創設!異世界楽劇団! 〜ハミダシモノの喜劇〜
胡座
プロローグ
静謐が支配する暗闇。人々のそっと影が蠢く。
衣服の擦れる音、微かな息遣い。その小さな音すらも響き、この空間に集まる全ての人から鋭く刺さるような視線を向けられてしまうだろう。
その場にいる全員が溢れんばかりの興奮を辛うじて抑え込んで静けさを保っている。やがて興奮は説明のつかない熱量となって空間に充満する。
閉鎖空間に熱気が篭る。
音もなく、ひとつの松明に火が灯る。人々がわずかに前のめりになる。
そう思えば、最初の一本を起点に左右の松明に、そしてさらにその次へ、と徐々に火が灯っていく。松明の光は半円を描いたあたりで、広がるのを止める。
光に照らされた空間。石造りの階段と座席にぐるりと囲まれる中央の舞台。
舞台の円周に沿って先程の松明は並んでいる。座席には無数の観客がぎゅうぎゅうにひしめき合いながら、声を殺しそれが始まるのを今か今かと待っていた。
太鼓の打音。その轟音が張り詰めた空気を引き裂く。
会場が震える。震えは観客の肌に突き刺さり、内臓ごと強く揺さぶる。
轟音を合図に円形の半分まで灯っていた火が、勢いよく残りの半周を埋めていく。点灯する松明に合わせて聞こえてくる力強い太鼓の連打。
観客はいよいよ解き放たれた獣のような雄叫びを上げる。怒号ともとれるその声は太鼓の轟音をかき消さんばかりだ。
声が反響する。観客は皆、誰にも負けるものかと声を上げ続ける。自分が一番この空間、この瞬間を楽しんでいると彼らに伝えるために。
すべての松明に光が灯った。
数十の松明が空っぽの中央舞台を明るく照らす。
先程まで間隔なく絶え間なく連打されていた太鼓の打音が、少し間隔を開けて、心臓の鼓動のように一定に刻まれ始めた。
観客の雄叫びもまた、それに合わせて変わる。低く短い、唸る様な叫び。
無秩序だった叫びは太鼓の律動に合わせて、リズムを刻む。空間に集まる無数の声がひとつになる。会場全体がまるで巨大な怪物の心臓のように鼓動する。
そのリズムに合わせて松明の炎が順に火柱を上げる。激烈な熱が観客の肌を激しく焼かんと照らす。そんなことは意に介さず、人々は更に大きな声を上げる。
轟音と人々の叫び声が合わさったその鼓動は、その場にいる全ての人間の身体を深く芯の底から震わせる。噴き上がる炎が空間に充満する熱をさらに熱くさせる。人々はその鼓動に合わせて、声を上げ、手を叩き、足を踏み鳴らす。
中央舞台の地面が音を立ててゆっくりと左右に開く。丸穴がぽっかりと口を開ける。
一際強い音のあと、空間に一瞬の静寂が訪れる。
その静けさに反して観客のボルテージは最高潮だ。
奈落の奥底。暗闇に潜む数多の影。舞台が緩やかにせり上がる。暗闇の底から姿を表すは、怪物か。
鋭く光る爪。小さく透き通る羽。鋭く尖った耳。ゴツゴツとした腕。獰猛な牙。大木のような巨体。桃色の髪の毛。
そして、金色に輝く瞳の青年。
真っ赤に染め上げたマントを翻し、青年が舞台の中央で力強く叫びをあげる。
『お集まりの皆様。お待たせしました。さぁ、始めましょう。僕達がこの世界に送る最高の
――創設! 異世界楽劇団
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