第15話 隠された真実と大人すぎる3歳児
樹
陸に言われた病院の待合室に行く。
「陸!」
元々ひ弱な顔した陸は更に眉を下げて、泣きそうになっていた。
「…いつき……っ、」
「ひなちゃんは?」
「なんか……お父さんと…お母さんが来て…とりあえず大丈夫だからって…。」
「何が原因だったの…?貧血とか?」
「いや……そんなじゃなくて……急に、ん゙って言い出して胸抑えて倒れ込んで……。そこからはみるみる顔色が悪くなって…意識がなくなっちゃって……っ、」
まぁ大丈夫だ、信じて待とう。なんて、そんなこと言えるような状況じゃないということは分かった。
「……なんか今日に始まった事じゃないみたいなんだ……」
「あの……」
横から、少し年上の女の人が来た。
「あ、お母さん!」
「娘がご迷惑をかけてすみません……」
「いえ!……でも、俺…心配で……」
「あの……娘が直接謝罪したいから部屋の方に来て欲しいって言ってまして……」
「……行ってこい、陸。ここで待ってるから。」
「……うん。」
若干雰囲気も相まってか暗がりの待合室から2人が消えていった。
……とは言っても、俺としては気になるもので。俺の中の善と悪が喧嘩した結果着いてきてしまった。
部屋に近づくと窓が空いていたからなのかよく声が聞こえたため、俺はその辺の壁にもたれ聞き耳を立てた。
「……大丈夫…?」
「うんっ!もう大丈夫!」
「……点滴…」
「あー、、念の為ね?」
「……なんか病気があるの…?」
「まぁちょっとしたものだけどね?」
心配しきった陸の声とは正反対な明るい声。
「……心臓、、心臓が悪いの?」
「え、?」
「胸、こうやって押さえてた、痛そうだった……苦しそうだった……」
「あー…いや、」
「教えてよ!隠さないで、」
「……陸くん。」
「なに?」
「……やっぱり付き合えない、考えるって言ったけどやっぱり付き合うのはやめよ?」
「なんで?なんで今その話するの?」
「断るタイミング無さそうだし?やっぱり陸くんは彼氏というか友達って感じで、」
「……やっぱりそういうこと?」
「……」
「大きな病気なんだよね。だから、隠すんだよね?だから、」
「……作りたくないの!」
「え?」
「大切なもの……作りたくない……。」
「なんで…?」
「だって……守れなくなった時……辛くなるから……」
「守れなくなった時……って、なに…?」
「……私は生まれつき心臓に大きな病気がある。何度も手術してたくさん傷があって……。たくさんの薬を飲んでるし…年に1度は大きな発作が未だにあって……いつ、そのまま亡くなっちゃうかわかんないの。」
「え……っ」
「……いつ死んでもいいように……しとかなきゃ…」
俺は残酷すぎるこの子の人生に天を仰いだ。テレビではよく見た事があった。悲劇のヒロインが病気でそれでも献身的に支える彼氏が、…王道のストーリーだ。でも現実はそう甘くない。この子は生まれた時から色んなことを経験してそして、人生をある程度諦めた上での言葉なんだと思う。
俺ならなんと声をかけるだろうか。そう考えていると、
「……ひなちゃんが守ることは考えなくていい。」
「え?」
「俺が守る。だから、自分の身体のことと人生楽しむことだけを考えてよ。」
……強かった。あの時のあいつは強かった。
「俺、ひなちゃんのことが好き。もちろん、結婚したいって思ってる。心臓のことなんて関係ない。」
女の子のすすり泣く声が聞こえた。
「まだ俺学生だし、今は安心させれるものは何も無いけど、この先働いてお父さんもお母さんもひなちゃんも安心させて、そして絶対ひなちゃんと結婚する。」
「だから、何も考えず俺の隣で笑ってて。」
「……なんだよ、あいつ。……ちゃんと応用効かせれんじゃん、」
俺はまた待合室にもどった。
それから向こうのご両親にも挨拶しに行って、4年くらい付き合ったんだっけ。そしてめでたくゴールインだよ。時々、ひなちゃんの体調が優れなくて、デートの途中で帰ってきたりとか、そもそも行けなかったりとかしてたけど、大きな発作もなく長く入院することも無く生活できてたんだ。
でも医師は、心臓のことを考え出産は控えてるようがいい。そういう見解だった。まぁ元からね、そうだって聞いてたし、驚きもなかったけどさ?
