第一章⑥
しかしな。ハルヒの生き様をうらやましいと思う
俺がとうにあきらめてしまった非日常との
ただ待っていても都合よくそんなもんは現れやしない。だったらこちらから呼んじまおう。で、校庭に白線引いたり屋上にペンキ
いやはや(これって死語か?)。
いつからハルヒが
「おい、キョン」
休み時間、谷口が難しい表情を顔に貼り付けてやって来た。そんな顔してると本当にアホみたいだぞ、谷口。
「ほっとけ。んなこたぁいい。それよりお前、どんな
「魔法って何だ?」
高度に発達した科学は魔法と見分けがつかないという警句を思い出しながら俺は聞き返した。授業が終わると例によって教室から消えてしまったハルヒの席を親指で差して谷口は言った。
「俺、涼宮が人とあんなに長い間
さて、何だろう。適当なことしか
「
あくまで大げさに
「昔からキョンは変な女が好きだからねぇ」
誤解を招くようなことを言うな。
「キョンが変な女を好きでもいっこうに構わん。俺が理解しがたいのは、涼宮がキョンを相手にちゃんと会話を成立させていることだ。
「どちらかと言うとキョンも変な人間にカテゴライズされるからじゃないかなぁ」
「そりゃ、キョンなんつーあだ名の
キョンキョン言うな。俺だってこんなマヌケなニックネームで呼ばれるくらいなら本名で呼ばれたほうがいくらかマシだ。せめて妹には「お兄ちゃん」と呼んでもらいたい。
「あたしも聞きたいな」
いきなり女の声が降って来た。
「あたしがいくら話しかけても、なーんも答えてくれない涼宮さんがどうしたら話すようになってくれるのか、コツでもあるの?」
俺は一応考えてみた。と言うか考えるフリをして首を
「
朝倉は笑い声を一つ。
「ふーん。でも安心した。涼宮さん、いつまでもクラスで
どうして朝倉涼子がまるで委員長みたいな心配をするのかと言うと、委員長だからである。この前のロングホームルームの時間にそう決まったのだ。
「友達ね……」
俺は首をかしげる。そうなのか? それにしては俺はハルヒの
「その調子で涼宮さんをクラスに
よろしくね、と言われてもな。
「これから何か伝えることがあったら、あなたから言ってもらうようにするから」
いや、だから待てよ。俺はあいつのスポークスマンでも何でもないぞ。
「お願い」
両手まで合わされた。俺は「ああ」とか「うう」とか
「キョン、俺たち友達だよな……」
谷口が
どいつもこいつもアホだらけだ。
「生徒が続けざまに
「
「ミステリ研究会ってのがあったのよ」
「へえ。どうだった?」
「笑わせるわ。今まで一回も事件らしい事件に出くわさなかったって言うんだもの。部員もただのミステリ小説オタクばっかで名
「そりゃそうだろう」
「
「そうかい」
「ただのオカルトマニアの集まりでしかないのよ、どう思う?」
「どうも思わん」
「あー、もう、つまんない! どうしてこの学校にはもっとマシな部活動がないの?」
「ないもんはしょうがないだろう」
「高校にはもっとラディカルなサークルがあると思ってたのに。まるで
ハルヒはお百度参りを決意した
気の毒だと思うところなのか、ここは?
だいたいにおいて、ハルヒがどんな部活動なら満足するのか、その定義が不明である。本人にも解っていないんじゃないのか?
「ないもんはしょうがないだろ」
俺は意見してやった。
「結局のところ、人間はそこにあるもので満足しなければならないのさ。言うなれば、それを出来ない人間が、発明やら発見やらをして文明を発達させてきたんだ。空を飛びたいと思ったから飛行機作ったし、楽に移動したいと考えたから車や列車を産み出したんだ。でもそれは一部の人間の才覚や発想によって初めて生じたものなんだ。天才が、それを可能にしたわけだ。
「うるさい」
ハルヒは俺が気分良く演説しているところを中断させて、あらぬ方角を向いた。実に
多分、この女は何だっていいんだろう。ツマラナイ現実から
物理法則万歳! おかげで俺たちは
そう思った。
いったい何がきっかけだったんだろうな。
前述の会話がネタフリだったのかもしれない。
それは
うららかな日差しに
「何しやがる!」
もっともな
「気がついた!」
「どうしてこんな簡単なことに気付かなかったのかしら!」
ハルヒは白鳥座α星くらいの
「何に気付いたんだ?」
「ないんだったら自分で作ればいいのよ!」
「何を」
「部活よ!」
頭が痛いのは机の角にぶつけただけではなさそうだ。
「そうか。そりゃよかったな。ところでそろそろ手を
「なに? その反応。もうちょっとあんたも喜びなさいよ、この発見を」
「その発見とやらは後でゆっくり聞いてやる。場合によってはヨロコビを分かち合ってもいい。ただ、今は落ち着け」
「なんのこと?」
「授業中だ」
ようやくハルヒは俺の襟首から手を離した。じんじんする頭を押さえて前に向き直った俺は、全クラスメイトの半口あけた顔と、チョーク片手に今にも泣きそうな大学出たての女教師を視界に
俺は後ろに早く座れと手で合図し、次いで
どうぞ、授業の続きを。
なにか
新しいクラブを作る?
ふむ。
まさか、俺にも一枚
痛む後頭部がよからぬ予感を告げていた。
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