第14話

 昼休み。




 「おい、昼どこで食べるんだ?」


 「一緒に食べるのはいいけど、普段一緒に食べている友達はいいの?」


 「あぁ、休み時間に声かけといたから大丈夫だ」




 さて、本格的にどうしよう。ここ先輩を追い返すのは一度考えたがさすがにかわいそうが過ぎる。幼い……可愛らしい見た目で罪悪感マシマシである。まぁ、適当にほかの空いている教室で食べるか。普段使っている小さな教室は、二人人間が居ればそこそこの空間充填率になるけど、その分同じような教室がいくつか用意されている。3年生が面接練習に使ったり、あとは吹奏楽部が使うかしか活躍の場面は見たことがないから、どこを使っても文句は言われないだろう。




 「ねぇ……千尋くん」


 「お?なんだ?」


 


 出していた教科書をしまいながら考えていると、名前も憶えていない女子が話しかけてくる、僕にではなく千尋に。


 


 「その、下級生の子が光くんを呼んでほしいって言ってるんだけど」


 「えっ」




 思わず声が出た。十中八九しろちゃんだけど、何かあったのだろうか。あとなんで僕じゃなくて千尋に声をかけたの?嫌われているのかな僕。


 入口に目を向けると、長い前髪で目元を隠したりつちゃんがこちらに向かって大きく手を振っていた。何してるのりつちゃん、さすがに恥ずかしくないかなそれ。


 


 「おい、義妹ちゃんではないだろ?誰だ?」


 「怖い友達」


 「いやまぁ確かに不気味ではあるが……目元とか」




 わかる。




 「お兄さん!お昼一緒に食べませんか!」


 


 待って、声でかい。めっちゃ目立ってる。りつちゃんの後ろで申し訳なさそうに佇むしろちゃんもどこか恥ずかしそうだけど、嫌な顔はしていない。まあ表情に出ないから勘でしかないけど。


 


 「すごい子だな」


 「そうだね、千尋、行こうか」


 「えっ」


 


 お前マジで?みたいな顔をしているけど、先に一緒にお昼を食べようといったのは千尋だ。せっかくだししろちゃんのことも紹介して、りつちゃんについて実際に見てもらおう。


 呼んでくれた女子に軽く礼を言って、弱弱しく抵抗する千尋を引っ張りながら二人のほうへ向かう。下級生が上級生の教室まで来ることは珍しいから、割と目立っていた。女子生徒はリボンの色で学年が判別がつくし、しろちゃんは新入生代表で顔が割れているから余計に。でもこの場で一番目を引いているのはりつちゃんなんだけれど。




 「すいません、にいさん。りつがにいさんと一緒に食べたいと言って聞かなくて」


 「いや、構わないよ。僕の友達も一緒だけどいいよね?」


 「もちろんです!どこで一緒に食べますか?この教室で食べてもいいですし、私たちの教室まで来てもらっても私は大丈夫ですよ!」


 「ごめん流石に俺が勘弁したい」


 


 千尋が苦言を呈したことについて、僕は深く同意する。せっかくだしここ先輩も巻き込んでしまおう。ここ先輩もしろちゃんのことは気になっているだろうから、ここまで来たら寧ろ都合がいい。












 「小白ちゃん可愛い~~~!」


 「すいません箏先輩、食べにくいです」


 「食べさせてあげるよ!いいでしょ!?」


 「嫌ですが」




 「千尋先輩とお呼びしていいですか!?私今まで先輩と仲良くしたことがなくって、そう呼んでみたかったんです!」


 「別にいいが、それ中学の時は―――」


 「今までは部活に入ろうにも、なかなか勇気が出なくて。小白ちゃんは部活に入る気がありませんでしたし、というかそもそも私と仲良くしてくれるわけもありませんから部活に入ろうがどうせ先輩と呼ぶ人なんて出来ないんですけどね……」


 「人の話を聞かねぇな君!?」




 思ったより仲良くやれているようで僕は嬉しいよ。しろちゃんと千尋は割を食っている感じがするけれど、人生経験だよね。




 「にいさん、食べないのですか?」


 


 ここ先輩の拘束から逃れたしろちゃんが僕の方へ避難してくる。いやよく見たら逃れられていない。背中にへばりついている。


 


 「朝ちゃんと食べたら、これだけで十分になっちゃって」


 


