第9話

「じゃあ、殺ろうか♪」


拝啓、ミカと姉さん。どうやら俺の命はここまでらしいです。

悠々自適に歩むサラカに対して、及び腰かつ丸腰のモブ。勝敗は明白だ。


「早速だけど───おやすみ」

「・・・おいおい、殺意高すぎるだろ!?」

『トオルさんっ!!!』


腰に提げた刀を抜いたサラカが俺に向けて一振りしたかと思うと、弧を描く白い閃刃が飛来してきた。

避ける術がない俺は、それをまともに受けて死亡する───わけないだろ!


「ッ!!【断ち切る真髄アヴィ・スクネイダー】ァァァ!!」


僅か数十センチまで迫った飛ぶ斬撃を、ビームサーベルで弾き飛ばす。防げたということから、どうやら【絶対切断《In this world, there is only something that I can cut》】は付与してないノーマル斬撃らしい。

それにしては些か重すぎるというか、モブと主人公のスペックの差を感じざるを得ないというか・・・序盤で即死攻撃はなってくるクソボス臭が凄い。


「おや、驚いたなぁ!やっぱり前に会った時より強くなってるよね」

「ちっ!下がってろよミカ!」

『わかりました!』


ミカを下がらせて、真っ向からサラカと睨み合う。

状況を打破すべくステータスを呼んでみるが、未だに反応がない。


故障か?さっきからずっと沈黙してるけど・・・いや、今はそれどころじゃないな。対面して分かるが、サラカから感じる強者オーラ?みたいなのが迸ってて、震えが止まらない。


・・・一旦落ち着け俺。

いくら相手がクソ強パワー系美少女ゴリラサラカだとしても、弱点はある。これがアニメや漫画なら、謎の主人公補正で俺みたいなモブが勝てるわけがない。


だが、これは生憎現実である。

そこに主人公サラカモブも関係ない。


「相手してやるよ、主人公」

「君の方こそ、乙女にあんなことさせた罪は重いよ?」


互いに得物を構え、相手の間合いに踏み込んだ───その瞬間。


「はい、一旦待ってちょうだい」


「えっ!?」

「なっ!?」


突如現れた黒ずくめの女が俺とサラカの間に入り、その武器を両手で軽々と受け止めた。

しかもそれだけに留まらず、ポイッと武器ごと俺らを投げ捨てる。


余談だが今の俺は鍛えすぎたあまり、筋肉強化と肉体強化が『大』にまで上がっている。分かりやすく言えば、力が強すぎて鉄なんて簡単に曲げられるし、地面に向かって殴れば簡単に罅が入るのである。


そんな俺と、俺以上のゴリラであるサラカの攻撃を受け止め、なおかつ投げ捨てられるなんて・・・どう考えても只者じゃない。


「入学早々喧嘩はだめよ?」

「喧嘩じゃありません、復讐です」

「あら、ならセーフね」

「そこは止めろよ!?」


しかもサラカの復讐許可してるやんけぇ(白目)

どこの誰か知らんが、流石にそこは止めて欲しいんだが。


「うふふ、ごめんなさいね。本当なら戦闘は、きちんと入学してから続きをして欲しいの───けど今回だけと・く・べ・つ!この学園理事長補佐、『赫狂サカグル 陽茜アキネ』が見守ってあげる!」


「な、なに!?『赫狂サカグル 陽茜アキネ』だって!?───すみません、誰でしょうか?」

「えぇぇぇぇえ!?わ、分からない?あのアキネよ?学園トップの美女と謳われる熟練祓魔師ヴォイドの『赫狂サカグル 陽茜アキネ』よ!?」


俺が存じ上げないのを知って、焦ったように自己紹介を重ねる黒ずくめの女、アキネさん。

だが正直に言おう、本当にこんなキャラ俺は知らない。俺が忘れてるとかそういう次元の話じゃなくて、いっっっっさいアニメで出て来なかった。


まぁ、そりゃあアニメで出て来ない人物が出て来てもおかしくはないが・・・黒ずくめにナイスバディーなお姉さんキャラって、なんでアニメで出さなかったのか謎だ。だって人気出そうじゃん。


でもここで分からないですって言ったら可哀想だし、乗ってあげた方がいいよな多分。


「あぁ〜〜確かに見た事ある顔ですね!」

「・・・えっと、私顔出ししてないわよ?」

「あ、すぅーーー」


失敗である。

何か理事長補佐とか言ってたし、知ったかぶりがバレたからこのまま追放とかないだろうか?

