ずっと見ている
琴塔子
第1話 プロローグ
学校の授業が終わり、美咲は電車に乗っていつものカフェへと向かった。
家の最寄駅よりも2つ前の駅で降り、10分程度歩いた場所にそのカフェはある。
カフェに到着した美咲は、今日もいつもの席に座る。
入口側の、窓の外が見える端の席。
注文したオレンジジュースを少しずつ飲みながら窓の外を監視する。
視線の先は、カフェの斜め向かいにある一軒家。
その家の奥さんが玄関前の鉢植えの花に水をやっている姿が見える。
「チッ…」
美咲は舌打ちをした後、スマホを向けて奥さんの写真を撮った。
指で画面を拡大して顔を大きく映してからもう1枚…。
睨み付けるように見つめてると、水やりを終えた奥さんが家の中へと消えて行った。
それから4時間ほど、美咲は参考書とノートを広げ、勉強をしているフリをしながら監視を続けた。
「あ、帰って来た!」
美咲は思わず声をもらし、再びスマホを窓の外に向けた。
スマホに映っているのはその家の主。
スーツを着た家の主が、仕事を終えて家に帰ってきた。
美咲は家の主の写真を撮った。
主が家の中に入りドアを閉める…。
美咲は閉まったドアを数秒間見つめた後、そそくさとノートや参考書をリュックにしまい、カフェを後にした。
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美咲が帰宅し、暗かった部屋に明かりが灯る。
美咲が住むのは古くて小さなアパート。
そこに母の葉子と2人で暮らしている。
「ただいま。」
美咲が帰宅して間も無く、葉子もパートを終えて家に帰ってきた。
右肩には食品が入ったエコバッグ、左手にはトイレットペーパーを持っている。
「ごめん。今日も疲れちゃって、ご飯作れないわ。適当に食べて。」
葉子はそう言うと、エコバッグの中から半額になったおにぎりやお惣菜のパックを取り出してテーブルに並べ、「よっこいしょ。」と言いながら椅子に座った。
美咲は4つあるおにぎりの中から2つ選んで食べることにした。
「…それで、今日はどうだった?」
葉子は、まるで今日学校であった出来事でもたずねるかのように美咲に聞いた。
「あの女、花に水なんてやってたよ。人の家庭をぶっ壊した極悪人のくせに、なに可愛い子ぶってんだか。」
「あら、そう。のん気で良いわね…。こっちはあの女のせいで、フルタイムで働かなきゃいけなくなったのに…!」
葉子の顔が怒りでこわばっている。
「本当、殺してやりたいわ!!」
葉子は顔を真っ赤にしながら言い放つ。
そんな葉子の言葉を聞いた美咲は、持っていたおにぎりをテーブルに置いてスマホを操作し始めた。
そしてパソコンの前に行き、何かをプリントアウトする。
「はい。」
そう言って、プリントアウトした用紙を葉子に差し出す。
その用紙には、つい先ほど写真におさめた“あの女”の姿が印刷されている。
「許さない!許さない!」
葉子はそう言いながら“あの女”の顔の部分をカッターナイフで切り裂いていく。
「許さない!許さない!」
だんだん涙声になりながら続ける。
「あーーーー!あの女、絶対に許さない!!!」
葉子はついに叫び出し、“あの女”の顔に何度も拳を打ち付けた。
美咲はその様子を静かに見守っている。
こんな事が、美咲と葉子の間では日常的に繰り返されている。
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