第七章⑦
「一生こんなところにいるわけにもいかないだろ。腹が減っても飯食う場所がなさそうだぜ、店も開いてないだろうし。それに見えない
「んー、なんかね。不思議なんだけど、全然そのことは気にならないのね。なんとかなるような気がするのよ。自分でも納得出来ない、でもどうしてだろ、今ちょっと楽しいな」
「SOS団はどうするんだ。お前が作った団体だろう。ほったらかしかよ」
「いいのよ、もう。だってほら、あたし自身がとっても
「俺は戻りたい」
「こんな状態に置かれて発見したよ。俺はなんだかんだ言いながら今までの暮らしがけっこう好きだったんだな。アホの谷口や国木田も、古泉や長門や朝比奈さんのことも。消えちまった朝倉をそこに
「……何言ってんの?」
「俺は連中ともう一度会いたい。まだ話すことがいっぱい残っている気がするんだ」
ハルヒは少しうつむき加減に、
「会えるわよきっと。この世界だっていつまでも
「そうじゃない。この世界でのことじゃないんだ。元の世界のあいつらに、俺は会いたいんだよ」
「意味わかんない」
ハルヒは口を
「あんたは、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの? 特別なことが何も起こらない、普通の世界なんて、もっと面白いことが起きて欲しいと思わなかったの?」
「思ってたとも」
巨人が歩き出した。
ハルヒの頭
光の巨人たちは、赤い光玉に
もう校舎の
俺に出来ることは何か。一ヶ月前なら無理でも、今の俺になら出来ることだ。ヒントならすでにいくつも
俺は決意して、そして言った。
「あのな、ハルヒ。俺はここ数日でかなり面白い目にあってたんだ。お前は知らないだろうけど、色んな奴らが実はお前を気にしている。世界はお前を中心に動いていたと言ってもいい。みんな、お前を特別な存在だと考えていて、実際そのように行動してた。お前が知らないだけで、世界は確実に面白い方向に進んでいたんだよ」
俺はハルヒの
つい、と視線をそらしてハルヒは校舎をめちゃくちゃに破壊している巨人を、そうするのが当然だと言うように
その横顔は、あらためて見ると年相応の線の
ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない、なんてトートロジーでごまかすつもりはない。ないが、決定的な解答を、俺は持ち合わせてなどいない。そうだろ? 教室の後ろにいるクラスメイトを指して「そいつはお前にとって何なのか」と問われて何と答えりゃいいんだ? ……いや、すまん。これもごまかしだな。俺にとって、ハルヒはただのクラスメイトじゃない。もちろん「進化の可能性」でも「時間の歪み」でもましてや「神様」でもない。あるはずがない。
思い出せ。朝比奈さんは何と言ったか。その予言を。それから長門が最後に俺に伝えたメッセージ。白雪
俺の理性がそう主張する。しかし人間は理性のみによって生きる存在にあらず。長門ならそれを「ノイズ」と言うかもしれない。俺はハルヒの手を振りほどいて、セーラー服の肩をつかんで振り向かせた。
「なによ……」
「俺、実はポニーテール
「なに?」
「いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ」
「バカじゃないの?」
黒い目が俺を
遠くでまた
そこは部屋。俺の部屋。首をひねればそこはベッドで、俺は
思考能力が復活するまでけっこうな時間がかかった。
半分無意識の状態で立ち上がった俺は、カーテンを開けて窓の外をうかがい、ぽつぽつと光る
夢か? 夢なのか?
見知った女と二人だけの世界に
ぐあ、今すぐ首つりてえ!
日本が
俺はぐったりとベッドに着席し、頭を
……か、ここはすでに元の世界ではないとか。ハルヒによって創造された新世界なのか。だったとして、俺にそんなことを確かめるすべはあるのか。
ない。あるのかもしれないが思いつかない。というか何も考えたくない。自分の脳ミソがあんな夢を見せたなどと認めるくらいなら、世界がぶっ
目覚まし時計を持ち上げて現時刻を確認、午前二時十三分。
……
俺は布団を頭まで
そんなわけで俺は今、
来て欲しいときに来なかった
校舎が見えてきた時、俺は不覚にも立ち止まってしみじみと古ぼけた四階建てを
俺は足を引きずり引きずり、よたよたと階段を上がって
後ろでくくった
「よう、元気か」
俺は机に
「元気じゃないわね。昨日、悪夢を見たから」
ハルヒは
「おかげで全然寝れやしなかったのよ。今日ほど休もうと思った日もないわね」
「そうかい」
「ハルヒ」
「なに?」
窓の外から視線を外さないハルヒに、俺は言ってやった。
「似合ってるぞ」
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