だがもし追放されかかっても、裸で土下座するくらいの覚悟はあるから大丈夫である。


「はぁ、まぁいいわ。ところで貴方、一ヶ月前に行った能力検査で最底辺ドベだったトオルくんよね?」

「っ、えぇまぁそうですけど」

「そんな子が何故、我が学校の首席合格者トップの子に喧嘩を売られてるのかしら」


───おいおい、これ言わないといけない流れか?

最悪俺の首がサラカによって飛ぶ(物理的に)可能性がある上に、それ以上言ったらわかるな?と殺気を放つサラカがいるせいで何も言えないんだが。


「アキネ理事長補佐、僕からも言わせてもらいますが、それ以上は聞いて欲しくありません」

「・・・俺もそんなところです」

「あ、あらそう?」


アキネさんは困ったように眉を歪めると、それ以上追求はしてこなかった。何気に俺のゲロ天賦を防いでるから、かなりの実力者なのは確かだ。

あとサラカもちゃっかりゲロ耐性を会得してるし、成長早くない?


まぁ奥の手とも言える技があるから、ゲロ耐性があっても関係はないんだけど・・・主人公相手に通用するのは一回きりだろうなぁ。


「まぁいいわ。取り敢えず私の権限で、この喧嘩に勝った方に“ポイント”を振り分けてあげる。そうすればサラカちゃんは復讐するついでにポイント貰えて、トオル君は首席トップに勝った実績とポイントが貰える・・・ね、お得でしょ?」

「本当ですかアキネ理事長補佐!?俄然ボコボコにする気が湧いてきましたよ───逃げないよね、トオルくん」

「は、はい!」


サラカにガンを飛ばされ思わず頷く俺と、やる気満々ねぇと呑気に笑うアキネさん。そして完全に人を殺る目になっているサラカ。

あれ、俺ホントにここで死ぬ?味方誰もいないんだけど・・・やるしかねぇけどさぁ!


それに“ポイント”を貰えるってのはありがたい。

オギサリス学園で生活する上で必要になってくるのが、ポイントと呼ばれる通貨の代わりをした仮装得点だ。これは現金と引き換えることも出来るのだが、基本的には学校内での“戦闘”や“テスト”結果によって振り分けられる。


生徒同士で戦う決闘や、簡単な体力テストの結果が良い者は他者に比べて多くのポイントを貰えるし、低い者は逆に少なかったりする。


つまりここ、オキザリス学園は───完全な実力主義の学園なのだ。


「じゃあ、続きをしようか」

「・・・負ける気はねぇ、モブの実力を見せてやるよ」


そう宣ったは良いものの、足の震えは止まらない。


だって、負けたらその時点で他のモブと変わらない。主人公の当て馬となる運命の、至極当然の結果として周知されるだけだ。

───けどそんなのは認めない、認めなるものか。


この身体は俺のものじゃなくて、元はトオル君の身体である。そんな借り物をモブという理由だけでボロボロにされ、挙句適当に殺されるなんてことは、絶対に避けたい。


───だから目指した、お前主人公を。

負けても強くなって、諦めずにヒロインを守って、最後には絶対に勝つお前を、俺は目指してるんだよ。

だから“まだ”負ける訳にはいかない。


「さぁ、やろうぜ」

「ふぅん、良い目になったね。僕好きだよ、その眼」


「威勢が良くて何より。それじゃあ始めなさい」


アキネさんの合図が終わった瞬間、互いの刃が交錯する。

ギリギリと白刃が押し付けられ、凄まじい衝撃が全身を駆け巡った。


だがそれだけでは留まらず、空間を割くように振るわれるサラカの斬撃は、どんどん速度を増していく。その度に体幹強化を発動しているはずの身体がぐらつき、視覚強化をしても見失う程の速度が身体を襲う。

