レシート

@ku-ro-usagi

読み切り

友人が

1年弱付き合った男と別れたと報告してきた

友人に野暮用があって会った時に

たまたまその彼がいて

ちらっと挨拶だけしたけど

パッと見の外見はSNSで

聞いた限りの経歴は結婚式で

大手を振ってマウント取れる系彼氏だったんだよ

思わず

「勿体な」

って言ったんだけども


友人の話だと

晩秋辺りに付き合って

初めてのクリスマス

貰ったプレゼントのネックレスが入ってた紙袋に

レシート入ってたんだって

その時は

うっかりかなって思って流したそう

でも

ホワイトデーのお返しの

某ブランドのハンドクリームとリップの入った紙袋にも

レシートがしっかり収まっていた

「あれ?」

とは思ったらしいけどね

それ以外はなんら問題ないから

「たまたまかな」

と前向きにうっかりが続いたんだと判断したんだって

でも

友人の部屋へ来る時に買ってくる

コンビニの飲み物の入ったビニール袋にも勿論レシート

試しに

「買ったものをテーブルに出しておいて」

と言えば

レシートはテーブルの上に置かれる

「食事はどうしてたの?」

「基本割り勘か別会計」

なるほど

クリスマスはそもそも互いの仕事が忙しくて会って互いにプレゼントだけ渡したと聞いた

部屋では友人もレシートを手に取って

「なにこれ?」

と冗談めかして笑ってみせたけど

彼氏も

「えー?」

って首傾げて曖昧に笑うだけなんだって

それで

その後も

彼氏からのちょっとしたプレゼントにもレシート入っていて

友人の誕生日プレゼントは何がいいか聞かれたから

財布をリクエストしたんだそう

そしたら

初めてレシート入ってなくて

逆にびっくりして

びっくりしながら

プレゼントされた財布開いたら

札入れ部分にレシート入れられていたんだって

巧妙になってきたな

友人曰く

「このままだとさ

プロポーズの婚約指輪の箱にも

小さく折り畳まれたレシート入れられそうで」

確かに

あり得ないとは言い切れない

その元彼の正確な意図は解らないけれど

「俺はお前にこれだけ使いました」

ってことだよね?

友人は

「多分ね」

と肩を竦めて

「だからプロポーズされる前に別れた」

されると断言できる自信も凄いね


そして

「ここからが本番なんだよ」

と友人

私はもう結構お腹いっぱいなんですけど

そんなこちらの引き気味の言葉は無視された

「仕事場の机に知らないレシートあってさ」

その時は誰かの落とし物だろうとそのまま捨てたって

でも

「仕事場の鍵のかかるロッカーに

入れた覚えないレシート入っててさ

気味悪いけどしっかり見たら

元彼の家の近くのコンビニの住所なのね」

それはそれは

「私が前に彼の部屋に通ってた時のレシートが

変なタイミングで荷物と共にロッカーに落ちたのかなって」

レシートの日付は?

