第3話 みかん農家の子
「勇者マーカスとその一行よ、まさか
国王ジャヌスは、傷だらけで
「だがともかく、本日は貴殿らの健闘をたたえよう。よく無事に帰った」
国王の左右に列をなす騎士たちが、ざっと剣を胸の前に構えた。戦場の英雄をたたえる、アリアネス王国の慣例である。
国王が、ひとりひとりの前に歩み寄る。
「勇者マーカス」
マーカスは小さくうなずいた。28歳にしてすでにこの国の伝説的な英雄となっている彼は、この儀式にも慣れている。
「聖騎士グロリア」
いつもは冷ややかな表情のグロリアも、騎士として名誉をたたえられるときには顔は上記する。美しい花がわずかに色づき、
「戦う僧侶のバヌス」
バヌスはつるつるの頭に手をやって恐縮した。
「魔法使いのカールゲン」
カールゲンは無表情だ。深い
そして、このお
「そして、総理大臣のフジタよ」
藤田は背筋をぴんと伸ばして落ち着いていた。
グロリアが使いの
異世界召喚の知識・・・そして若いころに熱心にプレイしたファンタジーRPGの知識を思い出し、適応しようとする。適応は、彼の特技だ。どんな派閥にも、すぐに
落ち着き払っている藤田とは対照的に、国王はジロジロと藤田を見ていた。
「ときにフジタよ、そなたは究極召喚によってこの世界に呼ばれたと聞いているが、総理大臣とはいったい何なのだ?」
「総理と呼んでいただいて結構です、陛下」
「ソーリ・フジタ」
国王は繰り返した。
「光栄です。総理とは、政治家の一番の責任者・・・恐らく、
「宰相?」
国王の言葉にはまだ疑念が宿ったままだった。
「宰相・・・この世界では、誰もがなれるものではない。そなた、高貴な
「いいえ、みかん農家の子です、和歌山の。下積みから、総理にまで出世させていただきました」
「みかん?」
「ええ・・・オレンジみたいなものです。この国に、ありますでしょうか?」
「ああ・・・」
国王は理解を示すと同時に、不理解も深まっているようだった。
「この世界では、相当に難しいことだ。農家の者が一国の宰相になるなど。正直なところ、そなたにそれほどのカリスマがあるとも思えぬ・・・失礼ながら。そなた、得意な能力は何か?」
「
藤田は胸を張った。一方で、国王の失望は深まった。
「調整力?」
「はい、我が国のような民主主義国家では、派閥をまとめるのに特に重要となるものです」
「よくわからぬが・・・調整力とやらは、魔王を倒す助けにはなるのか?」
藤田は胸を張ったことを後悔し、顔を曇らせた。
「それは、まだ分かりません・・・」
「だろうな」
国王はマントを翻すと、藤田のもとをはなれ、玉座へと戻った。
ソーリ・フジタ—-まったくもって、理解不能な存在だった。究極召喚で呼び出されたのが、こんな貧相な男とは・・・さすがの勇者マーカスたちも、これでは魔王に勝てないだろう。
「国王陛下!」
衛兵が赤いじゅうたんの上を息を切らしてかけてきた。
「悪竜ユムドギヌスが、街に攻撃をしかけてきました」
その報を聞いて、国王は
「まさに、泣きっ面に
「悪竜ユムドギヌスめ・・・我々が見逃してやったのをいいことに」
勇者マーカスは、忌々しげにつぶやくと、国王のもとへ一歩足を踏み出した。
「我々が、再び
「ああ・・・正直なところ、それしか手がない」
国王はうなだれるように言った。マーカスは剣の
「いくぞ、グロリア、バヌス、カールゲン・・・そして、ソーリ・フジタ」
「私も?」
藤田は思わず自らを指さしながら問い返した。
グロリアが、半ば藤田の首根っこをつかみみながら、半ば引きずるようなそぶりをした。
「そもそも、あんたのせいでこうなったんだからね。」
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