第七章
なぜ、俺なのだ?
宇宙人未来人エスパー少年がハルヒの周りをうようよするのは、古泉いわくハルヒがそう望んだからだと言う。
では、俺は?
なんだって俺はこんなけったいなことに巻き込まれているんだ? 百パーセント純正の普通人だぞ。突然ヘンテコな前世に目覚めでもしない限り
これは誰の書いたシナリオなんだ?
それとも誰かに
お前か? ハルヒ。
なーんてね。
知ったこっちゃねえや。
なぜ俺が
せいぜい走り回ればいいのさ。俺以外の人間がな。
季節は本格的に夏の
「よっ」
俺の横に並んだ谷口もさすがに汗まみれだった。うっとおしいよなあ、せっかくキメた
「谷口」
一方的に興味ゼロの飼っている犬の話を始めた口を
「俺って、
「はあ?」
そんな
「まず普通の意味を定義してくれ。話はそっからだな」
「そうかい」
訊かないほうがマシだった。
「
当たり前だが、覚えていたらしい。
「俺も男だ。根ほり葉ほり訊いたりしないだけの分別とプライドを持っている。だがな、解るだろ?」
全然。
「どうやっていつのまにああなったんだ。え? しかも俺様的美的ランクAマイナーの長門有希と」
Aマイナーだったのか。そんなことより、
「あれはだな……」
俺は
「
「その嘘話を信じたとして、あの誰とも接点を持ちたがらない長門有希から相談を持ちかけられた時点でもうお前は普通じゃねえよ」
そんなに有名人だったのか、長門は。
「なにより涼宮の手下でもあるしな。お前が普通の男子生徒ってんなら、俺なんかミジンコ並に普通だぜ」
ついでに訊いておこう。
「なあ、谷口。お前、
「あーん?」
マヌケ面が第二段階に進行する。ナンパに成功した美少女がアブナイ宗教の
「……そうか。お前はとうとう涼宮の毒に
俺は谷口を
校門から校舎へと続く
さしものハルヒも熱気にだけはいかんともしがたいらしく、くたりと机に寄りかかってアンニュイに
「キョン、暑いわ」
そうだろうな、俺もだよ。
「
「他人を扇ぐくらいなら自分を扇ぐわい。お前のために余分に使うエネルギーが朝っぱらからあるわけないだろ」
ぐんにゃりとしたハルヒは昨日の
「みくるちゃんの次の衣装なにがいい?」
バニー、メイドと来たからな、次は……ってまだ次があるのかよ。
「ネコ耳? ナース服? それとも女王様がいいかしら?」
俺は頭の中で朝比奈さんを次々と
「マヌケ
と決めつけた。お前が話を
「ほんと、
ハルヒは口を見事なへの字にした。まるでマンガのキャラクターみたいに。
早めに体育を切り上げていた女子どもの着替えは終わっていたが、後はホームルームを残すだけとあって運動部に直行する数人は体操着のままであり、運動部とは
「暑いから」
というのがその理由である。
「いいのよ、どうせ部室に行ったらまた着替えるから。今週は
「そりゃ合理的だな」
朝比奈さんのコスプレは体操着でもいいな。コスプレと言わないか。正体は不明でも一応は高校生をやってるんだし。
「なんか
心を読んだとしか思えない的確なツッコミを放って俺をじろりと
「あたしが部室に行くまで、みくるちゃんにエロいことしちゃダメよ」
お前が来てからならいいのか、という言葉を飲み込んで、俺は新米の保安官に
いつものようにノックの返事を待って部室に入る。テレーズ人形のようにちょこんと
テーブルの
「お茶
頭のカチューシャをちょいと直し朝比奈さんは
俺はどっかりと団長机に
パソコンのスイッチを入れ、OSの起動を待つ。ポインタから砂時計マークが消えたのを見計らって、俺はフリーソフトのビューワを立ち上げると、自分で設定したパスワードを入力してフォルダ「MIKURU」の中身を表示させた。さすがコンピュータ研が泣きながら手放した新機種だけあってたちどころにサムネイル表示、朝比奈さんのメイド画像コレクション。
