天に届け〜俺らの想い〜
天馬るか
第1話 おはよう
高橋陸人。39歳
ピピピ…、、、ピピピ……
んん……。右耳から世界一嫌いな音が聞こえてくる。あぁ、さっきまでいい夢をみてたのになぁ。
ピピピ…、、、ピピピ……
「ああ……起きるって………」
メガネ…メガネ………………zzz…
はっっ!!寝てしまうところだった……。………zzz…………。
「パパ―」
男の子にしては少し高い優しげな声が届く。
「おきてる……zz…」
「いや寝てるでしょ。」
起きる気持ちはあるんだよ。寝返りを打って、四つ這いになってメガネを探したんだから。でも眠気の逆襲にあった俺は手の力が抜け、顔は枕へと戻っていった。俺の善の心がなんとかお尻だけは頑張ってあげている奇妙な体勢だ。
「はると……パパの手引いて……起きれない」
18歳の息子に左手を伸ばし、頑張って左目だけ開ける。
「もう…しょうがないなあパパは…」
ふふ、と笑い優しい陽翔は俺の左手を持ち、肩を痛めないようにと反対の手で体を支えてくれた。
陽翔は家の中では一番のしっかり者。温厚で家の中では一番のしっかり者。小学校の低学年を最後に、俺が朝起きろなんて言いに行ったことがない。父親が何を自慢げに、という感じではあるが。
「パパ、おはよう。朝ごはん出来たよ?」
確かにお味噌のいい匂いが俺の鼻に届く。幸せになった俺は、頑張って両目開けて長男の後ろについて行った。
そんな長男はリビングに行きキッチンに立つ。
「パパ、お味噌汁いる?」
「うん!」
「ちなみに今日はジャガイモ入りだよー」
「え、食べたい食べたい!」
「あはは、やっぱりパパはジャガイモ入りのお味噌汁が好きだねー」
陽翔がニコッと笑ってくれる。
「最初は邪道だと思ってたんだけど、ママが騙されたと思って食べてみて!って言われて食べたのがはじまりなんだ。」
「え、ママがはじまりだったんだ!初耳!」
「そうだよぉ。」
「…パパ、鼻の下伸びてるよ。」
「、、、伸ばしてんの!」
散々二人で笑いながら話して、俺はもう一人の息子の所へと向かった。
コンコンコン……
「照ー。」
「……zz……」
ベッドに近づいてクッションを抱えて横たわっている次男に近づく。トントンと身体を叩けばゆるゆると目を開けた。
「…ん……」
「おはよ、照。」
モゾモゾ動いて、ゴシゴシ目をかくのは昔から変わらない照の癖。ゆっくりと体を起こしていく姿を眺める。
「よく眠れた?大丈夫?」
まだぼーっとしているのか瞬きが重い。横に置いてある小さな機械を照の指に……
「……触んな、」
手に触れるとこの怒り様。
「勝手に触んな、自分でするから」
「いいじゃん、パパがしてあg」
「ほんとキモい、うざい。いつまで子供扱いすんの、だるいから。」
起きて早々キレ気味な照。6月に16歳になった高校一年生。…反抗期なんだよねぇ。これも一般的に成長している証拠か…と綻んでしまう俺は、相当な子煩悩だと自負している。
「わかったわかった、また後で教えてね?」
興奮させるのも良くないってことで一旦引くことにした。そう言って顔を見ても何も答えず睨んだまま。
「…服着替えるから早く出て行って」
と催促されて、
「絶対教えてよー。」
またうざい捨て台詞を吐いて俺はリビングに戻った。
「あ、おはよう。樹。」
「おはよ」
高橋樹。俺の一つ上のいとこ。昔から仲が良くよく二人で遊んでいたんだ。なんでもできちゃう俺のお兄ちゃん。今は大手会社に勤め全国を飛び回るエリートエンジニアだ。年中出張が多い樹は、家賃がもったいないと俺らと一緒に住むことになった。男手一人だけじゃ何かと不便だから、こんな時こそ頼れよ。ってそう言われて今の形になったんだ。
「照は?どうだった?」
「子供扱いするな!!ってやつ。」
少し声を真似て声色を下げる。
「あら、機嫌悪いのね、」
はは、と樹は笑った。
「ごめん、パパ。照は優しいの…きっとパパのこと嫌いじゃないと思うからさ…」
キッチンから眉を下げた陽翔がお玉を持ってそう言った。
