にゃんこちゃんの恩返し

山川陽実子

第1話

 吾輩は猫である、と彼女は言った。

「いやいや、君どう見ても人間でしょ?」

 俺は目の前の猫耳を付けた少女に言った。背中のあたりにゆらゆら長いものが見えるから、ご丁寧に尻尾も付けているらしい。

 玄関先に立つ彼女は、俺の返答が気にくわなかったようだ。

「猫であるったら、猫であるー!」

 彼女は地団駄を踏んだ。その様子がちょっとかわいかったが、そんなことは置いておかねばならない。

「学校でなんかの罰ゲームでもやらされてんの? もう遅いから帰りなさい」

「猫である!」

 そう言った瞬間、彼女はマンションの共有廊下から飛び降りた。

「ちょ、ここ2階……!」

 下を覗き込むと、彼女はたしっと無事に降りて、少し考えこむ様子を見せた後、階段を登ってきた。

「恩返し!」

「うわあああっ!?」

 彼女が差し出してきたのは、獲りたての鳩だった。

「返してきなさい!」

 そう叱ると、彼女は首を傾げながら鳩から手を離した。

 飛び立っていく鳩を眺めながら、俺は思い出した。

「君、もしかしてあの時俺が助けた猫……?」

 彼女は頷いた。先週、野良猫に絡まれていたキジトラの子猫を助けたことがあった。

 彼女は満足そうに頷いた。そして恩返しと言うわりには偉そうにふんぞりかえった。

「その猫である!」

 俺は頭を抱えた。

 どうすんだ、こんな化け猫みたいな女の子……

 その時、家の中から声が聞こえた。

「ハヤトー、そろそろご飯だよー」

 俺は振り返って顔を上げた。

 俺の下僕の、人間の子供が、キャットフードのパウチを持って出てきた。ご丁寧に俺の好物のちゅーるも持っていた。

「あら、かわいい猫ちゃんがいるね。ハヤトのガールフレンドかなー?」

「にゃあ」

 猫の鳴き声がして、驚いて声のした方を振り返ると、そこにはあの時助けたキジトラの子猫がいた。

 人間の子供が彼女に手を伸ばした。

「ハヤトのガールフレンドも一緒に飼っちゃおうかなー」

「ま、待て! これは俺のガールフレンドなんかじゃ……」

 と言っても、この下僕は俺の言葉が通じないのだ。

「にゃあー」

 彼女は子供に擦りよった。そして俺の方を見て言った。

「にゃあ! にゃあーにゃにゃあ!」

「は? 『あの時のお礼にお嫁さんになります』? いや、恩返しで嫁になられても困るんだけど?!」


終わり

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にゃんこちゃんの恩返し 山川陽実子 @kamesanpo

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