狐に転生したようです

汐音

第1話

長いようで短い人生だったと思う。

やったことに後悔はないけど、それでもやっぱり母と父の顔は思い浮かぶ。


親より先に死ぬとは思ってなかった。

もう少し色々やってあげれば良かった。


なんて後悔はもう遅い。

トラックにぶち当たった身体はもう痛みすらも感じない。


「お姉ちゃん?なんで寝てるの?どっかぶつけたの?」


そう言って覗き込むように私の顔を見る1人の子供。

パッと見、怪我はしていないようだ。


良かった。

少しホッとしながら「大丈夫」そう言って安心させてやりたいのに、私の口から出るのは空気だけ。


遠くなっていく意識の中、子供の「お姉ちゃん?」という声と共に周りが「急いでください」とかなんとかって騒いでる声が聞こえる。


「あぁ、、、死ぬってこんな感じなんだな」と少し他人事のようにぼんやり思いながらそっと目を閉じた。


はずだった。

でも今の私は目を開けているし、息もしている。


最初は病院にいて、救急車で運ばれて助かったのだと思った。

けど、周りの景色は病院とはかけ離れてた。


だって、雪降ってんだもん。

真っ白な雪景色の中、私は1人いた。


周りに人や動物の気配はない。

でも多分、山か森なんじゃないかな?


枯れてるけど木が沢山あるし。

動物の気配はないけど、猛吹雪だからだと思うし。


そして、さっきから気になっていることがある。

私の視点、なんか物凄く低くない?


私は女の子なんだけど、身長は160cmは超えてた。

だからこんな低くないはず。


というか、この低さ人間じゃないような気がする。


あ、そうだ。

自分の腕は見えるはず。


そっと自分の腕を持ち上げ、見てみる。

、、、え?


え?

、、、、え?


そっと元に戻して、またそっと持ち上げて見る。

見間違いではないようだ。


そこには肉球があった。

白い毛に纏われたピンクの可愛い肉球。


どうやら、私は何かの動物になっているようだ。

肉球1つでは何の動物とかは分かんないけど。


とりあえず、この猛吹雪で寒くはないけど視界は悪いし、この山か森に、、、もう山で良いや!


この山に何がいるか分からないし、とりあえず安全な場所を探さないと!


この猛吹雪の中歩くのも危険なんだけど、、、。

と辺りを見渡す。


とりあえず近くの木に登れるか試したが、全然登れなかった。


木の下に穴を掘って、、、とも思ったがこの手だと全然掘れない。


いや、一応掘れるけど、、、っといったところで、、、。


どうしよう、、、この視界の悪い中歩く訳にも、、、。


仕方ないから、少し掘った穴の中に埋まった。

毛が白いみたいだし、この吹雪だし、簡単には見つからないだろう。


そして、吹雪がおさまるまでそうして身を隠していた。


それから何日か経ったと思う。

2日か3日か、、、。


お腹も減るし、喉も渇くから雪を飲んで誤魔化していた。


そしてある日吹雪が止んだ。

とは言っても雪はまだ降っている。


だが、もう動いても大丈夫だろう。

なんなら動かないと私も見つかってしまうかもしれないしね。


そう思って、私は穴から出て歩き出した。

もちろん、気配を探り、自分の気配を出来るだけ薄くするために忍び足をしながら。


それからしばらく歩いてると水が薄く凍っていた。

見てみると私は真っ白な狐になっていた。


目の色は水色だった。

空の色と一緒だ。


どうやら、死んで狐に転生したようだ。

なんてこった前世も含めて人生で1番驚きの体験をしている気がする。


いや、気じゃないね。

絶対してるわ。


でも、、、なんとなく分かっていたからか、驚きも衝撃もそれ程なかった。

やっぱりそうなんだって感じがする。


白い毛はもふもふしてて、頭からしっぽまで覆われている。

少し丸く見えるけど、最近ずっと食べてないから気のせいだと思う。


いや、思いたい。

ううん、絶対そうだ。

そうということにしとこう。


よし!確認もしたし、頑張っていこう!

おー!



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