朝比奈さんが湯飲みを用意している様子を片目で確認しながら、俺はその中の一枚を拡大し、さらに拡大。
ハルヒによって無理矢理取らされた
「なるほど、これか」
「何か解ったんですか?」
机に湯飲みが置かれるより前に俺は手際よく画像を閉じていた。このへん、
「あれ、これ何です? このMIKURUってフォルダ」
ぐあ、抜かった。
「どうして、あたしの名前がついてるの? ね、ね、何が入ってるの? 見せて見せて」
「いやあ、これはその、何だ、さあ何なんでしょうね。きっと何でもないでしょう。うん、そうです、何でもありません」
「
朝比奈さんは楽しそうに笑ってマウスに手を
「あの、朝比奈さん、ちょっと
「見せて下さいよー」
左手を俺の肩にかけ、右手でマウスを追いかける朝比奈さんの上半身が背中でつぶれている
クスクス笑いが
「何やってんの、あんたら」
止まっていた朝比奈さんの時間が動いた。メイド服のスカートをぎこちなく
ふん、と鼻息を
「あんた、メイド
「なんのこった」
「
好きにしたらいい。朝比奈さんが
「着替えるって言ってるでしょ」
だから何なんだ。
「出てけ!」
ほとんど
「なんだ、あいつ」
湯飲みを置くヒマもなかった。俺は茶色の液体で
この
「あー、そうか」
教室でも堂々と着替えをおっぱじめるハルヒが、わざわざ俺を部室から放りだしたのが引っかかっているのだ。
はて。どういう心境の変化だろ。それともいつしか
持ったままの湯飲みをリノリウムの廊下に置いて、俺は片あぐらをかいた。
しばらく待って、部屋でごそごそする気配が止まっても中に入れと言う声がかからず、俺がぼんやり
「どうぞ……」
朝比奈さんの小さな声がドア
「手と肩は
と言って、ハルヒはずるずると湯飲みの茶をすする。長門がページをパラリとめくった。
バニーガールとメイドさんに囲まれ、どうしていいものやら見当もつかない。どっかでこの二人を客引きのバイトにでも
「うわ、なんですか」
笑顔のままで
「あれ、今日は仮装パーティの日でしたっけ。すみません、僕、何の準備もしてなくて」
話をややこしくするようなことを言うな。
「みくるちゃん、ここに座って」
ハルヒが自分の前のパイプ
この場面だけを切り取れば、まるで妹の髪をセットしてやっている姉、みたいな美しい
底の浅い
「オセロでもやるか」
「いいですね。久しぶりです」
俺たちが白と黒の
何の集まりなんだか、ますます
そう、その日、俺たちは何の
あまりの何もなさに物足りなさを感じつつも、「なあに、時間ならまだまだあるさ」と自分に言い聞かせてまた
それでも俺は
涼宮ハルヒとその一味みたいに呼ばれるのは
そうさ、俺はこんな時間がずっと続けばいいと思っていたんだ。
そう思うだろ?
だが、思わなかった
決まっている。涼宮ハルヒだ。
夜になって、晩飯だの
ただし一夜で読み切るにはあまりに文字量が多いので、俺は登場人物の一人が長々とした独白をちょうど終えたキリのいいところで本を置いた。そろそろ
ところで人が夢を見る仕組みをご存じだろうか。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の二種類があって周期的に繰り返されるわけなのだが、眠りばなの数時間は深い眠り、ノンレム睡眠が多く訪れる。この時の脳は活動を休止しており、
「……キョン」
まだ目覚ましは鳴ってないぞ。何度鳴ってもすぐ止めてしまうけどな。お
「起きてよ」
いやだ。俺は寝ていたい。
「起きろってんでしょうが!」
首を
……固い地面?
