ダークルーム・チルドレン

孔雀と煙

静けさを知らない子どもたち

この記憶がこっちで、この記憶があっちの棚か。だめだな、記憶の壷が多すぎる。これじゃあ終わりっこないな、誰の手でも借りたいな。

記憶で埋まる書庫で整理の仕事を任せれたのは例の子供たちが来てから間もないころだった。

『ンワァ』

またきた。君たちの手は借りれないから何処かへ行きなさい。憩いのパンでも食べておいで。

岩の擦り切れる音が耳をつんざくと、エレベーターが終わりを目指して上っていく。


使命ねぇ…あの子たちに痛みはあるのかな。サイコパスじゃない、純粋な疑問だ。子供が持つような純粋な。


私と同じ白いケープを光り輝かせているあの子は、私が暗い書庫の中で地味に生きている間にも、あの忌々しい石が降りそそぐ場所へと足を進めている。何年研究を経ようと未だに分からないことが多い。


3年前に書庫のアーカイブで見つけたダークルームプロブレムとかいう心理問題に引っかかるものがある。仮に人間に痛みも苦しみもない暗くて安全な部屋【ダークルーム】を用意したとして、人間は外に出て普遍的な刺激を求める。その刺激が小さなトラウマとして重なっていくことが決まっているのに。これは哲学かはたまた王国にはなかった医療の領域なのかわからない。


私は断然前者さ。痛みを忘れる事が出来るなら、とことんこの暗い部屋で研究を続けるつもりだ。だから分からない、あの子どもたちが使命を果たさんと暴風域に行くのが。

何かあるのかもしれないけど、恐らく石になって終わるだけだ。どうやって転生しているのかもわからない。気持ち悪い。毎度変わらない笑顔で死んだはずの子どもたちがあいさつしに来るんだ。あの殻の中にある亡霊達ならきっと、私と違って純粋無垢にこの世界を愛せるのだろう。心底うらやましい。忌々しい。虚しい…。

………………誰か私をこの塔から連れ出してくれ。

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ダークルーム・チルドレン 孔雀と煙 @Kujaku-kemuri

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