第三章⑥

 朝比奈さんの開いた胸元に手をっ込もうとしているハルヒと、その手を握って止めようとしている俺と、ぶるぶるふるえているメイド姿の朝比奈さんと、がんで平然と読書中の長門を興味深そうにながめて、

「何のもよおしですか?」

「古泉くん、いいところに来たね。みんなでみくるちゃんにイタズラしましょう」

 何てことを言い出すんだ。

 古泉は口元だけでフッと笑った。同意するようならこいつも敵に回さなければならん。

えんりよしておきましょう。後がこわそうだ」

 鞄をテーブルに置いてかべに立てかけてあったパイプを組み立てる。

「見学だけでもいいですか?」

 足を組んで座りながらおもしろそうな顔で俺を見やがる。

「お気になさらず、どうぞ続きを」

 ちがうって、俺はおそう方じゃなくて助けに入っている方だっつーの。

 すったもんだの末、俺はどうにかハルヒと朝比奈さんの間に割って入り、ふらりと後ろ向きにたおれそうになる朝比奈さんをあわてて支え、その軽さにちょっとおどろきながら椅子に座らせた。メイド服を乱して、くたっとなっている朝比奈さんの姿は、正直な話、かなりそそられた。

「まあいいか。写真もいっぱいれたし」

 ハルヒは目を閉じて背もたれに寄りかかっている朝比奈さんのれいな顔から眼鏡を抜き取ると長門に返した。

 無言で受け取って何をコメントすることもなくかけ直す長門。昨日あんだけちようこうぜつをふるったのがうそのようだ。嘘だったんだろうか。それかそうだいじようだんだったとか。

「ではこれより、第一回SOS団全体ミーティングを開始します!」

 団長席の椅子の上に立ってハルヒがやぶから棒にだいおんじようを発した。いきなり何を言い出すんだ。

「今まであたしたちは色々やってきました。ビラも配ったし、ホームページも作った。校内におけるSOS団の知名度はうなぎたきのぼり、第一段階は大成功だったと言えるでしょう」

 朝比奈さんの精神に傷を負わせておいて何が大成功だ。

「しかしながら、わが団のメールアドレスには不思議な出来事をうつたえるメールが一通も来ず、またこの部室にかいなやみを相談しに来る生徒もいません」

 そりゃあ、知名度だけはにあっても、何をする部活動なのかいまいちわからないところだからな。第一、まだ部活動として認められてないし。

「果報はて待て、昔の人は言いました。でももうそんな時代じゃないのです。地面をり起こしてでも、果報は探し出すものなのです。だから探しに行きましょう!」

「……何を?」

 だれもツッコマないので俺が代表していた。

「この世の不思議をよ! 市内をくまなくたんさくしたら一つくらいはなぞのような現象が転がっているに違いないわ!」

 その発想のほうが俺にとってはよっぽど謎だがな。

 俺のあきれ顔、古泉の何を考えているのか計りかねるあいまいがお、長門の無表情、朝比奈さんのもうどうにでもしてという気力の感じられない顔。いっさいかえりみることなく、ハルヒは手をり回してさけぶ。

「次の土曜日! つまり明日! 朝九時にきたぐち駅前に集合ね! おくれないように。来なかった者はけいだから!」

 死刑て。



 ところで朝比奈さんのメイドコスプレ写真をハルヒがどうするつもりだったのかと言うと、このアマ、デジカメから吸い出した画像データを俺が適当に作ったホームページにせるつもりでいやがったことが判明した。

 俺が気付いたときには、朝比奈さんのメイド画像が一ダースばかりトップページにずらりと並び、訪問者をむかえる準備ばんたん、まさにファイルが電脳空間にアップロードされる寸前だった。

 まったくびないアクセス数もこうすればあっという間に万単位で回るんだと言う。

 アホかい。

 こればっかりは死力を決して俺はハルヒを制し、すべての画像を消去した。自分がメイド服でのうさつポーズを取っているようなあられもない画像が全世界に発信されるなんてことになれば、朝比奈さんはその場でそつとうするにそうない。

 めずらしく熱心に説教する俺をハルヒはじとっとした目でみやっていたが、ネットに個人を特定出来るような情報を流すことの危険性を解説する俺の言葉をどうにか理解したのか、

「解ったわよ」

 ふてくされたように言って、しぶしぶデリートに同意した。この際だから画像そのものをすべて消去すべきだったのかもしれないが、それはちょっとしい。俺はハードディスクにかくしフォルダを作って、こっそり朝比奈みくる写真を格納し、パスワードでかぎをかけた。

 俺の観賞用にしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る