一合、二合と攻防を繰り返していくうちに、剣筋を逸らすことで必死の俺とそんな俺を追い詰めていくサラカの構図になった。


呼吸を整える暇もなく、反撃する隙もない。

そして理解した。サラカの斬撃は単なる力のゴリ押しなんかじゃなく、精密な剣捌きと類稀なセンスに裏打ちされた、血の滲むような努力の結晶───その到達点の剣戟だと。


もう笑うしかない。

マジかよお前、強過ぎるだろ?なんて言おうとしてた口を閉じて、必死にサラカの斬撃を相殺していく。

最初から勝てるわけがねぇって、分かってた事だ。

・・・あぁそうだよ、俺は分かってるんだ。たった数日で身に付けた付け焼き刃じゃ、主人公を倒せるわけがないってことくらい。


「ふふっ、大分苦しそうだね?」

「きっ、のせいっだ!」


だがそれは諦める理由にはならないし、俺だってそう易々と負けるつもりは微塵もない。


息付く暇もないとはまさにこの事だろうか。

俺はもはや瞬きも忘れ、今にも身体を食い破ってきそうな凶暴な剛剣を迎え撃っていた。半ば無意識だったのかもしれない。


「ッァァアアアア!!!」

「っな!?」


気付けば俺は雄叫びを上げて、サラカの剣を弾き飛ばしていた。そしてそのまま、驚きの表情を浮かべている顔に向かって剣を叩き付ける。

───捕った、そう思った。


「甘いよっ!!」

「くそ、そう上手くいかねぇか」


だが現実は甘くない。アイツは驚異的な反応速度で俺の斬撃をスレスレで躱したかと思うと、そのまま後方へ一回転。弾き飛ばされた剣を拾い、再び俺に剣先を向けた。


仕切り直しだ。

アイツに習って、俺も再び剣先を向ける。明らかな膠着状態だ。

だがそんな状況だからなのか、サラカが微笑みながら話し掛けてきた。


「・・・正直言おう、驚いたよ。まさか弾き飛ばされるなんて思っても見なかった───君、強いね。流石怪獣から恋人を守ってただけあるよ」

「あ?あ、あぁ・・・てか待て、恋人って誰のことだよ」

「ほら、あのプラチナブロンドの髪してたアンドロイドの女の子」

「プラチナブロンドでアンドロイドって・・・それミカじゃねぇか!恋人じゃねぇよ!家族ではあるけどな」


なんだ、精神的揺さぶりか?だがサラカがそんな卑怯なことをするはずがない・・・ということは、ただ単純に気になっているだけ、か?

───嫌な予感がする。これはそう、コハルにデート(デートじゃない)を申し込まれた時のような、嫌な感覚。


「へぇ・・・てことは、君は今彼女も彼氏もいない、と」

「そうだよ、悪かったな誰も居なくて」


そう言って自嘲気味に笑うと、サラカは「そんなこと言ってないんだけどなぁ」と笑いながらゆっくりと近寄ってきた。俺は何のつもりか分からずに構えていると、笑みを浮かべたまま提案を持ち掛けてくる。


「ねぇ、こうして攻撃し合うのもいいけどさ。次は互いに一撃で決着つけない?まどろっこしいのは苦手なんだ」


その提案に俺は、思わず生唾を飲んだ。

一撃というからには【絶対切断《In this world, there is only something that I can cut》】を使う気か?確かにあれほどタイマン性能に優れた【天啓】はそうそうないが・・・流石に違うと思いたい。


その確認をするために恐る恐る聞いてみるが───。


「おいおい、殺す気かよ?」

「少しは加減するさ。けど、本気で来てくれないと───切っちゃうかも?」

『そ、そんな!?お二人ともお止め下さい!』


───コイツっ!いくら何でも無茶苦茶だろ!?


ミカの悲鳴が轟く。大丈夫だ、とは言えなかった。

俺たちを眺めていたアキネさんがミカに「私が守るから大丈夫よ」と言っているが、正直防御が通用するか怪しい。


それに加え、俺の頭の中は大荒れしていた。


妖しくふふっと笑うその顔からは想像出来ないが、主人公様はどうやらかなり俺に興味津々らしい。これは自惚れでも何でもなく、【絶対切断《In this world, there is only something that I can cut》】のような【天啓】自体、緊急時ですぐにでも使う必要がある場合、もしくは興味がある相手にしか使わない。


そして今は緊急時でも何でもないのだから、俺に興味を示してくれているということだろう───出来ればその興味をヒロイン達に向けて欲しいんですがそれは。

可能なら主人公達に鑑賞せず、ただのモブとして百合を眺めていたい。そう思っていたのに、ここまで目を付けられるとはかなりの大誤算だ。


だが俺はここで名案を閃いた。


───興味持たれてるなら、嫌われれば良くね?