「わかってるよ、不器用な次男坊なことは。」
「素直になれないだけだから嫌いにならないでね?」
わかってるよ、お兄ちゃん。誰よりも優しい陽翔。君は生まれた時から反抗という言葉なんて自分の辞書にないんじゃないかっていう程に優しかったね。そして弟の照のことに関しては何がなんでも守ってあげるという姿勢は教えなくても君たちが出会ってからずっと思い合ってるね。
「陸、今日も仕事終わるの遅い?」
ネクタイを締めながら鏡越しにこっちを見た樹は俺に聞いた。
「そうだね、今月いっぱいは遅いかも。色んな期日が迫っててさ、」
「じゃあパパ、ご飯作っておくから温めて食べてね?」
「ありがとう。陽翔は早めに寝るんだよ?勉強も程々にね?」
「わかってるよ…」
少し頬を膨らます幼さが愛らしい。
「……今日病院だね」
「俺がついていくから」
「もう…いっくん…俺一人でいける…。19歳だよ?もう子供じゃないもん。」
「病院終わったら疲れちゃうじゃん?いっつも。」
「そうだけど……でも休憩したら大丈夫だもん。」
「そんなに頑張らなくていい、俺に頼ってたらいいの。」
「うん………」
そんな話をしていると朝ご飯が並べ終わって、さぁ、食べようかって言う時に照がリビングに来る。春に買った制服は背が伸びることを見越してたからまだダボダボで服に着られている。まぁ、照は平均より細いしね。
「あ、おはよう、照。」
「ん。」
俺への返事はこうなのに、
「照!おはよ!」
「はる君、おはよう。」
兄への返事はこうだ。
樹がケラケラと笑っているが照は気にする素振りもない。
「照、どうだった?」
「いつも通り、普通。」
「痛いとかない?苦しいとか、あと、」
「ないって。」
鬱陶しそうに言って椅子に座った。
「無理せず言うんだよ?今日また俺遅いけど、樹とはるがいるからね?」
「わかってるから。」
「はいはい。早く食べよう、照」
心配性な俺と反抗期の照の会話を樹が打ち切って食事を開始。朝のニュースを聞きながら、陽翔の作ってくれた朝食を食べる。残業の多い俺にとっては1番好きな時間だ。
俺らが朝食の終盤に差し掛かった頃、まだ照のご飯は半分にも達していなかった。しかし、時計の針は規則正しく刻々と進んでいき、出発へのタイムリミットが近づいて、さっきから照がチラチラと時計を見ていた。すると、箸を置き、控えめに手を合わせた。
「照、もういいの?」
「うん。ごちそうさま。」
「…照、美味しくなかった?」
少し心配そうに覗いたはる。
「いや、お腹いっぱいなだけ。おいしかったよ。」
「よかったあ。」
すぐにぱぁっと明るくなったはるを見て、照は付け足した。
「はるくんのご飯“は”、いつもおいしいよ。」
「ありがとう、ふふふ、」
嬉しそうにに笑うお兄ちゃんを見て照も少しだけ笑った。こんな2人の穏やかな関係性が、俺も樹もとっても好きだ。
照はそのまま身支度を終えて、
「はるくん、今日病院頑張ってきてね。」
と伝えて玄関に向かった。
「照、行ってらっしゃい!」そう言った俺には、ん、という一文字しか返ってこない。
でも、「照!行ってらっしゃい!気をつけて!」と追いかけたはるには少し手を挙げて、「いってきます」といって外へ出ていった。
「はるくんのご飯“は”か。」
ダイニングテーブルに座ってる樹がコーヒーを飲みながら笑っていた。
「俺は、料理下手だからなー」
自慢げに笑う39歳、主夫18年目の父親。
「そんなことないよ、照は素直になれないだけだから。パパのご飯も美味しいよ?」
お世辞じゃないよ!そういってくれる陽翔を抱きしめて撫で回した。
「きゃははは、やめてよ!」
「親子仲良いのはいい事だけどさ……陸、お前もう出る時間だけど。」
「やっっっっべ!用意してくる!!!」
「パパはほんと変わんないなあ、、、」
2人のそんないじりを突っ込む暇もなく俺はダッシュで用意して仕事場に向かった。
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