第2話 生誕
「何だこれは…。 てっきり墓地かと思ったのにソウスケめ…こんなさみしい森の中でボクの墓をポツンと立てるなんて!! あの人でなしが!!」
那自はブツブツ言いながらも自身の墓の前に散乱する花を拾い呟いた。
「ふん…花は要らないって言ったんだがな…律儀にこんな花を…いや待て…」
花は青紫色で、スターチスのように複数の小さな花の集りの集合体だった。
「スターチスに見えたが…知らない花だ…こんな花は知らない! いや存在しないかも…オレの生前には」
すると那自は珍しく焦ったような顔をした。
「まさか……。オレはてっきり地獄で過ごした500日間この世を開けたと思っていたが…もしあの世とこの世では時間の流れが違う、もしくは死への超越は時間を歪めるのだとしたら」
那自は暫く何かを考えていた。やがて墓に再び目を向けて呟いた。
「ボクの墓の周りに他の墓がないのはここが遠い未来だからと仮定すると納得は行くな。オレが埋葬されていた墓地は悠久の時が流れ、手入れするものもいなくなり次第に寂れて行った。
しかし悠久の年月が経つにつれて、ボクの墓石以外は崩壊した…いや正確にはボクはこの墓石ごと肉体が再生し蘇ったのだろう…何十年経ったんだ…ボクが死んでから」
那自の心にはポッカリと穴が空いたように、寂しさが広がっていった。
地獄から蘇ることは容易ではなかった。それでも那自は地獄を支配して死人から蘇ったのは、なにより生前の仲間に合うためだ。
生前のように家族と食事をしたり、学校に行って馬鹿で愛想に良い同級生どもに勉強を教えてやったり、夕方になれば友達とデパート街に繰り出し趣味のレトロデザインの服や小物漁る。 ランドセルにつける小物を見るのもいいだろう。
それに死ぬ前には家族と旅行に行く約束をしていた。
那自は早く仲間に会いたかった。
しかしそれも叶わないかも知れないと、那自は悟った。
「ともかく…家に帰らなければ…」那自は暗い森を歩き出した。
「全く……ここはどこの墓地だ…土地勘がないからどっちに行けばいいのかサッパリ分からない…困ったな」
那自は途方に暮れた後ため息を突き呟いた。
「さっそく…使ってみるか」
そういうと那自の頭上にちょうど那自の橙色の髪色と同色に光り輝く美しい王冠が現れた。
そして王冠は那自の周辺を隅々まで明るく照らした。そして那自は目をつむり呟いた
「【ダンスオブデス】」
すると、那自の周囲には炎のサークルが出現し、そこから、影のように黒い体色の一匹猟犬が現れた。
「【ブラック・ドッグ】よし出てきた…うまく行ったな」
その猟犬の見た目は常軌を逸しており、牙は研がれたスピアの如く鋭く尖り、その目は通常よりも大きくパッチリしていて、なにより黒ではなく白一色でライトのように光り輝いていた。
猟犬は那自の周りをグルグルと回ると、那自のほうを向き尻尾をブンブンと振って那自にすり寄った。
「よしよし……いい子だな……。
【ブラック・ドッグ】。お前の鼻とカンは頼りにしている。」
すると猟犬は那自の足元でお座りをして、那自を見上げた。
「お前は賢いな……ちゃんと言うことは分かっているようだな。」
那自が犬の頭を撫でると、犬は嬉しそうに鳴いた。
そして那自は自らの掌を上にして広げた、するとたちまち掌の上の空中に赤い液体が生成され、それは細長い針のようになっていった。
針はまるでなにかに引き寄せられるように一方向を指していた。
「血の池から取り出して、即席方位磁針を作ってみたが反応が強烈だな…。近くに金属の何某かがあるみたいだね」
那自がそう言うと、犬はまた那自の足元にすり寄り、那自は犬の頭を撫でながら呟いた。
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