第32話 洞窟探索(5)
可食判定結果
名称:マーベル大ムカデ 〇条件付きで可食〇
タンパク質由来の神経毒があるため過熱が必要。
茹でれば海老のような食感があって非常に美味。
「うわあ……」
「どうかなさいました?」
「いやね、可食判定を使ってみたら、こいつは食べられることがわかったんだ。しかも美味いらしい」
「えっ……」
お嬢のドリルがピーンと伸びきって、単なる棒になっている。よほどショックなことらしい。
「安心して、俺も食べたいとは思わないから」
「本当ですか?」
そんな泣きそうな顔をしなくても大丈夫だよ。
「ああ、よほど飢えていたらわかんないけど、とりあえず今は食べたくないもん」
「よかったです」
本音を言えば少しだけ試したい気持ちもあったんだけど、無理をすることもないだろう。
「ところでアキトさん、ムカデのいる場所にはケーブマッシュルームが生えているとタマさんが言っていましたわ」
そういえばそんなアドバイスをもらったな。たくさん採って持ってきてくれとも頼まれている。ムカデを解体するよりはキノコを探す方が楽しそうだ。
「よし、探してみよう」
俺たちは並んで歩きながら通路の隅々を調べた。
「アキトさん、ここ! 見てください」
「おお、これはまさにマッシュルーム」
ランタンの光が照らし出した壁際に丸いキノコがたくさん生えていた。見た目は俺が知っているマッシュルームにそっくりである。びっちりとまとまっていて、三十個くらいはありそうだ。
「これがケーブマッシュルームでしょうか?」
「よし、可食判定で調べてみよう」
可食判定結果
名称:ケーブマッシュルーム ◎可食◎
香り高く美味。
炒めて食べてもよし、生のままサラダのように食べてもよい。
「間違いない、これみたいだよ」
「初めてのキノコ狩りですわ。張り切って採りますわよ」
オリヴィアさんは嬉々としてマッシュルームを収穫しだした。俺も隣にしゃがんでそれを手伝う。
「これだけあったら、ブチさんがベーコンと交換してくれるかもしれないな。そしたら、マッシュルームとベーコンの炒め物を作ろう」
「まあ、それは美味しそうですわね。もっと収穫するためにあちらの方も探してみましょう」
そう言ってオリヴィアさんがランタンの光を向けたときだった。
「あれ、今何か光らなかった?」
「そうですか?」
「うん、確かに光ったよ。たぶんこっち」
おそらく天上の穴から入り込んだのだろう、ここの床には濡れた落ち葉が積もっている。光はその落ち葉の中で一瞬だけ光ったのだ。
「たぶんこの辺だと思ったんだけどなあ……」
足で落ち葉をかき分けながらライトを当てる。そのとき俺の足が何か硬いものを踏んだ。
「ん? ……お、魔光石だ!」
へばりついた落ち葉を落としてみると無色透明の魔光石だった。ただの無色透明ではなく、ほんのり青みがかっている。
これこそが最高級とされる魔光石だ。サイズはクルミより一回りくらい大きい。きっと資産価値があるにちがいない。
「すごいですわ。無知なわたくしでもこれが相当な秘宝であることはわかります。これだけ大きなものがあればお父さまもさぞかし……」
呆けたようにオリヴィアさんは俺の手の中の魔光石を見つめている。
「ふ~ん、だったらお土産に持って帰れば?」
「えっ……? でも、見つけたのはアキトさんですよ」
「俺? 別に要らないよ、こんなもの」
せいぜい重しくらいの用途しか思いつかない。俺の手元にあっても宝の持ち腐れというものだ。オリヴィアさんが欲しいのなら持っていけばいい。
「要らないとおっしゃられても、これだけの秘宝はそう見つからないのですよ?」
「う~ん……、俺はさ、このキャンパーというジョブのおかげで一生食うに困ることはないと思うんだよね。だから、別にいいや。やっぱりオリヴィアさんが持っていきなよ」
石を手渡すとオリヴィアさんは小さなため息をついた。
「ありがとうございます。実家は少々物入りなので本当に助かります」
「それはよかった」
侯爵家とはいえ財政は潤沢じゃないのかな?
「アキトさんは財宝に興味はないのですか?」
「う~ん……、この島にいる限り使いようがないじゃない。せいぜいミニャンたちと食べ物の交換に使うくらいかな。だったらまた探せばいいよ」
「世俗の垢にまみれていないアキトさんがまぶしいです」
「そんなことないぞ、キノコは半分こだからなっ!」
そうおどけると、オリヴィアさんは口に手を当ててつつましく笑っていた。
「なんだか疲れてしまったな。サーベルボアは一旦諦めて、ブチさんたちのところに戻らない?」
「アキトさんがそうおっしゃるのなら構いませんわ」
「じゃあ、移動魔法を使うから手を出して」
「ふぇっ!?」
ドリルを左右に振りながらオリヴィアさんがワタワタしている。
「ほら、手を繋がないと一緒に移動ができないからさ」
「で、で……そん……た……、また眠……なく……てしま……ます(でも、そんなことをされたら、また眠れなくなってしまいます)」
「え、なんて言ったの?」
「何でもございませんわ! て、手を繋げばよろしいんでしょう!?」
「痛たたっ! そんなに強く握らなくても大丈夫だって」
なぜか両手で俺の手を握ったオリヴィアさんと魔法を使ってミニャンの集落まで戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます