34.こ、これは……?!
中間テストが終わり、解放されたクラスメイト達の顔はどこか清々しい。
部活に精を出すもの。テストが終わり早速遊びに行くもの。
三者三様、十人十色といったものだ。
俺としてはテストと並行して後藤の件もあったが、一芝居を打って後藤を撃退に成功?した。
後藤はあれ以来姿を見せなくなった。学校を辞めたのか、それともただ自暴自棄になっているのか知る由もない。テストを受けに来なかったことを鑑みると、学校を辞めるのかもしれない。
勿体ない。せっかく学校に通っているんだから卒業まで頑張ればいいのに。
今は多様で選択肢が増えているから、通信制に替えてもおかしくない。
まあ、後藤がどうなったかはどうだっていい。
後藤という後ろ盾を失った赤井と蒼井はすっかりと大人しくなってしまった。
二年三組という狭い世界で威張っていた二人が懐かしく感じる。
あの二人だって多分、根は悪い人ではないはずだ。これを機に成長すればいいと思う。ま、本人次第だけどな。
さて、テストが終わって狂喜乱舞しているなんとか川と櫛引だが、あの二人は肝心なことを忘れている。今頃、というか俺たちの知らないところで先生たちが答案の採点をし、終わり次第返却することになることを。
テストは終わったかもしれないが、まだ結果がどうなっているのか判明していない。点数次第では次の期末テストが苦しくなってしまう。
あの二人はテスト自体に手ごたえがあったらしいが、それがいい結果に繋がっていることに願うしかない。
なんだかんだなんとかさんと櫛引は中間テスト直前まで必死に勉強していたし、その努力はきっと報われるだろう。
「テストが終わったね。橘はどうだった?」
ひょいっと俺のところに顔を出してきた高橋。すっかり憑き物が落ちたスッキリした表情をしていた。
「問題なし。ただ、今回ばかりはテスト以外にも色々とあって疲れた。帰ってすぐ休みてぇ……」
「そうだね。確かに」
「テスト終わりの打ち上げはパスする。帰って大人しく休むわ」
「そっか。また今後、橘も一緒に遊ぼうね」
「ああ」
そう言って、高橋は加藤たちの所へ行ってしまう。
残された俺は一人机に突っ伏し小休憩する。
今日は家に帰ったらすぐに昼寝して。起きたら気になるラノベでも読むか。
これからの予定を脳内で組み立てながら、俺は空っぽの机の中に手を入れた。
すると、何か紙っぽい材質をした物に手が触れた。
テスト中は机の中は空っぽにしないといけないので物が入っているはずがない。
あれか。この感触的に昔あった不幸の手紙とか、そういう類のものか?
今時さ不幸の手紙とか流行らないよ。ただでさえ、手紙からメールに進化したけど、それ以上は何も発展しなかったよなぁ。今はSNSで法令違反の仕事募集が流行っているが、絶対に応募しちゃダメだぞ!
俺はひとまずその手紙らしきものを取り出して確認することに。
改めて俺の机の中に入っていたのは一通の手紙のようだ。そして、宛名に書かれた名前を二度見してしまった。
「橘千隼くんへ……だと!?」
この書き方。そして、机の中に手紙が入っている状況。
それらから推測するに、この手紙はラブレターということになる。
待て待て待て!
これは絶対罠だ。俺こと橘が中学時代、ラブレターを貰って鼻の下を伸ばしながら待ち合わせの体育館裏に行ったが誰もおらず。後日クラスメイトの女子が罰ゲームでやったとわかり、大恥をかいた経験がある。
あれ以来、ラブレターに強烈な抵抗感を覚えるようになってしまった。
そんな黒歴史がある橘よ……辛かったな。
「……」
俺はラブレターらしきものをポケットにしまい、トイレの個室へダッシュ。
鍵をしっかり締めて便座に座ってラブレターらしきものを開封。
一枚の便箋が丁寧に畳まれており、ゆっくりと開いてみると、
「……俺で間違いないみたいだけど果たしてどうなんだか」
便箋には俺に会って話したいことがある旨が書かれており、ちゃんと橘千隼という名前も間違いなく記入してある。
送り主の名前が書いていないのが気になるが、これは正にアレで間違いない。心臓が破裂しそうなほどドクドクと鼓動を打ち、全身が理由もなく熱くなる。
いや落ち着け。深呼吸をして……。
もしこれが物好きによる悪戯だった場合も考慮して、冷静に対処しないといけない。
悪戯と告白の両方のパターンを想定していかないと、中学時代の二の舞になってしまう。とりあえず、この便箋に書かれている場所に行かなければ!
集合場所は図書館か。うちの学校の図書館は別館にあり、蔵書も多く一人で勉強するスペースも豊富なため、主に受験生の三年生の利用が多い。
集合場所を図書館にするに本が好きなのかもしれない。
俺と気が合う人かもしれないな。ちょっと浮かれ気分になるのだった。
高橋に声をかけられたが今はそれどころじゃない。真っ先に図書館に向かい、入ってすぐに席に座りカバンから文庫本を取り出す。
まあ、余裕を持って来ちゃったから本でも読んで暇をつぶしていたところ。
なーんて言い訳が思い浮かぶ時点で相当浮かれているので、ちょっと恥ずかしくなる。
つーか、今時こんな手紙をよこすなんて時代遅れだ。
資源に無駄になるし、何よりもこの便箋が物的証拠となって自分の首を絞めることになるかもしれないのに。
これから話すことは、決して俺こと橘の過去の経験から語っているわけじゃないからな。昔々、あるところに普通の男の子がいました。その男の子は同級生の女の子に思いを寄せていました。
あの子を見る度に胸を昂らせ、あの子ばかり考えるようになり、実生活に影響が出てくるようになってしまいました。
男の子は彼女に思いを伝えたいけど、緊張して言葉が出てこなくなるから手紙で愛を伝えた結果、見事にそのラブレターを晒されましたとさ。
これは俺の友人談だ。ああ。あれは悲惨だった……。
俺何やってんだろ。テストが終わって家でのんびりしようと思ったら、図書館で俺を呼び出した人を待っているなんてさ。
バカバカしい。やっぱり帰るか。
「あ、あの……」
図書館という静謐な場所なせいか、女の子の今にも消えてしまいそうなか弱い声が耳に届いた。
俺は文庫本にしおりを挟んで閉じ、顔を上げるとやや離れた位置からおどろおどろしくしている女子生徒がいた。
俺と目が合うとすぐに隠れてしまい、そーっと顔を出してこちらの様子を窺っている。多分だけど俺に用があるっぽい感じ?
「……?」
俺は自分を指差した。すると、彼女が小さく頷いてくれた。
ああ、間違いないようだ。俺に用があるということはつまりあの子が俺に手紙をよこした張本人ということだろうか。
それにしてもやや小柄で地面につきそうなほど髪の毛が伸び、前髪も長いせいで目が隠れがちになっていて表情が読み取れない。
かなり特徴的な女子生徒だが、あまり見覚えがない。一体彼女は何者だろうか。
「……」
「……」
図書館で睨み合っても意味がない。先ほどのリアクションを見るに警戒心が強い子なのだろう。仕方ないので俺はカバンからノートを取り出してペンでキュキュッと文字を書き込む。
『何か用ですか?』
彼女に書いた文字を見せると、うんうんと頷いてくれた。
『ここだとあれなんで、外に出て話しませんか?』
彼女は頷いて同意してくれた。なんなんだよこれ。
ということで俺と彼女は図書館を出て対面することになるのだった。
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