青春というのだろうか。

下駄箱で靴を履き替えると、ため息をつきながら足を持ち上げた。

あの時は勢いで言ってしまったものの、依頼は受ける気なかったんだけど。ともう一度深いため息をついて、外へ出た。

すると生憎の雨である。サッカー部は、いつの間にか練習を終えたらしく、ぽつぽつと帰っていくのが見えていた。

(自分には関係ないのだが)

と思い深い青の傘を差すと、遠くに雨宿りしている影を見つけて苦い顔をした。

話しかけようか迷っていると、


「天童―――!」


とその場所から手を振ってきた。

その場所に鬱で歩いていく。


「天童お前、俺の事傘に入れるかどうか迷ってただろ」

「うん。じゃ」

「じゃ、って……。お前、こうなったからには俺も入れてけよ」

「いや……」


曖昧な返事をすると、準はぷいっと顔をそむけてしまった。


「なんだよ。俺と入るのがそんなにいやかよ」


すねた子供のようだったので、笑うのをこらえると、一息置いていった。


「そういうわけじゃない。有島さんが好きなら、勘違いされない方がいいかと思って」

「ああ……それか」


思った反応と違うので、稲荷はぎょっとして準を見た。


「もう違うんだ」

「違う?諦めた?」

「諦めたんじゃない。俺、変えたんだ」


意味ありげに呟いた。

変えた、といった顔は真っ直ぐ稲荷に向いていた。


「良かった」

「え?」

「自惚れないでほしいけど、少しだけ気がかりだった。吹っ切れたみたいで良かった」

「っっ……。そういうのほんっと……」


顔をそらしたまま、耳を赤くし、こちらを睨んでいった。


「それよりとにかく、傘入れてくれ」

「―――……。いいけど」

「今の微妙な間はなんだ⁉微妙な間は‼」


ようやく自分のペースをつかめてきたのか、いつもの準に戻った。

するりと傘の中に入ると、稲荷から傘の持ち手を奪う。


「あ」

「なんだよ。天童のほうが数センチ小さいんだろ」

「はっ、なんでそれを……」

「俺の方が一枚上手だったな」


陽気に笑ってしばらくすると、沈黙が訪れる。

稲荷は口を開く。


「そういえば、もう一つ依頼受けてしまった」

「は⁉」


依頼内容を言おうか迷ったのだが、準ならまあセーフだろうと稲荷は考えたのである。

さっきあった出来事を洗いざらいすべて話すと、準はジト目で複雑そうな顔をした。


「へぇ。その近藤ってどんな奴だよ」


その疑問が来ると思わなかったので、驚きながら答える。


「森と違って純粋そうなやつだったよ。絵しか興味ないみたいな」

「あのな、俺の事なんだと思ってる?」


歩き始めると、肩が冷たくなった。

濡れていると気づいて、少し内側による。

すると準と肩が当たってしまう。

慌てて離れると、肩に水滴が落ちてこなくなった。

その代わり、準が傘からはみ出ていると分かった。


「はぁ、その傘貸すから、明日返して」

「え別に少しくらい濡れたって……」

「それでなんも言わない奴がいるか」


稲荷はじゃ、というと家の方向に走り出した。

運動は苦手なのか、そう早くはなかった。が、準が声をかける勇気を出す時間ほどなかった。


「…………」


そのまま、準はとぼとぼ歩いた。

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天才は人知れず目を伏せる。 いなずま。 @rakki-7

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