Re:START ちっぽけな存在から始める・・・

天風 繋

第1話 俯瞰する世界

真っ暗な空間を歩いていた。

カツンカツンと石畳のような物を、革靴の靴底がリズムを刻む。

いつ頃からここを歩いているか覚えていない。

気が付いたら…歩いていた。

いつまで経っても目が慣れてこない。

ずっと暗闇が辺りを支配している。

僕は、両腕を伸ばそうとする。

しかしすぐに、ひんやりとした感触が手の甲に当たった。

幅は、僕の肩幅から少しだけ余裕がある程度の…多分通路。

どこに続いているのだろう。

誰かに操られるように、僕の足は止まることはなく歩を進めていく。

僕の意思など関係ないように。

どれほどの時間歩いていたか。

時間の感覚すらないのでわからない。

昼夜もわからないから、今が朝なのか夜なのかも知る術はない。

やがて、カツンカツンと鳴らしていた音が消えた。

それと共に静寂が訪れる。

歩き始めた頃には、衣擦れの音もしていたような気もする。

今では、それがどれほど前の事だったのかすらわからない。

やがて、足の裏にひんやりとした感触があるのに気が付いた。

いつの間にか、裸足になっていた。

冷たい…。

僕の靴はどこに行ったんだろう。

いや、いつ僕は靴を脱いだのだろう。

一歩一歩と歩むに連れて、冷たさが身体を突き抜けていく。

嫌だ、もう歩きたくない。

冷たい…痛い…。

その願いとは裏腹に僕は歩いていく。

やがて、足の感覚が麻痺し出した。

もう、何も感じなくなっていた。

それでも、たぶん前に進んでいる。

真っ暗闇だから、景色が流れるということはないけれど。

なんとなく、進んでいると思えた。

やがて、僕の意識は暗闇の中に沈んでいった。


気が付いたときには、篝火の焚かれた小さな部屋の中にいた。

どこかで見たことがある気がする。

部屋の中心に、円形の陣がありそこを囲うように4つの篝火が置かれている。

部屋の中は、ぼんやりと明るくなっている。

だが、上の方は見ることは出来ない闇があった。

ふと気づいた。

身体の感覚がない。

声を出すことが出来ない。

五感の内、視覚以外が無いような気がする。

とりあえず、歩いてみよう。

だが、動けない。

いや、足がない。

前に…前に…。

そう意識すると少しだけ前進で来た。

意識すれば、動ける?

とりあえず、動く。

そうだ、動くんだ。

目の前にある壁まで行こう。

長い長い時間が経って、僕は壁まで辿り着いた。

壁には、大きな木製の扉がある。

手を伸ばそう。

だが、手が出ない。

ん?手が…ない?

僕の身体、どうなっているんだ。

やがて、僕の身体は壁に衝突する。

だが、痛みはなかった。

瞼を閉じ…れなかった。

次の瞬間、景色が変わった。

目の前には、湖が広がっていた。

ああ、ここはティアレイクじゃないか。

なんとなく思い出してきた。

ここは、僕がやっていたゲームだ。

ということは、さっきのは『再誕の祭壇』か。

僕は、いつゲームにログインしたのだろう。

確かこのゲームをやったのも10年以上も前のはずだが。


僕は、湖の湖面へと近づく。

そして、湖に映る自分の姿をみてびっくりした。

真っ白な毛もくじゃら。

ケセランパセラン的な、なにか。

なんだこれは。

ゲームでこんな存在いたかな?

というか、僕はどうなったんだ。

それも、こんなチビッ子になるなんて。

湖に映る僕の姿は、小さな埃みたいなものだった。

大きさは、1cmあるかないか。

風に吹かれただけで飛んで行ってしまい…。

そう思っていると突風が吹いて僕は上空へ巻き上げられた。

はるか上空に巻き上げられた僕は…風に流されていく。

そして、世界を俯瞰した。

やはり、ここは僕の知るあのゲームの世界のようだ。

でも、わからない。

僕は、どうしてこんなところにいるのだろう。

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