突撃

黒髪の少女を探そうと思うも、似たような髪型はいくらでもいる。

ならば藍を探した方が早い、とクラスを突き止めたが、思った通り孤独らしく教室にはいない。

昼休みに図書室へ行くと、別の方から声が聞こえた。


「…………じゃ……ん……だよ⁉︎」

「な……てい……の…………」


どうやら、図書室の隣にある美術準備室から聞こえているようだ。

そこまで壁が薄いわけでもなさそうだが、相当声を荒げているのだろう。

(唯人と、藍……?)

声は途切れ途切れにしか聞こえないが、藍の特徴的な声でもう1人が唯人だとわかった。


影を薄めて図書室を出る。

それから美術室の扉を叩いた。

ずっと言い争っていたようだが、稲荷がロックをすると一気に静寂が戻ってきた。

幸い、周囲に人はおらず、図書室へ来ていた人も少ない。

それを逆手にとってか、ただ単に、なかなかドアが開けられないことにストレスを感じたのか、稲荷は無表情で拳を扉に打ちつけた。

ガンッッという破裂のような音がすると、ようやく扉が開いた。


「遅い」

「稲荷……⁉︎お前ほんと何やってんだよ……」


心底引かれながらも、ズカズカと美術室に入っていく稲荷。


「ええ、と。唯人クン?この人誰ですカ」

「……。天童稲荷。昨日の放課後話してただろ」


本当にきょとんと、忘れてしまったようだったが、唯人に名前を言われてもピンと来ていないようなオーラを出していた。


「稲荷……。天童……。てんどういなり……おいなりさん……きつね……。ハッ!天童お稲荷サンですカ!もしや、唯斗クンを落ち着かせるために来てくれたというわけですカ⁉︎」

「ちょっと待って。色々突っ込みたい」


狐と言われたことを恨みながら腕を組む。


「まず一つ、私は天童お稲荷さんじゃない。天童稲荷。分かる⁉︎」

「何でそれでブチ切れしてんのやら」

「お前、自分のこと近藤遺言って言われたらどう思う?」

「グフォッッ……‼︎」グサッ

「んで、お前は金子アリクイ」

「ハ?」

「二つ目、私は唯人だけを止めに来たわけじゃない。2人とも粛清しにきた。隣が図書館だっていうのにうるさいんだよ」

「なっ……!おま、俺の味方じゃなかったのかよ⁉︎」

「別に敵味方とかどうでもいい。とりあえず今はうるさかった」


容赦ないいいように、2人は押し黙ってしまう。


「うん、やっぱり静かのほうがいい」


稲荷は満足した表情で口端を上げ、翡翠を彷彿させる瞳で窓を見た。

決して綺麗とは言えないカーテンだが、日光に透かされて赤や黄色に色付いた箇所がステンドグラスに似ていた。


「ケホッ」


久しぶりに人が訪れたことで、埃がまったのか、藍が咳をした。


「とりあえず、出るか」


全員賛成した。

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