第三章⑤

 翌日の放課後。

 そう当番だったため、俺がおくれて部室へ行くと、ハルヒが朝比奈さんで遊んでいた。

「じっとして! ほら暴れない!」

「やっ……やめっ……助けてぇ!」

 いやがる朝比奈さんをハルヒがまたはんいていた。

「きゃああ!」

 部室に入りかけた俺を見て悲鳴を上げる朝比奈さんだった。

 ちよう完全に下着姿の朝比奈さんをいつしゆんだけ眺めて、俺は半分以上開けかけていたドアを半歩下がって閉めた。

「失礼」

 待つこと十分。朝比奈さんの可愛らしいさけび声とハルヒの楽しそうな声の二重奏が消えた。代わりにハルヒが、

「いいわよ、入っても」

 そして俺は室内に入り、しかるのちに絶句した。

 メイドさんがいた。

 エプロンドレスに身を包み、今にも泣きそうな朝比奈さんがパイプにちょこんとこしけ、悲しげに俺を見てすぐにうつむいた。

 白いエプロンと、すその広がったフレアスカートとブラウスのツーピース。ストッキングの白さがせいふんばつぐんに演出していて非常によろしい。頭のてっぺんのレースのカチューシャと、かみを後ろでまとめている頭のはばよりも大きなリボンがこれまた愛らしい。

 非のうちどころのないメイド少女である。

「どう、可愛いでしょう」

 ハルヒがまるで自分のがらのようにほこらしげに言って朝比奈さんの髪をでた。

 それには同意出来るな。情けなさそうな表情でしようぜんと座っている朝比奈さんには悪いが、無茶苦茶可愛い。

「まあ、それはいいとして」

 よくありません、と小声でつぶやく朝比奈さんを無視して俺はハルヒに、

「なんでメイドの格好をさせる必要があるんだ?」

「やっぱりえと言ったらメイドでしょ」

 また意味すらわからないことを。

「これでもあたしはけっこう考えたのよ」

 お前の考えることは考えないほうがいいようなことばかりだ。

「学校をたいにした物語にはね、こういう萌えキャラが一人は必ずいるものなのよ。言いえれば萌えキャラのあるところに物語は発生するの。これはもはや必然と言っていいわね。いい? みくるちゃんというもともとロリーで気が弱くて、でもグラマーっていう萌え要素を持つ女の子をさらにメイド服でそうしよくすることにより、萌えパワーはやく的に増大するわ。どこから見ても萌え記号のかたまりよね。もう勝ったも同然ね」

 何に勝つつもりなんだ。

 俺があきれてものを言えないでいると、ハルヒはいつの間にかデジタルカメラを手にして、記念に写真をっておこうと言い出した。

 真っ赤になって朝比奈さんは首をる。

「撮らないで……」

 手を合わせて拝まれようがどうしようが、ハルヒがそれをすると言えばするのである。

 こんがんむなしく朝比奈さんは無理矢理にポーズを取らされ、何度も何度もフラッシュの光を浴びた。

「ふええ……」

「目線こっち。ちょいあごひいて手でエプロンにぎりしめて。そうそうもっと笑って笑って!」

 注文をつけながらハルヒは朝比奈さんを激写する。デジタルカメラなんかどこから持ってきたんだといたら写真部から借りてきたという。パクってきたの間違いじゃないのか?

 写真さつえいのかたわらでは、長門有希がいつもの場所でいつものように読書にはげんでいた。昨日、さんざん俺にデンパな話を語ったことなどおくびにも出さないそのいつもと変わらぬ様子に、俺はどことなくホッとした。

「キョン、カメラマン代わって」

 ハルヒは俺にデジタルカメラをわたし、朝比奈さんへと向き直った。水辺の鳥ににじり寄るワニのような動きで小さなかたらえる。

「ひっ……」

 身を縮める朝比奈さんにハルヒはやさしく微笑ほほえみかけた。

「みくるちゃん、もうちょっと色っぽくしてみようか」

 言うが早いかハルヒはメイド服のむなもとからリボンを引きき、ブラウスのボタンをいきなり第三ボタンまで開けて胸元をしゆつさせた。

「ちょ、やっ……何する……!」

「いいからいいから」

 何がいいものか。

 朝比奈さんはさらにひざに手をついてまえかがみの姿勢を取らされる。がら身体からだと幼い顔からは予想も出来ない豊かな谷間がきようきんからのぞいて、俺は目をそらした。が、そらしていては写真が撮れないので仕方なしにファインダーを覗く。ハルヒに命じられるままシャッターを切りまくる。

 胸を強調するポーズを取ってしゆうの色にほおを染め、泣き出す一歩前のうるんだ目でぎこちないみをかべてカメラに目線を送る朝比奈さんは、それはもう例えようもないほどりよく的だった。

 やべ。れてしまいそうだ。

「有希ちゃん、眼鏡めがね貸して」

 ゆっくりと本から顔を上げた長門は、ゆっくりと眼鏡を外すとハルヒにわたし、ゆっくり読書にもどった。読めるのか?

 ハルヒは受け取った眼鏡を朝比奈さんの顔にかけて、

「ちょっとずらした感じがいいのよねえ。うん、これでかんぺき! ロリで美乳でメイドでしかも眼鏡っ! 素晴らしいわ! キョン、じゃんじゃん撮ってあげて」

 撮るのにいなやはないが、朝比奈さんのメイドコスプレ写真をこんなに撮影して何に使うつもりなんだろう。

「みくるちゃん、これから部室にいるときはこの服着るようにしなさい」

「そんなあ……」

 せいいつぱいの否定の意思表示をする朝比奈さん。しかしハルヒは、

「だってこんなに可愛かわいいんだもの! もう、女のあたしでもどうにかなりそうだわ!」

 朝比奈さんにきついて頬ずりする。朝比奈さんは、わあわあさけびながらのがれようとして果たせず、しまいにはぐったりとハルヒのされるがままになってしまった。

 おいおい。うらやましいぞ、ハルヒ。つーか、止めろよな、俺も。

「そのへんで終わっとけ」

 朝比奈さんにこつなセクハラを続けるハルヒの首根っこをつかむ。なかなかはなれない。

「こら、いい加減にしろ!」

「いいじゃん。あんたもいつしよにみくるちゃんにエッチぃことしようよ」

 グッとくるアイデアだが、たちまち真っ青になる朝比奈さんを見ていたらしゆこうするわけにもいかないだろ。

「うわ、何ですかこれ?」

 もみ合っている俺たちに声をかけたのは、入り口付近でかばん片手に立ちつくしている古泉一樹だった。

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