上半身を
「やっと起きた?」
俺の横で
「ここ、どこだか
解る。学校だ。俺たちの通う県立北高校。その校門から
夜空じゃない。
ただ一面に広がる暗い灰色の平面。単一色に
世界が
俺はゆっくりと立ち上がった。
「目が覚めたと思ったら、いつの間にかこんな所にいて、
ハルヒが
「ハルヒ、ここにいたのは俺たちだけか?」
「そうよ。ちゃんと布団で寝てたはずなのに、なんでこんな所にいるわけ? それに空も変……」
「古泉を見なかったか?」
「いいえ。……どうして?」
「いや何となくだが」
ここが例の次元断層がどうのこうのしたとかの閉鎖空間なら、光の
「とりあえず学校を出よう。どこかで誰かに会うかもしれない」
「あんた、あんまり
驚いてるさ。特にお前がここにいることにな。ここはお前が作り出す巨人の遊び場じゃなかったのか? それともやはりこれは異常にリアル感のある俺が見ている夢か。人気のない学校でハルヒと二人きり。フロイト博士ならなんと
ハルヒと
「……何、これ」
ハルヒが両手を盛んに
まるで、俺たちを学校に閉じこめるように。
「ここからは出られないらしい」
風がそよとも
「裏門へ回ってみるか」
「それより、どこかと
ここが古泉が説明したとおりの閉鎖空間なら電話があっても
電気のついていない、暗い校舎というのはなかなかに不気味なものだ。俺たちは土足のまま
俺たちはまず宿直室へと向かい、誰もいないことを確認してから職員室へ、当然
「……通じてないみたい」
ハルヒが差し出す受話器を耳に押し当てる。何の音もしない。試しにダイヤルボタンを押してみたが反応なし。
職員室を後にした俺たちは、教室の電気を次々点灯させながら上を目差した。我らが一年五組の教室は最上階にある。そこから下界を
校舎を歩いている間、ハルヒは俺のブレザーの
「バカ」
ハルヒは上目
一年五組の教室に変わるところは何もない。出てきたときのままだ。黒板の消し跡も、
「……キョン、見て……」
窓に
「どこなの、ここ……」
俺たち以外の人間が消えたのではなく、消えたのは俺たちのほうだ。この場合、俺たちこそが
「気味が悪い」
ハルヒは自分の
行く当てもない。そんなわけで俺たちは夕方に後にしたばかりの部室にやって来た。鍵は職員室からガメてきたので問題ない。
蛍光灯の下、俺たちは見慣れた根城に
ラジオをつけてみてもホワイトノイズすら入らず、風の音一つしない静まりかえった部屋にポットから
「飲むか?」
「いらない」
俺は自分のぶんの湯飲みを持ってパイプ
「どうなってんのよ、何なのよ、さっぱり
ハルヒは窓の前に立ったまま
「おまけに、どうしてあんたと二人だけなのよ?」
知るものか。ハルヒはスカートと
「探検してくる」と言って、部室を出ようとする。
「あんたはここにいて。すぐ戻るから」
言い残してさっさと出て行った。うむ、そういうところはハルヒらしいな。
小さな赤い光の玉。最初、ピンポン球くらいの大きさ、次いで
「古泉か?」
人の形をしていても人間には見えない。目も鼻も口もない、赤く
「やあ、どうも」
能天気な声は、確かに赤い光の中から届く。
「
「それも込みで、お話しすることがあります。手間取ったのは
赤い光が
「
「どうなってるんだ? ここにいるのはハルヒと俺だけなのか?」
その通りです、と古泉は言い、
「つまりですね、我々の
「…………」
「おかげで我々の上の方は
「何だってまた……」
「さあて」
赤い光が
「ともかく涼宮さんとあなたはこちらの世界から完全に消えています。そこはただの閉鎖空間じゃない。涼宮さんが構築した新しい時空なんです。もしかしたら今までの閉鎖空間もその予行演習だったのかも」
「笑い事じゃないですよ。大マジです。そちらの世界は今までの世界より涼宮さんの望むものに近づくでしょう。彼女が何を望んでいるかまでは知りようがありませんが。さあどうなるんでしょうね」
「それはいいとして、俺がここにいるのはどういうわけだ」
「本当にお解りでないんですか? あなたは涼宮さんに選ばれたんですよ。こちらの世界から
古泉の光は今や電池切れ間近の
「そろそろ限界のようです。このままいくとあなたがたとはもう会えそうにありませんが、ちょっとホッとしてるんですよ、僕は。もうあの《神人》狩りに行くこともないでしょうから」
「こんな灰色の世界で、俺はハルヒと二人で暮らさないといかんのか」
「アダムとイヴですよ。産めや増やせばいいじゃないですか」
「……
「冗談です。おそらくですが、閉ざされた空間なのは今だけでそのうち見慣れた世界になると思いますよ。ただしこちらとまったく同じではないでしょうが。今やそちらが真実で、こっちが閉鎖空間だと言えます。どう
古泉はもとのピンポン球に
「俺たちはもうそっちに戻れないのか?」
「涼宮さんが望めば、あるいは。望み
完全に消え
「朝比奈みくるからは謝っておいて欲しいと言われました。『ごめんなさい、わたしのせいです』と。長門有希は、『パソコンの電源を入れるように』。では」
最後はあっさりしたものだった。
俺は朝比奈さんの伝言とやらに頭をひねった。なぜ謝る。朝比奈さんが何をしたと言うんだ。考えるのは後にして、俺はもう一つの伝言に従ってパソコンのスイッチを押した。ハードディスクがシーク音を立てながらディスプレイにOSのロゴマークを
YUKI.N〉みえてる?