 そういって手元の牛乳パックを指先で軽くつつく。最近は昼はこれで済ませることが多いから、ここ先輩からも最近指摘されたばかりだ。


 しろちゃんが分かりやすく眉を寄せるのが見えたから、先んじてここ先輩に話を振る。




 「ここ先輩、そんなにしろちゃんのこと気に入りました?」


 「しろちゃんって小白ちゃんのこと?もちろん!だって私部活とか面倒で入ってないから、後輩とまともに話す機会なんて光くんくらいだったし!でも光くんにこんなことしたら本気で嫌がられそうだからさ~」


 「私も嫌がってますが」




 女子特有のスキンシップを後輩としたかった、みたいな感じなのかな。しろちゃんも本気で嫌がっているわけではなさそうだし、慣れているのかな。




 「ていうか光くん、前も言ったけどお昼はちゃんと食べないと駄目だと思うよ?」


 「私もそう思います」


 「おっと、千尋が呼んでいる気がする」


 


 一瞬で結託して僕のお昼事情を咎めようとしてきたから、先ほどからすぐ近くで僕に助けを求める目線を向けてくる千尋の様子を見る。




 「千尋先輩はお友達多そうですよね、私なんて優しい小白ちゃんとお兄さんくらいしかお友達がいなくって……」


 「反応しづらいけど、目元を見えるようにしたらもうちょい―――」


 「でもでも!高校に入学してこうして小白ちゃん以外の人とも話せて嬉しいんです!」


 


 人の話をもう少し聞こうよ。


 


 「りつちゃん、今日は誘ってくれてありがとう。でも今度か直接教室に来て大声で呼ぶのはやめてほしいな」


 「わかりました!じゃあ毎日ここに来ますね!」


 「そういう意味じゃねぇと思う」


  


 その通りだマイフレンド。代替案が重いよ。




 「連絡先交換してLINEとかで誘ってほしいな」


 「いいですか!?ありがとうございます!」


 「にいさん、それはやめた方がいいかもしれません」


 


 割って入るしろちゃん。なんでだろう。


 


 「なぁにぃ?小白ちゃんは光お兄ちゃんが獲られると思って嫉妬してるのかなぁ~~~?」


 「違います、あと私の下から絡みつくように抱き着くのをやめてください怒りますよ」


 


 そう言われるとここ先輩はしゅん、として離れていく。そして千尋にちょっかいをかけようとしているのか、一息ついて購買のサンドイッチを口に運ぶ後ろからゆっくり忍び寄ってる。はしゃぎすぎではありませんか?




 「りつは一日で軽く百件はメッセージを送ってきます」


 「ひやく……?」


 「えへへ」




 えへへじゃないが。




 「そして返信しないと勝手に病みます」


 「うわめんどくさ」


 「だって私友達が小白ちゃんしか居ないんですよぅ……お兄さんもLINE交換してくれるなら半分で済みますよ?」


 「ごめん、毎日ここで食べようね」


 


 申し訳ないが時速四件以上送られるLINEよりかは学校のある日に相手をした方がマシである。というかしろちゃんは今も毎日そのLINEの相手しているの?よく縁切らないね。




 「小林先輩っ、それ俺のサンドイッチっ、おい待て!」


 「ふふーん、私体育の成績もいいんだよね」


 「人の昼飯奪って遊ぶとか小学生でもやらねぇって!」




 さっきから何してんのここ先輩。


 


 「ここ先輩」


 「えっ……何かな、光くん」


 「はしゃぎすぎだと思います」




 少し強めにいうけど、どこまで効果があるかはわからない。なんならついでに僕までおちょくりだしそうだが、それはそれで千尋から意識がそれるからいい。




 「ごめんなさい……」


 「そんな素直なことあります?」


 「だってぇ、加減とかわかんないし……光くん本気で怒ってるかどうかの区別付かないから怖いし……」


 「それは俺もわかりますよ、こいついつも平坦だし」


 「小白ちゃん!私もあんな感じで友達と遊んでみたい!」


 「りつ、やめましょう。せめてにいさんか千尋先輩相手にしておきましょう。にいさんが怒ったところは見たことがありませんし、私の見立てでは思ったよりも人に甘いのでおすすめです」


 「僕の牛乳は渡さないぞ」




 ていうか教室せっまい。今度ほかの場所探そう。

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