「ふは、ふはは、ふははははっ!!この一撃勝負に勝ったら、めちゃくちゃにしてやるじぇい!」

「え、えぇ?君ってそう言う性格だっけ・・・?」

『トオルさん・・・後でお話があります』


キモイ俺、再始動。

勘違いして貰っては困るが、例え勝ったとしても興味持たれるし、負けたら負けたでワンチャン死にかねないのでこうするしかないのである。

考えても見ろ!誰が好き好んで推しに嫌われたいんだよ!俺だって最推しの主人公に嫌われたくねぇよ!(血涙)


───だが俺は百合を愛する者として、俺一人の犠牲で百合が達成出来るならそれでいい。でもミカさん、どうか命だけはお助けを・・・。


「めちゃくちゃに、ねぇ・・・いいよ、負けたら何でもしてあげる。その代わり、僕が勝ったら何をして貰おうかなぁ?」

「っ、は、はん!考えるのに夢中で負けましたとかやめろよ!」

「ふふっ、勿論さ。じゃ───やるよ」

「あぁ、合図はいらねぇ」


嘘である。ぶっちゃけ怖い。

でもこの一撃を“耐え切れば”、実質俺の勝ちである。


肺から酸素を取り込み、しっかりと呼吸を促す。そして、手元に握っていたビームサーベルを仕舞った。これじゃサラカの斬撃を受け切れないからだ。


「来い───“マサムネ”」


胸元から、青白い光を帯びた刀がゆっくりと引き抜かれていく。煌めく星のような紋様が描かれた月白色の刀身が顕現し、俺の手に収まっていく。

やがて完全に顕現したマサムネは、太陽の光を反射し、青白い光を明滅させながらサラカと相対する。


「───“断”」

「───“一閃”」


始まりは突然だった。

互いの放った斬撃が衝突し、凄まじい熱気と衝撃が迸る。普通なら、サラカの【絶対切断《In this world, there is only something that I can cut》】は文字通りの効果を持って、俺の『一閃』を軽々と切断してみせるだろう。だが今は、その凶刃がしっかりと『一閃』に食い止められて、完全に拮抗していた。


なぜ俺がサラカの攻撃を受け止められているのか、そう不思議に思うかもしれない。だが、カラクリは簡単だ。まぁ、タダの力押しみたいなものなんだがな。


それはひとえに、【独自才覚オリジナルスキル】である『一閃』と【天賦】である『断ち切る真髄アヴィ・スクネイダー』を重ね合わせた“複合技”、とでも言うべきだろうか。

サラカに負けたくないという俺の気持ちを汲んだ『一閃』を『断ち切る真髄アヴィ・スクネイダー』が底上げして何とかギリギリ、サラカと真正面から打ち合えているのだ。


だが、まだ足りない。青白い俺の斬撃と、ドス黒いサラカの斬撃同士が互いを切り裂かんばかりに衝突の勢いを増し、ミシリと変な音を立てて罅が入る───俺の斬撃だけにだ。サラカのほうは傷一つない。


やはりダメか?【天啓】相手には天啓じゃないとダメなのか?・・・いや、そんなわけがない。


「応えろォッ!一閃ッ!!!」


俺の想い、願いによって『一閃』は───更に昇華するッ!


