甘酸っぱい、幸せ恋物語。前編
小学生4年生のころ、私がバスケ部に入ったのは、友達の誘いがきっかけだった。
人見知りな私の数少ない友達だから、断れなくて、見学だけでも、という流れになってしまった。
その日は土曜日で、「本読みたかったなぁ」と思いながら、絶対に口には出せないけど、入部する気はなかった。
でも、あの日、太田先輩の練習を見たから。
あんなに人は一生懸命になれるんだ、と思って。
憧れて。
周りの人たちも、もちろんすごい。
だけど、その中で輝ける先輩が美しく見えた。
ただ、その時はただの憧れに過ぎなかった。
正直なところ、私はいじめられっ子だった。
その原因は、この陰キャのような性格にもあるけど、一番の理由は、有島家の娘だということ……親が、有名な出版社の社長とバレたことだった。
私の態度が、気取ってる、ほかの皆を見下していると言われた。
上靴に落書きされたり、教科書が無くなることはなかった。
でも、賢くて、言葉の暴力が毎日続いた。
泣きたくなったけど、耐えた。
なにより、バスケ部内でそういうことを言う子はいなかったから、心の支えだったというか。
でも、いじめに気付いていても、みんな見て見ぬふりしていった。
聞いてくれる人はいたけど、「そっか」とか、「頑張って」とかで、心からの言葉は見られなかった。
しかし、やっぱり憧れの先輩は一味違うな、と思う。
いじめられていると気づいたら、大事な練習前にこっちに来て、こう言った。
「いじめの事だけど。今まで気づかなくてごめん。でも、俺は後輩がみんな大事だから。もちろんお前も。それだけは覚えておいてほしい」
真面目というかなんというか、頑張り者の先輩は、そのまますぐに練習に戻っていったけど、すごく、すっごく心が救われた。
もし私が後輩の中の一人だったとしても、先輩の眼中に入れたことが嬉しい。
そう思うと、これって……。
初めて、憧れ以上の気持ちだと知った。
その心は覚めることはなく、中学二年生になった今でも同じだ。
それまで、控えめながらいくつかアプローチをしてみた。
バレンタインに義理とか言いながら本命渡したり、バスケの手合わせお願いしたり。
もちろん、バスケが上手くなりたかった。
そんな私が演劇部に入ったのは、あそこなら自分も輝けるかなって思ったからだ。
正直、バスケで上を目指すのは無理だ。
それに演劇も極めたい。
そういう欲が出てきちゃったから……。
そして今は、小学生から幼馴染の準君と、大事なところでサポートしてくれる天童さんっていう仲間がいる。
すごく安心できる。
もし失敗してしまっても、あの二人なら、慰めてくれるだろうって。
火曜日の今日、朝早くついて、先輩が来る前に下駄箱に手紙を仕込ませた。
上手くいきますように。
今の私には願うことしかできないけど、きっと、大丈夫。
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