しばしほうけた後、俺はキーボードを引き寄せた。指を
『ああ』
YUKI.N〉そっちの時空間とはまだ完全には連結を絶たれていない。でも時間の問題。すぐに閉じられる。そうなれば最後。
『どうすりゃいい』
YUKI.N〉どうにもならない。こちらの世界の異常な情報
『進化の可能性ってな結局何だったんだよ。ハルヒのどこが進化なんだ』
YUKI.N〉高次の知性とは情報処理の速度と正確さのこと。有機生命体に
『肉体がなければいいのか』
YUKI.N〉情報統合思念体は初めから情報のみによって構成されていた。情報処理能力は宇宙が熱死を
『涼宮は、』
YUKI.N〉涼宮ハルヒは何もないところから情報を生み出す力を持っていた。それは情報統合思念体にもない力。有機体に過ぎない人間が一生かかっても処理しきれない情報を生み出している。この情報創造能力を
カーソルが
YUKI.N〉あなたに
『何をだよ』
YUKI.N〉もう一度こちらへ回帰することを我々は望んでいる。涼宮ハルヒは重要な観察対象。もう二度と宇宙に生まれないかもしれない貴重な存在。わたしという個体もあなたには戻ってきて欲しいと感じている。
文字が薄れてきた。弱々しく、カーソルはやけにゆっくりと文字を生んだ。
YUKI.N〉また図書館に
ディスプレイが暗転しようとしていた。とっさに明度を上げてみても
YUKI.N〉sleeping beauty
カカカ、ハードディスクが回り出す音に俺は飛び上がりそうになる。アクセスランプが
「どうしろってんだよ。長門、古泉」
俺は腹の底からこみ上げるため息をついて、何気なく、本当に何気なく窓を見上げ、
青い光が窓の
中庭に直立する光の
ハルヒが飛び込んできた。
「キョン! なんか出た!」
「なにアレ? やたらでかいけど、
興奮した口調だった。先ほどまでの
「宇宙人かも、それか古代人類が開発した
青い壁が身じろぎする。高層ビルを
「な、ちょっ! ちょっと、何?」
転がるように
俺は口をパクパク開閉させているハルヒの手を
古びた部室棟の中は
ハルヒの体温を掌に感じながら階段を
校舎からとりあえずの
巨人が手を振り上げ、
二百メートルトラックの真ん中まで進んで、俺たちは
写真に
そんなことを考えている俺の耳にハルヒの早口が届いた。
「あれさ、
「わからん」
答えながら俺は考えていた。最初に俺を
どうなってしまうと言うのだろう。
さっきの古泉によると、新しい世界がハルヒによって創造されるのだと言うことらしい。そこには俺の知っている朝比奈さんや長門はいるのだろうか。それか、目の前にいる《神人》が自在に
そんな世界になったとして、そこで俺の果たす役割は何なのか。
考えるだけ
考え込む俺の耳元でハルヒの
「何なんだろ、ホント。この変な世界もあの巨人も」
お前が生み出したものらしいぜ、ここも、あいつもな。それより俺が
「元の世界に
棒読み口調で俺は言った。
「え?」
「一生こんなところにいるわけにもいかないだろ。腹が減っても飯食う場所がなさそうだぜ、店も開いてないだろうし。それに見えない
「んー、なんかね。不思議なんだけど、全然そのことは気にならないのね。なんとかなるような気がするのよ。自分でも納得出来ない、でもどうしてだろ、今ちょっと楽しいな」
「SOS団はどうするんだ。お前が作った団体だろう。ほったらかしかよ」
「いいのよ、もう。だってほら、あたし自身がとっても
「俺は戻りたい」
「こんな状態に置かれて発見したよ。俺はなんだかんだ言いながら今までの暮らしがけっこう好きだったんだな。アホの谷口や国木田も、古泉や長門や朝比奈さんのことも。消えちまった朝倉をそこに
「……何言ってんの?」
「俺は連中ともう一度会いたい。まだ話すことがいっぱい残っている気がするんだ」
ハルヒは少しうつむき加減に、
