ボケ桜の咲く頃に

たんぜべ なた。

第1話 プロローグ

「何じゃこりゃあー?」

 それが黄昏時の丘陵Field of Dreamsにログインしてからの第一声だった。


 サバゲー仲間と始めたFPSゲーム『黄昏時の丘陵Field of Dreams』。

 もう10年以上の歴史を誇る、老舗しにせFPSゲームである。

 ゲーム業界が軽薄短小に向かっていく現状においては、斜陽世界であり、ユーザーも我々中年ばかりがタムロしている。

 日がな一日密林ジャングルに潜り込んでは、チーム戦を繰り広げ、心ゆくまで憂さを晴らすのだ!


 そんなゲームにログインしてみると…まずもって風景がオカシイ。


 古びた洋館のエントランスを思わせる空間が広がっている…所々クモの巣が張っているのは、何かの悪い冗談だろうか?

 正面の大きなステンドグラスには、カボチャオバケやちびっこ魔女、ガイコツやコウモリなど…およそ戦場とは程遠い空間が広がっている。


 アバターにしてもオカシイ。

 手を見る…華奢きゃしゃで心許無いまでに細い指?

 オレの手と言えば、確かライフルがしっくり馴染む野球グローブのような分厚い手だったはず…。


 服を見ると…紺色の服に、腰元に巻かれているのは…白いエプロン?

 足元に至っては、ほっそりとしたパンプスを履いている…。

 むむぅ、足元を見て確信を持つのだが…スカートを履いてないか?


 まてまて、オレの服は都市迷彩ロービズの戦闘服、軍用の厚底ブーツ(鉄板入り)。

 そんで、チョッキにはサバイバルナイフやら手榴弾パイナップル、護身用の拳銃ハンドガンを吊り下げていたはず…。


 ふと視線を窓の隣に向けると…おや、こんなところに鏡がぁ…

 …

 …

 …

 をぃ!

 …

 …

 …

 誰だ、このメイド風金髪娘!


 カチューシャとエプロンが辛うじて彼女をメイド然とさせてはいるが…。

「ふしぎの国のアリス?」

 思わず呟いてしまった。


 面白半分に腕を振ってみれば、鏡の金髪娘アリスも手を振る…どうやら、今回はこのアバターで活動しなければならないらしい。


「どうすんのよぉ~、これぇ~~!」

 言葉遣いまで…ネカマになり始めました。

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