第六章③
女子と肩を並べて下校する、なんてのは実に学生青春ドラマ的で、俺だってそういう生活を夢に見なかったかと言うと
「何か言った?」
俺の
「いや何も」
坂をずんずんと下って私鉄の線路沿いを歩いている。もう少し行けば光陽園駅だ。
そろそろ長門の住んでるマンションだなと思っていたら、ハルヒは本当にその方角を目差し、ついに見覚えのある新築の
「ここの505号室に住んでいたみたい」
「なるほどね」
「何がなるほどよ」
「いや何でも。それよりどうやって入るつもりだ。
と、俺はインターフォン横のテンキーの存在を教えてやる。
「あれで数字を入力して開ける仕組みだろ。お前ナンバー知ってんのか?」
「知らない。こういうときは持久戦ね」
何を待つというのか、と思っていたら、そう待つこともなかった。買い物に行くらしいオバサンが中から
あまりスマートな手口とは言えないな。
「早く来なさいよ」
引きずり込まれるようにして俺はマンションの玄関ホールに立っていた。ちょうど一階に止まっていたエレベータに乗り込む。
「朝倉なんだけど」
どうやらハルヒはそんなマナーなどおかまいなしのようだ。
「おかしなことがまだあるのよね。朝倉って、この市内の中学から
そりゃまあそうだろうが。
「調べてみたらどこか市外の中学から
「知らん」
「でも住居はこんなに学校の近くにある。しかも分譲よ、このマンション。賃貸じゃないのよ。立地もいいし、高いのよ、ここ。市外の中学へここから通っていたの?」
「だから、知らん」
「朝倉がいつからここに住んでたのか調べる必要があるわね」
五階に
どうにかして中に入れないかと
「管理人室に行きましょ」
「鍵貸してくれるとは思えないけどな」
「そうじゃなくて、朝倉がいつからここに住んでんのか聞くためよ」
「あきらめて帰ろうぜ。そんなん
「ダメ」
俺たちはエレベータで一階に取って返し、玄関ホール
爺さんが何かを言うより早く、
「あたしたちここに住んでた朝倉涼子さんの友達なんですけど、彼女ったら急に
こういう常識的な口調も出来るのかと俺が
爺さんはうら若き
「そう言えばお嬢さんのほうはたびたび目にしたが、両親さんとはついぞ
「涼子さんと言うのかね、あの
「せめて一言別れを言いたかったのに、残念なことよのー。ところであんたもなかなか
とか、もはやジジイの
「ご
「少年、その娘さんは今にきっと美人になる。取り
追ってくるジジイの声が余計だ。ハルヒの耳にも届いたはずで、それに何かのリアクションがあるかとビクビクしていたがハルヒは何をコメントすることもなくずんずんと歩き続け、見習って俺もノーコメントを
「あら、ひょっとしてあんたもこのマンションなの?
「だったら朝倉のこと、何か聞いてない?」
否定の仕草。
「そう。もし朝倉のことで解ったら教えてよね。いい?」
俺は
「
その問いには直接答えず、長門はただ俺を見た。見られても困る。ハルヒもまともな回答が返ってくるとはハナから思っていなかったようだ。
「気をつけて」
今度は何に気をつければいいんだか、それを訊こうと振り返る前に、すでに長門はマンションに吸い込まれていた。
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