第1話 捨て猫を拾ってきたら祟り神だった件について
コハナちゃんと名付けられている白猫は、美海に撫で撫でされた部分を必死に舐める。
お風呂に入ったばかりの自分の匂いを、必死にかき消す姿にショックを受ける美海だが、気を取り直してお皿にご飯を入れて差し出す。
旨くないなと言いつつも、いざ食べると目を爛々と輝かせガツガツと食べ始め、あっという間に皿をピカピカにする。
「まぁ悪くはないな……だが脂肪分が多いな」
「脂肪分の取り過ぎは良くないの?」
「あぁ、脂肪分の取り過ぎはな」
口周りをペロッと舐めた後、祟り神であるコハナちゃんはキリッとした目で美海を見つめる。
コハナちゃんはあの日の出来事を思い出していた。
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満月の光すら届かない仄暗い森の中に、絶望で満ちた女が姿を現す。
その女の手にはロープが握られており、やがて大きな木の枝にロープを結ぶ……彼女はその間、いろいろと思い出していた。
夢であったある会社で働くも、そこは夢とは異なった現実であり、自由は無く、気軽に話せる者は無く、部下は言うことを聞かず、提出物は間に合わず、謝罪する毎日。
夢が砕かされ、生きる希望を失った彼女はやがてロープに手を掛ける。
その時だった――
「月には暗い面は存在しない……実際に月は全てが暗いのだ、小娘よ」
「え?……可愛い……」
「……」
仄暗い美海の心の中に一筋の光明が走った。
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「あの絶望に満ち満ちた小娘が、我を見た瞬間全てがどうでもよくなるとは……我は生きとしいける全ての生物の憎悪と怨念の集合体……祟り神ぞ?」
「その祟り神である我に……よもや、こっコハナちゃん!?と言う名前をつけるとは!!言語道断!!」
コハナちゃんは尻尾を左右にブンブンと揺らす。
美海はコハナちゃんを再び撫でるが、ふと暗い顔になる。
明日からまた会社だからだ。
それを察知したコハナちゃんはあることを提案する。
「お前は我の奴隷であるが、行く手の無かった我に飯をくれた恩がある」
「祟り神も恩を感じることがあるんだ!!」
「祟るぞお前……まぁいい」
「お前いるんだろ?」
「殺して欲しい人間が」
「……」
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