甘酸っぱい、幸せ恋物語。後編

「―――久しぶりだな。夏凜」

「お、お久しぶりです……」


3年ぶりに先輩と話すと、声のトーンが変わったなとか、頼られるリーダーな感じになったなとか、失礼なことを思ってしまう。

けど、やっぱりこうして私と会ってくれているあたり、昔から性格は変わっていないんだろうなぁ。


「率直だけど……手紙、読んだよ」

「………」

「返事は……ちょっと話をした後にしようか」


もったいぶらした先輩は、いたずらににやりと笑った。

その笑顔が、私には輝いて見えた。

私がブランコに座ると、キキィ、ときしんだ。

スカートが濡れるかもしれないけど、そんなことは今気にしていられない。


「初めて話したのは、あれか。夏凜がいじめられてた時か」

「……はい」


私は俯きながらつぶやく。

すごく気まずい。恥ずかしい。

でも、自惚れかもしれないけど、期待で胸がいっぱいだった。


「後付けになっちゃうし、結構申し訳ないんだけど……。俺さ、気づいてたんだよね。夏凜が俺の事好きだって」

「えっ⁉」


思わず先輩の顔を見た。

申し訳ないというか、気恥ずかしいというか、そんな表情で、先輩もまた私のことを見ていた。


「バレンタインもそうだったけど、夏凜って、俺以外の奴には言わない事するからさ」

「―――‼」


完全にやらかしてた。

恋は盲目というように、私は完全に先輩のことしか考えていなくて……。

考えただけでも、顔が真っ赤になる。


「夏凜って、そういう性格だからさ。真面目で一生懸命で、頑張ってるけど躓いちゃう……みたいな。でも、応援したくなる」

「ありがとうございます……」


その後、しばらく小さな沈黙が訪れた。

小ぶりの雨がやけに大雨に思える。

やがて、深呼吸が聞こえた。


「そういうところが、昔からほかのやつとは違う、特別な存在だった」

「―――‼そ、それって……」


顔が噴火しそうなほど赤い私に、先輩がゆっくり近づいてきて、そっと、私の頭を撫でた。


「返事はもちろん、OK」


ひひっ

先輩が美しく笑う。

それを見た私は、堪えていた涙が溢れてきてしまう。


「うう……ご、めんなさい―――」

「泣くなって。ほんとに夏凜に告白させちゃって申し訳ない」

「全然、そんな……。むしろ、こんな私なんかを好きになってもらって……」


その後、急に先輩の声がしなくなった。

そう思った直後、静かに告げた。


「そういうの、禁止。俺以外だって、夏凜が特別な子だった人はいるんだから」


言っている意味が分からず、先輩の顔を見上げる。

顔が向いている方には、誰もいない。

ゴミ捨て場があって、家の壁が、私から死角になるような位置にあった。



幸せだ。


もう、これ以上はないって程に。


気が付けば雨がやんでいて、私たちを祝福するかのように、空に虹が浮かんでいた。

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