第2話・妖賀 熊女
アギト島にある、高層ビルの屋上──人工竹林の中にある、妖賀忍びの古い屋敷。
和式の奥座敷に正座した熊女は、
座敷にいるのは、野槌 七転、鵺 夜行。それと、若い男女の双子と熊女の五人だった。
熊女が、部屋の隅で寄り添っている双子の女の方を見て、夜行に向って言った。
「なぜ、ミサキがここにいる……見たところ、精神が病んだままではないか。まさか、ミサキも妖賀と魔賀の忍びの争いに参戦させるのか?」
双子の姉『
その姉の心身を気遣う弟の『磯女 カズキ』がいた。
夜行が言った。
「精神が病んでいても、忍びの術は一流です……戦力として、わたしが選びました」
「ミサキを駆り出さなければならないほど、妖賀の忍びは力が落ちているのか……他の忍びは?」
「屋敷の庭の方に三名」
「魔賀忍びの戦力は?」
「わかりません、おそらく魔賀の手練れの上忍が召集されていると思います」
熊女が吐き捨てるような口調で夜行に言った。
「そうか、はっきり言おう。わたしは忍び同士の不毛な死闘を止めるために、この島に来た」
「それは、最初から承知しています。熊女さまの性格なら、そうするであろうと……
『妖賀 目目連』熊女の祖父で先月、妖賀のリーダーを引退している。
「おじい様は、今どこに?」
「目目連さまは個人年金生活で、悠々の老後を満喫しています……今は島を出て大陸の各所観光地巡りの一人旅をしているとか」
「気楽なものだ、孫娘にすべての責任を押しつけて……それで、このアギト島で何が起ころうとしている?」
軍師、夜行の説明がはじまる。
「人工島のアギトが、長年に渡り〝白ネコ党〟と〝黒カラス党〟が抗争を繰り返す治外法権の島だったコトはご存知ですか?」
「それは、知っている……この島で生まれて育ってきたから」
熊女は幼い頃から、見てきた白ネコと黒カラスの構成員同士が、繰り返していた日常的な抗争の場面を思い出す。
「今は二大政党を名乗っていますが、元々は武闘派の暴力集団でした。その二党の抗争を終わらせたのが急死した前大統領『ヤドウ』でした。二党のどちらにも属さない者……ヤドウ大統領が治めていた期間はアギト島も平和でした。ですが、ヤドウ大統領の死去で……」
「アギトで、次期大統領を誰にするのかの、後継者を巡る争いが勃発した」
「その通りです。ヤドウ大統領の跡目は、ヤドウ大統領とは血が繋がっていない義理の弟『ヤシャ』さまでしたがヤシャさまは持病の悪化から、御子息の『虎王』さまが有力視されていましたが……」
「何が起った?」
「ヤドウさまの、愛人の子供……つまり、隠し子の存在が発覚しました」
「なにぃぃ?」
驚く熊女、前大統領のヤドウには実子はおらず。身内で一番近いのは義理の弟のヤシャ。そして、その子供でヤシャとは対立して家を飛び出して
社会に不満を抱きながらも、同時に居場所を求めた者たちの集まり。
自分の目的を模索した日々を過ごしている若者グループ『武王』のリーダーをしている虎王を裏から推していたのが黒カラス党だった……次期大統領の資格者が虎王だけなら、黒カラス党の独占政権が確定するはずだった。
夜行が言った。
「紹介しましょう、ヤドウさまの忘れ形見の『白狐 ダン』さまです……
訝しそうな表情をする熊女。
「高校生じゃないか? 彼が次期大統領の推薦候補?」
「白ネコ党が密かに推しているのがダンさまです……そして、白ネコ党側の忍びが我ら妖賀忍び」
「なるほど、黒カラス党側の忍びが魔賀忍びか……」
黒カラス党にとって、ヤドウの隠し子の白狐 ダンの存在発覚は想定外の展開だった。
「黒カラス党は、魔賀忍びに命じて……【ダンさまを亡き者にするか、辱めた姿を世間に晒して大統領候補から脱落させるか】の指示を出しました。我ら妖賀忍びはダンさまを魔賀忍びの魔手から守らなければなりません」
黒カラス党と白ネコ党のドロドロとした、政界の思惑に引きずり込まれてしまった、男子高校生のダンを熊女は少し複雑な表情で凝視した。
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