第七章⑤
一年五組の教室に変わるところは何もない。出てきたときのままだ。黒板の消し跡も、
「……キョン、見て……」
窓に
「どこなの、ここ……」
俺たち以外の人間が消えたのではなく、消えたのは俺たちのほうだ。この場合、俺たちこそが
「気味が悪い」
ハルヒは自分の
行く当てもない。そんなわけで俺たちは夕方に後にしたばかりの部室にやって来た。鍵は職員室からガメてきたので問題ない。
蛍光灯の下、俺たちは見慣れた根城に
ラジオをつけてみてもホワイトノイズすら入らず、風の音一つしない静まりかえった部屋にポットから
「飲むか?」
「いらない」
俺は自分のぶんの湯飲みを持ってパイプ
「どうなってんのよ、何なのよ、さっぱり
ハルヒは窓の前に立ったまま
「おまけに、どうしてあんたと二人だけなのよ?」
知るものか。ハルヒはスカートと
「探検してくる」と言って、部室を出ようとする。
「あんたはここにいて。すぐ戻るから」
言い残してさっさと出て行った。うむ、そういうところはハルヒらしいな。
小さな赤い光の玉。最初、ピンポン球くらいの大きさ、次いで
「古泉か?」
人の形をしていても人間には見えない。目も鼻も口もない、赤く
「やあ、どうも」
能天気な声は、確かに赤い光の中から届く。
「
「それも込みで、お話しすることがあります。手間取ったのは
赤い光が
「
「どうなってるんだ? ここにいるのはハルヒと俺だけなのか?」
その通りです、と古泉は言い、
「つまりですね、我々の
「…………」
「おかげで我々の上の方は
「何だってまた……」
「さあて」
赤い光が
「ともかく涼宮さんとあなたはこちらの世界から完全に消えています。そこはただの閉鎖空間じゃない。涼宮さんが構築した新しい時空なんです。もしかしたら今までの閉鎖空間もその予行演習だったのかも」
「笑い事じゃないですよ。大マジです。そちらの世界は今までの世界より涼宮さんの望むものに近づくでしょう。彼女が何を望んでいるかまでは知りようがありませんが。さあどうなるんでしょうね」
「それはいいとして、俺がここにいるのはどういうわけだ」
「本当にお解りでないんですか? あなたは涼宮さんに選ばれたんですよ。こちらの世界から
古泉の光は今や電池切れ間近の
「そろそろ限界のようです。このままいくとあなたがたとはもう会えそうにありませんが、ちょっとホッとしてるんですよ、僕は。もうあの《神人》狩りに行くこともないでしょうから」
「こんな灰色の世界で、俺はハルヒと二人で暮らさないといかんのか」
「アダムとイヴですよ。産めや増やせばいいじゃないですか」
「……
「冗談です。おそらくですが、閉ざされた空間なのは今だけでそのうち見慣れた世界になると思いますよ。ただしこちらとまったく同じではないでしょうが。今やそちらが真実で、こっちが閉鎖空間だと言えます。どう
古泉はもとのピンポン球に
「俺たちはもうそっちに戻れないのか?」
「涼宮さんが望めば、あるいは。望み
完全に消え
「朝比奈みくるからは謝っておいて欲しいと言われました。『ごめんなさい、わたしのせいです』と。長門有希は、『パソコンの電源を入れるように』。では」
最後はあっさりしたものだった。
俺は朝比奈さんの伝言とやらに頭をひねった。なぜ謝る。朝比奈さんが何をしたと言うんだ。考えるのは後にして、俺はもう一つの伝言に従ってパソコンのスイッチを押した。ハードディスクがシーク音を立てながらディスプレイにOSのロゴマークを
YUKI.N〉みえてる?
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