「ひなが居てくれれば十分だからァ~」
陸もなんて蕩けた顔して笑ってたな。俺が見てると恥ずかしくなるくらい仲良くてさ。結婚不適合者だと思って独り身だと決めていた俺だけど、少しだけ結婚もいいかなって思ってたんだよ。
「子供を作りたい。私が死んじゃったら陸が1人になる。そうなったらきっと陸はだめになっちゃう。それ嫌なの。」
真剣な顔をして俺にそう相談されてさ。俺も陸もだいぶ止めたんだけど、ひなちゃんの意思は固くて結局望むことにしたんだよね。妊娠発覚からもう俺は自分の事のようにドキドキで、1番楽観的だったのはひなちゃんだったと思う。
「大丈夫、大丈夫~」
って陸を始め、俺や向こうのご両親も生きた心地がしなかったよ。でも妊娠中期くらいから少しずつ小さな発作が増えてきて、入退院を繰り返してた。
そして出産のとき、大きな発作が出てしまって本当に命が危ないってなって、手術室の前で陸が声を出して泣いてたのを覚えてるよ。
でも、目を覚ました時、ひなちゃんは
「あぶなかったぁ~」
って笑ってたね。
「もぉ……っ、ばぁかぁあ……っ」
どっちが男で女なんだか。そんなツッコミを心の中でいれたよ。生まれたのは、それはそれは可愛い男の子。
「ダメだ可愛すぎる……」
「おい、陸。親バカが過ぎるぞ、」
「だってうちの子が最強に可愛いんだもん!」
「いっちゃんも、結婚しなよー!結婚生活最高だよ?」
「いやぁ…俺はいいわ。二人の子供を自分の子供だと思って育てるよ、」
ほんとその言葉の通り俺は休みの度にはるに会いに行った。でも出産を機に少し平均的に発作が増えてしまったひなちゃんはよく入院するようになった。やはり出産は心臓に大きな負担だったみたいだった。
ひなちゃんにつきっきりになる陸人に変わって俺がはるを見る。小さな男の子を預けられるのは、大変な事だったけど、陽翔はほんとあまり泣くことも無く本が大好きな子だったからやりやすかった。
まぁ、何冊音読してんだ俺。って思うことも多々あったけどな。人見知りが激しいところもあったけど、結構な頻度で俺が見てたからなのかよく俺の服をぎゅーって握って寝てさ。
「……かわいいなぁ。」
夜中は起こさないようにとよくトイレを我慢したもんだ。
「ねぇ、陽翔は誰に似たんだろ。」
「私よ、きっと」
「いや、ひなでは無い、俺だわ」
「いや、陸は違う!」
……どっちも違ぇよ。幼稚園ではもう読み書きが出来てるくらい賢かったんだけど、唯一苦手なことがあった。……心が弱かったんだ。お友達も上手く作れなくて、繊細だった。内向的で失敗を恐れる子だった。身体が小さくて運動も得意じゃないけど、お友達が作りたい一心で一生懸命がんばって、
「樹、明日在宅ワーク?」
「そうだけど?」
「陽翔が熱出しててさ…」
「あー、また熱出したの、」
「うん、また頑張りすぎたかなぁ、」
真っ赤な顔をした陽翔を預かる。珍しい話では無い。月に2~3回くらいはこうして熱を出していた。
「よわくて、ごめんなさい……っ、」
ゴホゴホと咳をしながら、何度も謝る3歳児。しんどい時はしんどいでいいんだけどなー。
俺の胸の中で生理的な涙を流しながら、寝たり咳き込んで起きたりしながら唸ってる陽翔に向けて思う。
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