅れてしまう。
母が家を出たのを合図に残りの朝食を適当に書き込む。
今日もつまらない一日が始まると思うと朝は毎回憂鬱な気分になる。
でも今日は朝食に美味しいパンを食べれたから少しはマシだ。
そうやって自分の心を肯定して身支度をしに自分の部屋に戻る。
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