第1話
俺はアニメが好きだ。その中でも少女が敵をぶっ倒して、葛藤して、ライバルと切磋琢磨するタイプのジャンルをこよなく愛している。
『とある日常を願って』は、俺の中で殿堂入りレベルかつトップクラスで好きな作品だ。
物語の舞台はサイバーパンク世界。主人公が物凄く可愛い(ここ重要)『
うん、もう分かるよね?
こんな話を持ち出すんだから、俺も勿論『とある日常』の世界に転生しちゃったんだって・・・それは間違ってない。
だけど悲報なのは───。
「何でだよぉぉぉ!!!・・・てか何処よここ」
───俺がそのモブに転生していたことだ。しかも男である。
いや本当にふざけないで欲しい。百合エロゲーの世界じゃ、モブは精々竿役かヒロイン達に首チョンパされる程度の糞キャラだ。
一体どこの世界に、インフレ激しい世界のモブに転生したがるアホがいるんだろうか?いやここにいるけどね!(白目)
しかも鏡で自分の顔を確認したら、絶妙にムカつくイケメンフェイスだった。どっかで見覚えがあると思ったら、主人公に絡んだ挙句ボコボコにされたモブだ、間違いない。
そもそもなぜ、『とある日常』の世界に転生にしたと分かったのか。
───「何焦ってるんですか、気持ち悪いですよ」
「うるせぇ!ステータスが喋んな」
───『何か問題でも?』
脳内で呆れた女のような声が木霊し、自身の存在を主張してくる。コイツの正体は、【拡張脳内デバイス】と呼ばれる人工知能だ。アニメでは省略してステータスと呼称していた。
『とある日常』ではこの喋るステータスが何度も登場したし、主人公を励ましたり導いたりしてくれるお助けキャラ(?)だった。
でもぶっちゃけね、起きたら目の前にステータスって書かれた画面が出て来たら心臓止まりますよ?冗談じゃないからね?
しかもそのステータスがいきなり喋り出して、「絶妙にムカつく顔してますよねアナタ」なんて罵倒されたのである。お兄さん心臓止まったよ?
兎も角として喋り出すステータスやら見覚えのあるモブ顔やら、窓を開けたら空飛ぶ車の行き交う空が見えるやらで、どう考えても『とある日常』の世界としか言い様がない。
「・・・どうしよう、主人公でも探すか?」
俺としては、『とある日常』の世界だと確信が欲しい。八割方そうだと思ってるけどな。
それに確信が得られれば、モブに厳しい女尊男卑の世界で生き抜いていく対策が立てられる。
けどなぁ、主人公に無闇に接触するのも原作ブレイクしかねないからなぁ。やはり原作が好きな者としては、主人公とか主要キャラたちとは接触せずに生きていきたい。
でも一ファンとしては一目でもいいから主人公やらヒロインやらを拝みたい。空気になってヒロインと主人公のイチャイチャを眺めたいのだ。
この二律背反ともいえる悩みに苦悩するが、必死に考えを巡らせても答えは出なかった。
───『そんな下卑た顔で何を考えてるんですか変態!』
「えぇ?俺そんな顔してた?」
───『
「泣いた、誤魔化し方が下手なのも余計に泣けてくる」
どうやら考えすぎて変な顔になっていたらしい。失礼なやつだな!
ステータスに貶されたあげく誤魔化されるという高度なプレイを堪能しつつ、早速自分のステータスを確認してみる。
モブだから弱いんじゃね?でもこういうのって大体、実はクソ強いモブでした!みたいなパターンがあるから大丈夫でしょ(楽観視)
───《個体名:
【識別ID:M08dd.esu】
《身長 1788mm》《性格 屑》 《体温:異常なし》《体調:異常なし》
【
・“
『気持ちの悪い笑み。笑みを浮かべるだけで対象は自身に対して、良い感情を抱かなくなる。確率で吐く』
・“
『吐き気を催す声。話しかけるだけで対象は自身に対して、良い感情を抱かなくなる。確率で吐く』
・“
『自身の存在感を無くす。対象に話し掛けるか微笑むことによって、このスキルは解除される』
・・・どうやら神は俺のことが嫌いらしい。
何だこの糞みたいな説明文はァ!喧嘩売ってるのか!?
何が気味の悪い笑みと吐き気を催す声だよ、こえーよ普通に。このままいけば、近くにいるだけで
ちなみに天賦というのは、自身が人として成長することによって新しく発生したり、消えたり、退化したり、逆に進化したりするスキルのようなものだ。サイバーパンクの世界でも説明できない、神から与えられた才能───故に
例として主人公ちゃんの天賦を挙げるなら、【
わかる、何そのぶっ壊れって感じだよな。
だけど主人公はこういう天賦を何十個も持ってる。だから後のインフレにも難なく着いて行けるし、三章の最初の時点じゃ一章のラスボスが雑魚扱いなんて当たり前なのである。
天賦以外にも【才覚】や【天啓】なんていうモノもあるが、普通の人間は何十個も持てない。主人公がおかしいだけだ。
そんな何処ぞの戦闘民族のような主人公とか比べて、
よし、それならこの際注文し直して貰おうか!HAHAHA!───はぁ、泣けてきた。
「そもそもなんでこの世界に来ちまったんだ。特にやりたいこともないし、モブ女ならまだしもモブ男だから、補正入ってすぐ死にそう・・・」
───『あら?今日のマスターはテンションが低いですね。いつもなら女の
「おうふ、なかなかチャレンジャーだな俺!?」
生きるのにも必死なのに、そんなに早く
だがトオルという名前もステータスを見て初めて知ったレベルの
せめてこれがオリ主とかだったら盛られても良いと思うが、中途半端に物語に出てきたせいで強くなる可能性が見えない・・・もしかして俺、詰んだ?
