今度の説得相手は血のつながった相手
「すみません誰ですか?」
母がそう尋ねてくる。俺は返答に少し戸惑う口だけ覚悟を決めたとしても体はそうはいかない。体が硬直してすくむ。どうしてももしかしたらのイメージが脳裏をよぎってなかなか言葉を発せない。このまま黙っているのが一番の悪手だって言うのは自分が一番わかってる。でも、でも出てこない。
「…その目つき。もしかして幸春かい?」
父方の祖母がそう尋ねてきた。その言葉に他のみんなは祖母に何がとは言わないが大丈夫か心配していた。
「ばあちゃん。なんでわかんだよ」
「その優しくて何かを怖がっているようで無理をしているような目つきをしているのは幸春以外に見たことがない。だからかな?」
「俺、そんな目してたかな?…改めて言う。これが信じてくれるか信じないかはどっちでもいい。これだけは言わせて。――ただいま」
その時。母方の祖父が涙目になった。祖父は俺の事を一番かは知らないが可愛がってくれた人物だ。俺も大きな恩を感じている。少し頭が固くて外面がすごくいいというところもあるが優しいところもある。
それでもまだ俺を疑う人もいる。疑うのもわかる。俺の見立てではまだ疑っているのは姉2人、父親、母方の祖母、と行った所だな。従兄弟たちは今日は来ていないようだ。
家族しか知らないような。いや、俺の秘匿していた嘘の真実を伝えるか?今まで全ての辻褄をぎりぎり合わないようにすることでなんとか隠してた情報を。いやこれ言ったら本人だと分かってもらっても殺されるやつやん。
「質問してもいい?」
「なに?」
「もし、もしあなたが幸春だったとしてその姿はどうしたの?」
「ああそうだね。一言、端的に表すなら神になった。だからこうしてここに来れた」
「まだ誰かに憑依しましたとかの方が説得力あるよ?」
「事実を嘘で塗りなおしても信用は得られない」
「じゃあ聞いていい?あなたがやったゲームの最長連続プレイ時間は?」
「…^^;」
どうしよう。言ったら絶対怒られる。鯖を読むしかない(嘘をつかないよは?)どれくらい鯖を読む?最低でも2時間は読む必要があるな。俺の記憶ないだと最長は10時間ほどだったはず。ゲームをやめてもノンストップで別のゲーム機を始めてたからな。
さて8時間と言っても絶対怒られる。となるとやはり限界は6時間と行った所だな。よりそうしよう。いや、7時間にするか?
「どうしたの?答えれないの?」
「いや思い出してただけ。7時間くらいだったかな」
「その時の感想は?」
「クソ楽しかったわw」
「反省の色はないのね」
「その時一瞬を楽しめれば反省なんて俺には必要ないんだよ」
なんだかそれっぽいことを言って会話と会話の合間が空く。言うならばここだろう。
「俺は。幸春だがこれからは神として生きる。だからもうここには帰ってこない。でも、…何かあったら連絡してよ。行くから」
俺はスマホを取り出して連絡先交換のためにQRコードを見せる。
「10、9、8…「えちょっと待って!」
急いでスマホを取り出して読み込む。一応一人は登録できたしいいか。
「それじゃ。ここらへんで俺は失礼させてもらうよ」
「え、まだ話したい!」
「それはディスコかlimeで話してくれよなぁ。忙しいんだ。あ、16時くらいまで連絡なるべく寄こさないでね」
俺は何か言いたげな家族をよそに元の住居から今の住居に転移する。もうあのころの日常は戻らない。それは分かっている。涙は流さない。もともとこういうシリアスな場面で泣くのは苦手なんだ。
みんなに教えよう。何人来てくれるかはわからない。でもきっと数人は来てくれるはずだ。みんなに今日やったことを伝えて笑い話にしよう。
「ずいぶんお疲れに見えますが」
「…大丈夫だよ。神は過労なんかで死なないんだろ?」
「そうですが心が死んで廃人状態にはなるのですよ?精神が狂って自殺した神もいたと聞きます。少し休んでください」
俺は少し悩む。今すぐにでも配信をしてみんなにさっきあったことを伝えたい。けど確かに体を壊してしまってはよくない。
いや、待てよ。俺、神だから体壊すことないじゃん。眠かったりするけどそんなの一発で解決する方法あるじゃん。
「よし!配信してくるわ!」
「え。ああ、嘘でしょ?」
セヌさん。(セウスさんは呼びづらかったんや)からそんな声が聞こえたけど関係ぇねぇなぁ。
俺は収納からある一本の缶を取り出す。その缶に記載されている文字は「death ego」。意味は「自我の死」だそうだ。まあ分かるよね。エナドリだよ海外製の。
「さて、…ふぅ。どうもぉ!名前を改めて
配信を始めて数秒でそう大きく叫ぶ。名前はスプリなんたらから変えた。あの名前は使っていて自分でも忘れる。
【初手からうっさw】
【ブラバしかけたw】
【名前が変わっている!?】
【地味にかっこいい名前にしやがってぇ】
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