「会えるわよきっと。この世界だっていつまでも
「そうじゃない。この世界でのことじゃないんだ。元の世界のあいつらに、俺は会いたいんだよ」
「意味わかんない」
ハルヒは口を
「あんたは、つまんない世界にうんざりしてたんじゃないの? 特別なことが何も起こらない、普通の世界なんて、もっと面白いことが起きて欲しいと思わなかったの?」
「思ってたとも」
巨人が歩き出した。
ハルヒの頭
光の巨人たちは、赤い光玉に
もう校舎の
俺に出来ることは何か。一ヶ月前なら無理でも、今の俺になら出来ることだ。ヒントならすでにいくつも
俺は決意して、そして言った。
「あのな、ハルヒ。俺はここ数日でかなり面白い目にあってたんだ。お前は知らないだろうけど、色んな奴らが実はお前を気にしている。世界はお前を中心に動いていたと言ってもいい。みんな、お前を特別な存在だと考えていて、実際そのように行動してた。お前が知らないだけで、世界は確実に面白い方向に進んでいたんだよ」
俺はハルヒの
つい、と視線をそらしてハルヒは校舎をめちゃくちゃに破壊している巨人を、そうするのが当然だと言うように
その横顔は、あらためて見ると年相応の線の
ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない、なんてトートロジーでごまかすつもりはない。ないが、決定的な解答を、俺は持ち合わせてなどいない。そうだろ? 教室の後ろにいるクラスメイトを指して「そいつはお前にとって何なのか」と問われて何と答えりゃいいんだ? ……いや、すまん。これもごまかしだな。俺にとって、ハルヒはただのクラスメイトじゃない。もちろん「進化の可能性」でも「時間の歪み」でもましてや「神様」でもない。あるはずがない。
思い出せ。朝比奈さんは何と言ったか。その予言を。それから長門が最後に俺に伝えたメッセージ。白雪
俺の理性がそう主張する。しかし人間は理性のみによって生きる存在にあらず。長門ならそれを「ノイズ」と言うかもしれない。俺はハルヒの手を振りほどいて、セーラー服の肩をつかんで振り向かせた。
「なによ……」
「俺、実はポニーテール
「なに?」
「いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ」
「バカじゃないの?」
黒い目が俺を
遠くでまた
そこは部屋。俺の部屋。首をひねればそこはベッドで、俺は
思考能力が復活するまでけっこうな時間がかかった。
半分無意識の状態で立ち上がった俺は、カーテンを開けて窓の外をうかがい、ぽつぽつと光る
夢か? 夢なのか?
見知った女と二人だけの世界に
ぐあ、今すぐ首つりてえ!
日本が
俺はぐったりとベッドに着席し、頭を
……か、ここはすでに元の世界ではないとか。ハルヒによって創造された新世界なのか。だったとして、俺にそんなことを確かめるすべはあるのか。
ない。あるのかもしれないが思いつかない。というか何も考えたくない。自分の脳ミソがあんな夢を見せたなどと認めるくらいなら、世界がぶっ
目覚まし時計を持ち上げて現時刻を確認、午前二時十三分。
……
俺は布団を頭まで
そんなわけで俺は今、
来て欲しいときに来なかった
校舎が見えてきた時、俺は不覚にも立ち止まってしみじみと古ぼけた四階建てを
俺は足を引きずり引きずり、よたよたと階段を上がって
後ろでくくった
「よう、元気か」
俺は机に
「元気じゃないわね。昨日、悪夢を見たから」
ハルヒは
「おかげで全然寝れやしなかったのよ。今日ほど休もうと思った日もないわね」
「そうかい」
「ハルヒ」
「なに?」
窓の外から視線を外さないハルヒに、俺は言ってやった。
「似合ってるぞ」
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