「聞かないで」

大事なところでしょうに

「ロッカーで見つけた当日」

イッツミラクル

私のクソみたいなリアクションは無視して

「それでね」

と続ける友人

「次の日の休日にさ

昼前に起きて

トイレ行って戻ってきたら

少しくしゃくしゃになったレシートが

テーブルの上に広がってたの」

ううん

どうやら

元彼の買い物の時に

ランダムで友人の元へレシートが舞ってくるらしい

ランダムってのが

多分

友人のことを思い出してる時なのではないか

と推測したそうで

私もそう思うけれど

凄いキモい

未練たらったらだし

「でね」

うん

「今、そのレシート持ってきててさ」

鞄を漁る友人

いやいやいや

「出すな出すな」

「なんでよ」

普通に怖いよ

「私だって怖いのよ」

ぐっと迫られたけど

人を巻き込むな


結局見せられたよ

ごく普通のレシートだった

日付も住所も友人曰く元彼の生活圏内らしい

けれど

元彼からの連絡は一切なく

元彼の前ではレシートがどういう状況でなくなるのか

消えることをおかしく思わないのか

そもそも消えておらず

これは複製されたものなのか

何一つ解らないし

それを理由に連絡したら

元彼の思う壺な気がする

だよね

でもそれなら

「元彼の執着が収まるのを待つしかないんじゃない?」

としか言えない

どんなに気味悪くてもね

そもそも

これ持ってどこに駆け込めって言うのさ

友人もそれは解っているみたいで

レシートを無理矢理見せつけてきたせいか

おとなしく頷いてくれて

ひとまずこの話は終わった


大層お人好しな自分は

それでもしばらく

様子伺いの連絡を友人に入れてみたけど

レシートが現れる頻度は変わらず

場所もランダム

たまに鞄の中にも入っていたりして

自分のと混合するくらいには慣れて来てしまったらしい

友人自身が元彼のレシートで心が弱っていたり

ストレスを溜めていないなら

それでいいんだ


そう思ってた矢先

意外な形で決着が付いた

終わりはいつでも唐突で突然だ

そして予想を遥かに越えてくる

何時だったかな

夜中ではあった

多分1時くらい

携帯が鳴ってさ

「昔の男からの着信」

なんてロマンチックなものではなく

友人だった

「どうしようどうしよう怖い怖い怖い……っ」

って

今回のことでも分かると思うけど

わりと肝座ってる方の友人が泣きそうな声で

あれやらこれやらと捲し立ててきて

とりあえず埒が明かないし

友人の部屋へ向かったよ

友人は真夜中にも関わらず

マンションのロビーの外まで出てきていた

パジャマにストール一枚羽織った姿で

「危ないよ」

と嗜めたけど

「部屋よりマシ」

って

何があったのか

押し掛けてきた元彼が部屋に籠城でもしてるのか

と思ったけど

違うらしい

深夜のマンションのロビーで聞いた話では

夜中に目が覚めて

お水でも飲もうと灯り点けずにキッチンに立ったら

流しにパサッて

またレシートみたいなものが落ちてきて

ビクッとしたけど

「またか」

と思ったら

レシートにしては重い?濡れてる?

薄暗い中だったから目を凝らしたら

一部が妙に黒いし

キッチンの灯りを点けた

そしたら

本当になにもない宙から

赤いものがベタベタ付いたレシートが流しにバサバサ落ちてきて


そこまで聞いて私は帰ろうとした

結構本気でね

「待ってよ!!」

と叫ばれてもだよ

出来ることと出来ないことがある

女の友情は儚いのさ

すったもんだの末

結局

うちの近くの美味いイタリアンで御馳走させることを約束させ

私は友人の部屋へ向かった

全てが

友人の目の錯覚だったりすれば良かったんだけどね

「う……」

友人はかなりましな早い段階で

私に電話して外に出てきていたらしい

それ見た瞬間

(……高級フレンチの約束にすれば良かった)

って後悔した

私だってか弱い乙女なのに

レシートは流しの中で半分くらいの山になってた

嵩がなくなってたからね

レシートは後から溢れてきたらしい血でぐっしょりになっていたよ

生臭い

あと、なんだろう

ほんの少し

潮の臭いがした気がした

それよりさ

もう

「これ警察……?」

案件なのでは?

友人は玄関ドアから黙ってかぶりを振るだけ

私は迷った挙げ句スマホで一応写真を撮り

それから

そのまま蛇口から水を流し血を洗い流してから

友人が料理に使っている使い捨ての薄いゴム手袋をはめて

スーパーの袋にぐしゃぐしゃのレシートを一纏めにした

周りに飛び散っていた血も流したよ

もうね

ひたすら無でね

(高級フレンチはランチじゃなくてディナーだ)

(回らない寿司も食べさせてもらおう)

追加報酬だとかね

ひたすら思考を逃避させながらさ

そしてこのマンションは

うちのおんぼろアパートとは違い

いつでもゴミを捨てられる素敵仕様なマンションのため

ゴミステーションまでの案内を頼みつつゴミを捨てに行き

その日はそのまま泊まらせてもらった

けど

うん

なんとなく証拠隠滅をしてしまった悪いことをした気分

でもね

翌日には結局

警察の名を聞くことになった

それは友人のスマホに掛かってきた着信からだった


友人の元彼は

どこかの某港で

友人の更に前の元カノに滅多刺しにされて殺されていた

元カノに相当貢がせて

元カノは消費者金融からも借りて彼に貢いでいたらしい

それがあっさり振られ

(時期的に友人と二股だったっぽい)

貢がされた金で他の女には普通にプレゼントをしていることを知り

問い詰めたら

「もう消費者金融は無理でも、もう一段下の所でならまだ借りられるよね?」

的なことを言われ

その元カノは

「たくさん借りるからデートして♪」

とおねだりし

真夜中の人気のない港まで行き

持参していた包丁で滅多刺しにしたと

なるほど

まず思ったのは

「元カノさんの刑が少しでも軽くなります様に」

だったよね

そこまでのクソだっとは

可哀想にね

え?

同じ元カノの友人に思ったこと?

お前男見る目ないな

早く高級フレンチ奢れ

だよ


それにしても

食事は割り勘

プレゼントも金額としてはごくごく平均なもの

意識的でも無意識的でも

プレゼントにレシートを忍ばせる異常な守銭奴具合

彼が一番好きなのは

友人ではなくお金だったんだろうな

なぜ血塗れレシートが友人の許へ降ってきたのかは解らない

元彼が最後に助けを求めたのが友人なのだろうけど

それもまた

元彼を刺した元彼女が救われない気がした

そしてさ

それらのとんだとばっちりを受けた私の身にもなって欲しい

しばらくレシート見るたびに憂鬱な気分になったし


あぁそうだ

スマホに残っているはずの写真はなくなっていた

確かに撮っていたはずなのに

一番つまらない結果になった


後日

少しドレスアップして食べた高級フレンチはとても美味しかった

2人して

赤ワインだけは避けていたけどね







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