第28話 洞窟探索


 目覚めると青い顔をしたオリヴィアさんが俺を見つめていた。オリヴィアさん顔は青白く、目の下にはくっきりとくまが浮かんでいる。


「おはよう。もしかして眠れなかった?」

「はい、来し方行く末を考えていたら、あまり……」

「それは大変だったね」

「他人ごとみたいにおっしゃるのね……」

「へっ?」

「昨日、私にあんなことをしておいて」


 少しむくれているみたいだけど、まったく身に覚えがないぞ。

 昨日もいつも通りに一日が過ぎていったはずだ。大きな変化と言えばアイスクリームと移動魔法くらいか?

 ひょっとして移動魔法のときに手をつないだことを言っているのか……?


「もうけっこうです。それよりもひとつお願いがあるのですが……」


 強引に話題を変えると、オリヴィアさんはランタンを貸してほしいと言ってきた。


「かまわないけど、どうするの? 泊りがけでどこかに行くとか?」

「そうではありません。毎日狩りをしているのに成果がでないので、洞窟へ行ってみようと考えているのです」

「洞窟へ!? でも、あそこは暗いから……」


 ザラキ駅から洞窟を通ってここまで歩いてきたけど、光源は一つもなかったぞ。スマートフォンの灯りを頼りにようやく出てこられたのだ。暗闇が苦手なオリヴィアさんでは前に進むこともできないんじゃないか?


「ミニャンたちの話では、ところどころ光の差す場所もあるようです。いつも頼ってばかりですから、わたくしだってアキトさんのお役に立ちたいのです」

「そんなこと気にしなくても」

「気にしますよ! それに、タマさんはアンデッド系の魔物はみたことがないとおっしゃっていましたから……」


 アンデッド系がどうしたのだろう?


「オリヴィアさんってアンデッド系が苦手なの? ゾンビとか?」

「ひっ!」


 ゾンビという単語を聞いただけでオリヴィアさんはびくりと体を震わせた。目を見開き、体を硬直させた姿はただ事じゃないぞ。


「うっ……、そ、そうです。聖戦士のくせにおかしいとお思いになるでしょうが……」

「そんなことは思わないよ。誰にだって苦手はあるさ。ちなみに俺はカマキリが苦手なんだ」

「まあ、カマキリが? あんなに小さいのに」

「あの三角の頭を見ていると震えがくるんだよ。自分でもどうしてかはわからないけどね」


 打ち明け話をしたらオリヴィアさんの表情が少し和らいだ。


「アキトさんはもっと泰然自若たいぜんじじゃくとしていらっしゃると思ったら、小さな虫が苦手だなんて」

「そんなもんだよ。だからオリヴィアさんも気にしない方がいいよ」

「いえ、わたくしは罪を犯してしまったのです。ですから気にしないわけにはまいりません」

「罪って、なにを?」

「…………」


 教えてくれないか。

 オリヴィアさんが犯罪者だとは思えないけど、きっと何か大変なことがあったのだろう。


「とにかく、洞窟へ行くのなら俺も行くよ」

「アキトさんも?」


 オリヴィアさんは俺よりずっと強いけど、万が一アンデッド系が出てきたときのことを考えれば心配だ。ゾンビに過剰反応していたところをみると、動けなくなってしまう恐れだってある。こんな俺でもいないよりはましだろう。


「ちょっと興味があるから、俺も行ってみたいんだ」


 気を遣わせないようにそう言ったのだが、オリヴィアさんは申し訳なさそうな顔になってしまった。


「これ以上優しくしないでください。そんなにしていただいても、わたくしはアキトさんに報いる術がございません」

「俺が好きでやっているんだから報いる必要なんてないよ。君が家に帰れるまで手伝うって決めたんだ。それに、本当に洞窟には興味があるんだ。ひょっとしたら俺がいた世界へ戻れるかもしれないからさ」


 オリヴィアさんが島を離れたら、俺も日本へ帰るかもしれない……。

 

「だけど洞窟へいくのは一日だけ待ってくれないかな? いろいろと準備があるから」


 行くとなれば万全の態勢で臨みたい。

 1ポイント残して日付をまたいだので、ポイントは6ある。だが、役立つアイテムを用意して、スキルを強化するには到底足りないだろう。

 明日はレベルが上がるのでポイントルーレットを引ける。

 それに賭けてみたい。


「では、本日はどういたしましょうか?」

「洞窟へ行く前にミニャンのところに寄っていこうよ。いろいろと情報を教えてもらうんだ」

「そうですわね。タマさんとブチさんに道順などを聞いておくのがいいでしょう」


 朝食を済ませた俺たちはブチさんの家へ向かった。

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