第21話
前回までのあらすじ。海に来たぼくらは仲良くなれるように家族ごっこをしたが、どうにもうまくいかなかった。残念天使だった。
「気分を切り替えよう!次!浮き輪で二人でぷかぷか作戦!」
そう言うと彩羽さんは用意してあったハンモック状のフロートを持ってきた。二人で海の中に入ると、彩羽さんはフロートに寝そべった。僕はエンジン役だ。フロートの端に両手を乗せると、ぼくはバタ足で沖のほうに向かった。
「わぁ、これは結構いいね!波で揺れるのが気持ちいい!」
ぼくたちは沖でゆったりと浮かびながらたわいもない話をした。ドキドキはしないけれど、こういう時間もいいものだと感じる。
「私たち、これで仲良くなれてるかな」
「どうだろう、普段ソファーで一緒に居るのとあまり変わらない気はするけど」
「そうかもね。でも、二人で一緒に水に浸かっているから、ひょっとしてもっと近づけるかも」
「水に?どういうことだ?」
「ほら、キャンプの時。一緒に温泉に入ってたら距離が近づいたでしょ。今はあの時のシチュエーションに似てるからさ。もっと近づけるんじゃないかな、って」
「そ、その節は誠に申し訳なく……」
つい、あの時の光景を思い出してしまった。ぼくの顔が赤くなるのがわかる。脳裏にあの時の彩羽さんの姿が浮かぶ。いかんいかん。
「いいよいいよ。それに、そ、そんなに悪い気分じゃなかったし……そうだ!次は家のお風呂に一緒に入ろうよ!」
「お、お風呂?!」
「私たち、家族だしさ。一緒にお風呂入ってもおかしくないんじゃないかなーって」
「いやいや、どう考えてもまずいですよそれは!」
「敬語。口調が元に戻っちゃってるよ」
「いやでも……流石にそれは……」
「私と一緒に入るの、嫌?一緒に入りたいなぁ」
「嫌とか嫌じゃないとかいう話じゃなくて……」
「……ふふっ、言いすぎちゃったかな。まぁ今日のところはこれで許してあげる!」
ぼくは完全に彩羽さんの手のひらで踊らされている。彩羽さんに小悪魔属性がついてしまった。このまま行くとそのうちぼくの手には負えなくなるんじゃないか。
「それじゃ、次いこう次!岩場の方に遊びに行こうよ!なんか生き物がいるかもしれないし」
ぼくらは一度砂浜に戻り、フロートを置いて岩場の方に向かった。
「滑りやすそうだから、気を付けて。手、握れないんだぞ」
「わかってるって。ん、よいしょ……」
ぼくは彩羽さんがちゃんとついてきてることを確認しながら、岩場の陰にたどり着いた。下を向いて海の生物を探す。
「んー、あんまり生き物いないな……って、彩羽?」
彩羽さんはいつの間にかぼくの眼の前に来ていた。上目遣いでじっとぼくの方をみている。そしてジリジリとぼくの方に身体を寄せてきた。
「ここ、岩場の陰、ちょうど砂浜からは見えないね」
さらにジリジリと彩羽さんは身体を寄せてくる。ぼくは一歩、二歩と後ずさり、ついに岩に背中がぶつかり追い詰められてしまった。
「ね、ここなら誰も見てない。恋人なら、ちょっとえっちなことをするかも」
彩羽さんは潤んだ目でこちらを見つめながら、手でぼくの脚をさするような仕草を見せた。10センチ離れていても、その感触が脚に伝わってきてくすぐったい。彩羽さんの吐息が荒くなってきた。唇がなまめかしい。
「ぼ、ぼくらは家族だぞ」
「でも、義理の兄妹だし」
「ち、近すぎる……離れて……」
「どれだけ近づけるか、距離を測ってるだけだよ」
脚をさする手がさらに大胆になってきた。彩羽さんはぼくの胸元に頭を寄せてきた。彩羽さんの吐息がぼくの胸にかかる。全身で彩羽さんの身体を感じる。なにも考えられない。
「……だ、だめですよ、彩羽さん……」
ぼくは必死の思いで彩羽さんの肩を押し、身体を引き剥がした。
「……あーあ、つまんないの。兄さんの意気地なし」
「……そろそろ砂浜に戻るぞ」
兄としての威厳がまったく無い。完全に弄ばされている。ぼくは極力彩羽さんの方を見ないようにしながら、砂浜へと戻った。
「海の家も行きたかったなぁ。人混みでいけないのが残念」
「こればかりはしょうがないな」
「海の向こう側に島も見えるね。私が飛べたら兄さんと一緒にあの島まで行けたかも。二人っきりになれたかもね」
「……これ以上二人っきりだとぼくの心臓が持たないぞ」
「ふふ、安心してよ兄さん、教会でも二人っきりだよ」
「……勘弁してくれ」
今日は彩羽さんにドキドキさせられっぱなしだ。家族ごっこがこんなに過酷だったとは……
ふと砂浜の向こう側を見ると、随分と人が増えてきているようだった。ぼくらはそろそろ帰る事にした。
「はい、これで今日の家族ごっこ終了!どうでしたか天宮さん、私は少し仲良くなれたと思うのですが」
「仲良くというかなんというか……」
「えへへ、ちょっと大胆すぎましたかね」
「今度はもう少しお手柔らかにお願いします……」
「考えておきます!」
ニコニコとしながら彩羽さんはそう言ったが、海の向こう側の島の方を見ると、少し寂しそうにしていた。
「でも、飛べないの、やっぱり悔しいです……」
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