いふ

 私の前にすすり泣く女子生徒がいる。

 秋野澪さん。私はこういう時、どうするべきか知らない。でも私はなんか気不味くて、ただそれだけで、多分ただそれだけの理由で話しかけた。

「だい、じょうぶ?秋野さん」

「……ひっく、ひっく……?」

 彼女は目を赤く腫らしながら、目を擦る。

 そういえば、この人の名前呼ぶの初めてだっけ。ちょっと緊張する。

「あまり、目を擦っちゃ駄目だよ?目元荒れちゃうから」

「……(こくん)」

 確かこの子は一言も喋らない事で、有名だったっけ。声聞いたことないような気がする。

「なにかあった?私であれば話聞くよ?」

「…………」

 彼女はすんすん鼻を鳴らして、こくんと頷く。

「…………」

「…………?どうしたの?」

 彼女は喋らない。

「…………」

 頑なに喋ろうとしない。いや、喋れないのだろうか?

「…………」

「うーん、どうしようかな……(汗)」

 私はずーっと俯いて鼻を啜る彼女にどう対応するべきなのか首をひねり、困り果てる。

 何もしないというのも無粋だと思い、とりあえず頭を撫でてあげる。すると、彼女は頬をやっと緩め、唇を綻ばせた。

「大丈夫だよ、大丈夫大丈夫」

 私はそう彼女に言い聞かせ、机に頬杖ついてはにっこりと微笑み、頭を撫で続けた。


 彼女は大丈夫と言ってほしかっただけなのかもしれない。ただ、そう思った。

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