第15話 肉体言語

「え?仕事の依頼?俺に?」


「ああそうだ。俺には倒さなければならない魔物がいる。そいつの討伐に手を貸して貰いたい」


「いやまあ、それは別にいいんだけど……」


別に依頼を受けるのは構わないのだが……さっきまで手下が絡んでいた相手に仕事を依頼できるその面の厚さに驚きだ。実際俺所か、アベシと言う男も思いっきり驚いた顔をしているし。


「あああ、兄貴……こんな何処の誰とも分からない怪しい相手に……」


人を不信の輩っぽく言ってくれるが、どう考えてもそっちにこそ当てはまると思うんだが? 絡まれたのは思いっきりこっちな訳だし。


「知ってる奴かどうかなんて物はどうでもいい。重要なのは腕が立つかどうかだ。ワイバンを単独で狩れるBランクなら、その腕には十分期待出来る」


「そ、そうっすか……」


ガンズにきっぱりそう言われ、アベシが落ち込んだかの様にしゅんとなる。モヒカンサスペンダーしてる割に、メンタル面はあんまり強くない様だ。


「仕事を受けるのはいいんだけど……俺はこの街に用事があって来てるから、その後になるぞ?」


この街にはミニエルの為に来たのだ。なので仕事を受けるのは、その要件が終わってからである。


「構わない。ギルドに正式に依頼を出しておく。俺の名はガンズ。お前の名は?」


「アルティメット・パワーだ」


名を請われ、俺はマッスルポーズで答えた。すると驚くべき事に、ガンズも又マッスルポーズを返して来る。手下は少々あれだが、こいつ自体は悪い奴ではないのかもしれない。


俺はガンズと握手を交わし、ガトラー爺さん達と教会へと向かう。


「あの、パワーさん」


「?」


「さっきのあのポーズはなんだったんですか?」


「うむ。ワシも少し気になっておった」


教会へ向かう途中、ミニエル達が聞いてくる。どうやら二人には俺とガンズのやり取りの意味が分からなかった様だ。


「ああ、あれね。あれはマッチョ同士にのみ許された筋肉のコミュニケーション、そう……肉体言語って奴さ」


屈強な男にのみ許された筋肉の饗宴。それは言葉を超えた先にあるコミュニケーション。漫画とかだと殴り合いに用いられがちな言葉だが、俺はこれもまた一種の肉体言語だと思っている。いや、むしろこれこそ真の肉体言語だ!


「肉体言語ですか……」


「よく分からんのう」


決め顔で言ったが、二人には伝わらなかった様でよく分からないと言う顔をされる。一々細かく説明するのも気恥ずかしいので、まあそのまま適当に流しておく。


「ははは。まあ細かい事は気にしないでください」


程なくしてフレイガス教会に到着。小奇麗な感じの建物の前にシスターっぽい服装にベールを被った女性がいたので、その人に俺は声をかけた。決めつけではあるけど、この場所でこの格好してて、まさか全然教会と関係ないって事はないよね?


「あのー、すいません」


「はい、当教会に御用でしょうか?」


やっぱり関係者だった様だ。取り敢えず俺は自分の身分証をその女性に見せる。伝家の宝刀ではないが、ゴッドナイトは結構立場が上っぽいので、少なくとも話ぐらいは聞いてくれるだろう。


「実は俺、こういう者でして」


「!?」


俺の見せた身分証を見て、女性が目をカッと見開く。顔がホラーみたいで怖いんですけど。


「こ、此方へどうぞ」


女性が俺を教会内へと案内してくれる。効果覿面だ。


「直ぐに司祭長様をお呼びしますので、少々お待ちください」


「あの人、凄く慌ててましたね。ギルドでも思ってたんですけ……パワーさんっていったい何者なんですか?」


客室っぽい所に通され、慌てて女性が出て行った後にミニエルが聞いて来る。実は彼女には俺がゴッドナイト(仮)である事は伝えていなかった。


この身分は基本的に表には出ない……まあ、正体を隠した正義のヒーローポジションと言った所だからな。だから必要がない限りは、誰かに伝えたりしないのがお決まりなのだ。ガトラーさんも話してないみたいだし、その認識でたぶんあってるだろうと思われる。


「これ、冒険者同士の詮索はご法度じゃと教えておるだろう」


その質問をガトラー爺さんが叱る。必要ない限りは余計な詮索をしないのが冒険者の作法である。


「あ、すいません。つい……」


「気にしなくていいさ」


程なくして、先ほどの女性が司祭長を連れてやって来た。さて、上手くいくかな?

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