ラブコメ漫画のサブキャラになったので、主人公をアシストしようとしたらなぜかヒロインたちに好かれていました
さとうがし
一学期編
1.サブキャラになってる!?
いつものように起きて、ご飯を食べて学校へ行き、授業を受けて帰宅する。
ゲームをしたり本を読んだり、映画やアニメを見たりして過ごして時間になったら寝る。
それが俺の日課であり日常であった。
漫画やアニメのような創作に比べたら華やかさのない学生生活だが、それでも俺は平凡な毎日を気に入っていた。学校や交友関係でトラブルがなく、学校でも特別浮いていることもないため何一つ文句がない。
平凡にトラブルなく地味に生きる。それが俺のモットーであり俺が求めていることだ。
今日もトラブルなく一日が終わり、俺はベッドにダイブして目を閉じた。
あっという間に睡魔に負け、意識が遠く沈み込んでいった。
また明日も普段と変わらぬ日常が来ると、この時は思っていた。
いつもとは違うアラーム音で目覚めた。いつアラーム音の設定を変えたんだろうか。後で元に戻しておこうと思い、俺は上半身を起こした。
ぼんやりとして頭が覚醒していないせいか視界がぼやけてしまう。
俺はアラーム音を止めるべく枕元にあるスマホを手に取った。
アラームを解除して時刻を確認。まだまだ時間に余裕がある。
もう五分、いや十分ほど寝ても問題ないだろう。
俺は背中を倒して横になり瞼を閉じるのだった。
……
…………
………………
待て。今日って学校だよな?
やっべぇ! このまま二度寝して寝過ごしでもしたら大変だ!
俺は勢いよく起きて制服に着替えようと思ったところで違和感を覚えた。
「あれ……? ここって俺の部屋だよな?」
違和感の正体がわかり俺は眉根を寄せた。
俺の記憶している自分の部屋と視界に映る部屋は全くの別物だった。
天井も壁も内装も、ベッドや枕、スマホや制服、本棚に至るすべてが知っている俺の部屋ではない。
もしかしたら、俺はまだ寝ぼけて夢でも見ているに違いない。
そうだ。きっとそうだ。
俺は眠気を覚ますため窓を開けるが、やはり知らない景色が広がっていた。
うん。やっぱり違う。全然知らねぇ。これだと頭がおかしくなりそうだ。
色々とツッコミたいところではあるがとりあえず顔を洗って目を覚まそう。
そうすれば夢から覚めて現実に戻れる。そう信じて俺は覚悟を決めてドアを開けた。
部屋を出てすぐに階段があり下りてみると、見覚えがありそうでないような玄関があり、リビングらしきところのドアを開ける。すると、
「あら。今日は珍しいわね。千隼がこんな早く目覚めるなんてねぇ」
俺を見ながら千隼と呼んだ四〇代の女性。あれ? 千隼って名前はどこかで聞いたような……それにこの顔って確か――。
見覚えがあるとかそういうレベルではない、ある一つの仮説が脳裏に浮かびあがってきていた。
「えっと……」
「さっさと朝ごはん食べちゃいなさい。お母さんも忙しいんだから」
そうだ。これは夢だ! 悪い悪い夢に決まっている!
俺は頬をつねり、思いっきり叩いたりしてこの悪い夢からおさらばしようとするが、いくら叩けどつねろうが痛いだけで、逆に目が覚めて思考がクリアになる。
俺の目の前で朝食の準備をしているのは橘佐紀さんだ。
『大好きはやめられない!』っていう有名ラブコメ漫画に出てくる、主人公高橋浩人の友人の橘千隼の母親の名前だ。
『大好きはやめられない!』を友達に勧められて読んだけど、あまり俺の好みではなかったから一巻までしか読んでいない。それでもこの佐紀さんだけは知っている。
確か一巻の後半だったと思う。
高橋が橘の家に遊びに行く描写があり、橘の母親はよく登場していたはず。
なるほど。確かに年齢以上に若く見えるし、目つきが悪い橘に比べて優しそうな顔つきをしている。
きっと橘千隼は父親に似たんだろう。そうかそうか。ん……ということは俺って……。
「ちょっと? 千隼?」
俺はすぐさま洗面所に向かった。
洗面所に着き、俺は恐る恐る顔を上げた。鏡に映っているのは橘千隼だった。
相変わらず目つきが悪く、寝起きということもあって寝ぐせがついている。おまけに目やにもセットで。
俺は顔を冷水で洗い、改めて自分の顔を見つめた。
目の前に映っているのは『大好きはやめられない!』のサブキャラ、橘千隼だ。
間違いない。俺の記憶が間違っていなければ、あの超人気漫画の橘千隼というキャラクターになってしまったらしい。
しかもさ、橘千隼ってキャラクターはあまり好かれていないという余計な情報もセットで。
橘千隼はひねくれものであり、かなり嫌味なことを他のキャラクターに言ったりする。そのせいで俺が知っている限りでは、アンチも多く人気ランキングでは下位が定位置。
おまけにアニメでは出番がかなり減らされ、そのおかげで原作ファンからは寂しいとの声も多少なりとも出たが、アニメファンからは好評だったとか。
どうりで知らない部屋にいるわ、母親が美人で有名な橘佐紀になっているのか。
ちなみに橘佐紀の人気は凄まじく、他のヒロイン同様にフィギュアまで作られているとか……。
なんだろうな。ヒロインたちと肩を並べる母親キャラとか……。
どんだけ人気なんだよ!
つーか、年齢層どうなってんだ……。一応少年誌に連載されているはずなんだが。
まあ、細かいことはいい。
どうやら俺は『大好きはやめられない!』の世界の住人の一人になってしまったことに間違いないようだ。
夢でなければ、という仮定付きだが。
はぁ……意味わかんねぇよ。せめて主人公にしてくれよな!
主人公の高橋浩人って、いろんな女の子にモテるイケメンだし、めっちゃいい奴だったはず。誰に対しても分け隔てなく接する聖人でもあり、橘と違って嫌味のないキャラクター。
なんでそんな聖人君子がこんなひねくれもののキャラと仲がいいのか、疑問が残るが。
つーかあれか。最近流行っている漫画とかアニメ、ゲームの世界のキャラクターになってしまって~、的な感じなのか?
そうかそうか……って納得できるか!
いや、待て。だとしたら最悪じゃねーかよ。
こんな見知らぬ世界にいつの間にか居て、更には嫌われ者のキャラになってるなんて本当に嫌だ。
あれか。橘千隼のように行動しないと世界に異変が起きて崩壊し死亡……なんてこともあるかもしれない。
考えれば考えるほど血の気が引いてくる。ふぇぇ、怖いよう……。
あーもう!
これだったらちゃんと漫画を読むんだった!
一巻で飽きて読むのをやめてしまった過去の自分を恨むのだった。
「千隼? どうしたのさ。どこか体の調子悪いの?」
洗面所まで心配になってやって来た母である佐紀。
俺は怪しまれないように自然に振舞うことを心掛けながら口を開いた。
「あ、いや。ちょっと寝ぼけてたみてぇだわ」
「本当? も~朝っぱらから驚いちゃったじゃないの~。さ、朝ごはん食べましょ」
「あ、ああ」
ひとまずは橘千隼を演じないと。
というか、橘千隼ってどんな人間なんだっけ?
これだからサブキャラは嫌いなんだ。描写が少なすぎるから俺の方で想像力を働かせて補完しないといけない。
はあ……どうなるんだ、俺。
朝食だって喉が通らねぇよ……。
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