第三章③
まるでワープロで印字したみたいに
俺がこの本を受け取ったのは何日も前の話である。午後七時というのは、その日の午後七時のことなのだろうか。それとも今日の午後七時でいいんだろうか。まさか俺がこのメッセージをいつ目にしてもいいように、毎日公園で待っていたりしてたのじゃないだろうな。今日必ず読めと言った長門の真意は、今日こそこの栞を見つけろってことだったのか? しかしそれなら部室で直接俺に言えばいいだけだし、そもそも夜の公園に呼び出す必要性が
時計を見ると午後六時四十五分をちょっと過ぎている。光陽園駅は高校から一番近い私鉄の駅だが俺の自宅からではチャリをどんなに飛ばしても二十分はかかる。
考えていたのは十秒くらいのはずだ。
俺は栞をジーンズのポケットに入れると
これで長門がいなかったら笑ってやる。
笑わずに済んだようだ。
交通法規を
電車や車の立てる
どうにも存在感の
長門は俺に気付いて糸に引かれた
制服姿である。
「今日でよかったのか?」
うなずく。
「ひょっとして毎日待っていたとか」
うなずく。
「……学校で言えないことでも?」
うなずいて、長門は俺の前に立った。
「こっち」
歩き出す。足音のしない、まるで
「ここ」
「あのさ、どこに行こうとしてるんだ?」
まことに
「わたしの家」
俺の足が止まる。ちょっと待て、何で俺が長門の家に招待されなければならないんだ。
「
ますますちょっと待て。それはいったいどういう意味であるのか。
708号室のドアを開けて、長門は俺をじいいっと見た。
「入って」
マジかよ。
うろたえつつも
何か取り返しのつかない所に来てしまったような気がした。その音に
「中へ」
とだけ言って自分の靴を足の
3LDKくらい? 駅前という立地を考えると、けっこうな値段なんじゃないだろうか。
しかしまあ、生活
通されたリビングにはコタツ机が一つ置いてあるだけで
「座ってて」
台所へ引っ込む
お茶を
何か言ってみよう。
「あー……家の人は?」
「いない」
「いや、いないのは見れば
「最初から、わたししかいない」
今までに聞いた長門のセリフで一番長い発言だった。
「ひょっとして一人暮らしなのか?」
「そう」
ほほう、こんな高級マンションに高校生になったばかりの女の子が一人暮らしとは。ワケありなんだろうな。でもまあ、いきなり長門の家族と顔を合わさずにすんで
「それで何の用?」
思い出したように長門は急須の中身を湯飲みに
「飲んで」
飲むけどさ。ほうじ茶をすする俺を動物園でキリンを見るような目で観察する長門。自分は湯飲みには手を付けようともしない。
しまった、毒か! ……なわけないって。
「おいしい?」
初めて疑問形で
「ああ……」
飲み干した湯飲みを置くと同時に長門は再び
「お茶はいいから、俺をここまで連れてきた理由を教えてくれないか」
腰を
「学校では出来ないような話って何だ?」
水を向ける。ようやく長門は
「涼宮ハルヒのこと」
背筋を
「それと、わたしのこと」
口をつぐんで
「あなたに教えておく」
と言ってまた
どうにかならないのか、この話し方。
「涼宮とお前が何だって?」
ここで長門は出会って以来、初めて見る表情を浮かべた。困ったような
「うまく言語化出来ない。情報の伝達に
そして長門は話し出した。
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