第22話

 今頃千尋はどうしてるんだろう。


 昼休みのあと、少し授業があった後はすぐに放課後を迎えた。昼にした約束を反故にしては、明日の自分の安否とりつちゃんあたりの情緒が心配だったから、僕は女子二人を侍らせながらアイスを舐めている。


 


 「光くん、ぼうっとしてどうしたの?バニラミルク味美味しくなかった?」


 「バニラミルク味が美味しくないアイスなんて存在しません。千尋は今頃どうしてるかな、と」


 


 ミルクと書いてあれば大体のものはおいしいのだ。


 聞いてきたのはここ先輩なのに、驚いたような顔をしてこちらを見つめてくる。


 


 「なんです?」


 「光くんって人の心配するんだ」


 「僕をなんだと……」


 


 口では否定したが、ここ先輩の指摘は僕の思考を支配するくらいに衝撃的だった。いつぞやの自分は、心底どうでもいいと考えてはいなかっただろうか。少しくらいなら心配してもいい、とも考えていたが、可愛い先輩と面倒だけど可愛い後輩と遊んでいるときでさえ、千尋のことを心配するほど僕は情に溢れていただろうか。


 


 「千尋くんも小白ちゃんも残念だったね。誘ったけど学校に用事があるって断られたの」


 「千尋は中原くんと話すそうですよ」




 遊びに誘ったときに教えてくれた。前までだったら知りたくもなかったけど、今では教えてくれたことに安心している。確信する。僕はどこか変わった。その事実に、少しの嫌悪感を覚える。




 「お兄さん!一口下さい!」


 「りつちゃん、僕と一緒の味にするって言ってなかった?」


 「そうですよ?」


 「一口分けてもらうのってね、いろんな味を食べたいからするのであってそれ自体が目的なわけではないんだよ」


 「でも私が目的としているのは味ではありません!」




 押しが……強くなってる……。最近相手しすぎたかな?そろそろ距離を取らなければまずいところまで来ている気がするけど、人と仲良くなるのなんて久しぶりで、距離の取り方など知らない。いや、ただの言い訳だ。どこか居心地の良さを感じているから、誘いに乗ったのだ。




 とめどなくあふれ出す自己矛盾から逃れるために、りつちゃんの相手をすることに集中する。




 「食べていいよ」


 「食べさせてください」


 「そういうのは恋人かしろちゃんとかの女友達としなよ」




 これ以上押しても何も出てこないことを察したのか、大人しく受け取って一口食べて、何か違うみたいな表情をする。味一緒なんだからそりゃそうじゃん。




 「しろちゃん、なんで来れないとか言ってた?」


 「学校に用事がある、としか聞いてません」


 


 ふと、湧いた疑問を声に出す。本当に知らないのだろう、簡潔に答え、今度はここ先輩と食べさせあいを始めるりつちゃん。それ僕のバニラミルクじゃない?なんで?




 「聞きたいことがあるんだけど」




 二人に向けて言ったため、どちらが受け取ってもおかしくはなかったが、敬語を使っていないことから自分に対してのものだと捉えたりつちゃんが反応を返す。


 


 「はい!何でも聞いてください!」


 「しろちゃんって呼び方、僕以外に聞いたことある?」


 


 随分いきなりの質問だったし、戸惑われたりすることを想定していたが、答えはすぐに帰ってくる。たぶん、りつちゃんもどこか不思議に思っていたのだろう。


 


 「聞いたことありますよ」


 「そっか」


 「それ以上は聞かなくていいんですか?」


 「あまり愉快じゃない予想をしているから、これ以上聞いたら現実になっちゃう」


 「悪い方向の心配をするんですね」


 


 そういう性格なのだ。こればかりはどうしようもない。千尋の話だって、心の奥底ではもっと愉快で感動的な真実を考えていたけど、しろちゃんに話したのは現実的な予想だった。


 


 「光くん、携帯鳴ってるよ」


 「あ、すいません、出ますね」




 色々なことを考えていたら、着信に気付かなかった。ここ先輩が教えてくれなければ、鳴りやむまで放置していただろう。


 画面を見ると、千尋からの電話だった。

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