「トオル君、キミ最高だよ!!凄い、凄いよ!僕と打ち合ってもなお切れないなんて・・・最高だ。でもね?そんな力があったらこの先、必ずキミは挫折する。碌な未来なんてない!───だからこそ、この僕が捩じ伏せるよ」

「ッハハ!そんなの今更なんだよォ!・・・それに、だ。お前何か勘違いしてないか?」

「へぇ、言ってみなよ」


サラカの冷たい視線が突き刺さり、縫い針のように身体を縛られる感覚に襲われる。眼前で巻き起こる斬撃の衝突は互いに譲らず、常に拮抗していた。だが、その拮抗が徐々に覆っていく。


「───いつから、お前主人公が勝つって錯覚してんだ」


少しずつ、だが確かに───“青白い斬撃”が黒い斬撃を押し切っていく。


「っ、凄いよキミ本当に。まるで僕と戦う時の対策をされているみたいに、悉く僕の予想を上回ってくる・・・けど、僕だって負ける訳にはいかないんだよ!」


その様子に目を見開いたサラカは一人愚痴を吐いて、斬撃の威力をより一層強くした。それと同時に、押されていた黒い斬撃は勢いを取り戻し、青白い斬撃と切り結ぶ。


「「 ッ ッ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ! ! ! 」」


俺の咆哮か、それともサラカの咆哮か分からなくなるほどの雄叫び。お互いの視線の先には、真剣な眼差しを浮かべた両名が映る。空間が弾け飛びそうな衝撃に耐えながら、マサムネを手放さないように強く握りこんだ。お陰で交錯した斬撃が、ギリギリと甲高い音を響かせて止まない。


そして、限界に達した二つの斬撃は───パリンッ。という音ともに弾け飛んでいった。


「は?」

「え?」


互いに気の抜けた声が零れる。

え?弾け飛んで消え去ったんだけど・・・?


思わず目が点になるが、一撃勝負だから追撃することも出来ない。つまり、完全に進行不可なバグみたいな状況である。


「───おめでとう、トオル君の勝ちだ」

「い、いいや。どう見てもお前の勝ちだ」


いたたまれなくなった俺達は互いに勝利を譲り合うが、正直勝った気なんてサラサラない。勿論負けたつもりもないが、弾け飛ぶなんて想像出来なかったのはしょうがなくない?


「凄いわねぇ。まさか威力が高すぎて弾け飛ぶなんて」


すると、そんな俺達を観察していたアキネさんが補足をしてくれた。

はっきりと見ていたから分かるが、サラカの黒い斬撃が青白い斬撃を切り裂き、俺の青白い斬撃が黒い斬撃を粉々にしたのである。


お陰でその影響下にあった地面に凸凹と穴が空き、罅が割れ、亀裂が至る所に確認出来る。


「てことは、決着は五分ってことか」

「そういう結果に落ち着くね・・・君がお望みならもう一回するけど、どう?」

「ぜっっっっったいにやらねぇ!!」

「ふふっ、じゃあまたいつか決着をつけよう」


「解決したみたいで良かったわ。それじゃ、私は割れた地面を修復するから、貴方達は指定された教室に戻りなさい?ポイントはピッタリ半分に振り分けてあげるから」


───なん、だと!?

と驚くのも束の間、ステータスに記載されていた零の表示が十万に増えていた。

通常、一人を倒して奪えるポイントが千ポイント近くなのを加味すれば、破格と言っても過言ではない程度のポイント量だ。


となるとこれは、俺がポイント狙いの生徒への撒き餌みたいな扱いになって欲しいんじゃないだろうか?


「あ、あんたもしかして・・・」


「なんの事かしら?それじゃ、元気でね」


「な!?お、おい!」


そう言って姿を消したアキネを見て、疑念は確信へと変わった───ダウトだ!絶対アイツ、俺を撒き餌代わりにして遊んでるぞ!?


「・・・くっそ、折角の“路肩の石のような存在感モブモブモブ”がぁ!」


存在感を消してひっそりと強くなるつもりだったのに、これじゃあ注目を浴びまくりだ。ポイントを貰えるのはありがたいが、本当にいい迷惑である。ため息を吐いてサラカの方を向くと、困った表情で微笑まれた。


「はぁ、しょうがない。取り敢えず、教室に行かないか?」

「そうだね・・・じゃあ僕も───って、うわわわっ!?」


俺が教室を指さして急かすと、何故か俺の隣に来るように走って来たサラカが、さっきの戦いで飛び散った地面の破片に足を取られて、バランスを崩したサラカが俺の方へ。


「お、おいちょっ!?」


───これはまさか、ラッキースケベ!?


そう知覚した瞬間、俺の視界を胸が塞いだ。

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