「トオル〜!ご飯よー!」
自分の将来について絶望していると、家の真下から姉の声が聞こえる。トオル君の姉であって俺の姉ではないのだが、なぜだか親しみを感じた。
これがママみならぬアネみか。
トオル君の記憶を頼りに、ドアを開けて下に降りようとドアノブに手をかけた。
「うぉっ!?さすがサイバーパンク、家にエレベーターまであるのか」
開けた先にはエレベーターがあり、乗り込むとすぐに下の階へ辿り着く。
「おはよ〜トオル」
『トオルさん、オハヨウございます』
そこで目にしたのはトオルの姉である“ミノト”が、人間の女性そっくりで扇情的なエプロンを付けているアンドロイドにアーンされている光景だった。
あっ、ご馳走様です(昇天)
「アッ、あの、おはよう、ございマス・・・」
ここで
姉として接してきた記憶はあるものの、自分としては初対面なのでめちゃくちゃ吃ってしまう。
おい
「あははっ、朝からなにキョドってるのよ」
『すぐに準備致します、少々お待ちクダさい』
そんな俺を見て姉さんは一頻り笑い、アーンをしていたアンドロイドが物凄い速度で、俺のテーブルに食べ物を用意してくれた。
トオルくんの記憶によれば、彼女は我が家の【家庭内メイド型自律機構】であるミカさんというアンドロイドらしい。
それにしても・・・ううむ、エロい。なんて格好をしているんだろうか。
服装はメイド服に似ているのに、胸やおしりを強調したデザインになっている。食べ物を準備している間にもナニがぷるりんと揺れて、流石は百合エロアニメの世界だと天を仰いだ。
でもね?この格好、『とある日常』の世界じゃ常識です。
そんなエッッッな格好をしているのに、プラチナブロンドの柔らかな髪と紫色の瞳のコントラストが眩しくて、とても可愛いらしい。服は兎も角見た目は清楚に見えるな。
決してダッチワイフじゃないぞ。
だが、一つ問いたい───何だこの食べ物は(戦慄)
見た目はカレーだが、色が良くない。何か紫色してる。
匂いはいいのに食欲をそそられないせいで、かなり食べ辛い。
『お食べにナラナイのですか?』
「っ、た、食べるさ!」
暫くスプーンを持ったまま硬直していると、ミカが悲しそうな顔を浮かべてお皿を下げようとしてきた。
くそ!そんな顔されたら食わざるをえないじゃないか!
因みにアンドロイドとあって人そっくりだが、身体の作りも人間ベースのためアレな行為もできる。
お陰で主人公とのイチャラブ○ッチはとても抜けましたありがとうございまぁァァァァ───あれ?
「お、美味しいだと!?」
不味くても大丈夫な様にアンドロイドと主人公の百合○ッチを想像しながら喉に流しこんだが、そのあまりの美味しさに絶句する。
嘘やろ?こんな美味しくなさそうな見た目で?詐欺ですやん。
『うふふ、喜んでイタダけて何よりデス。それとミナト様?ソロそろお仕事に向かわレル時間では?』
「あっ!?やばい忘れてた!後片付けお願いッ!!」
姉さんはミカに促されて焦った後、玄関前でそそくさと着替えて原作でよく見た【
お分かりだろうか?この世界がどれだけ元の世界の先を行っているか。
人の形そっくりのアンドロイドであるミカに、【
控えめに言って進みすぎだ。
学校も一応は存在するが、勉強せずとも脳内に直接知識を流し込めるため、未成年の女子達たちの交流の場と化している。だから小学校や中学校、高等学校までしか存在しない。
「どうしようか、俺この世界に来てもやりたいことないぞ」
───『この世界?もしかしてマスターは何かご病気が・・・ですがバイタルに異常は見られないですね、おかしいです』
「悪かったなおかしい奴で」
トオルの記憶によれば一週間後に高校に入学らしいが、俺は出来れば行きたくない。だって主人公と同じ高校に行くしコイツ。
出来れば俺は主人公とヒロイン達の百合に挟まりたくないのだ。
それにクール系かつ嫌な男絶対殺すウーメンな主人公と出くわしたときに、どんな化学変化があるか分からない。ワンチャン見た目がダメとかで主人公に処されかねないぞ。この世界のモブ男不遇すぎるだろ。
モブくんにも人権はあるんですよ(白目)
でも不遇なのは仕方ない。なぜなら───!?
「ッなんだ!?」
突如として、置かれているテーブルがガタガタと音を立てて震え始める。
思わず立ち上がれば、この建物全体が大きく揺れていることに気付いた。
───『
『トオルさん!身を屈んでくだサイッ!!───来ます!』
突如起きた謎の地震によって、足元がもたつく。ミカが俺に抱きついて揺れから守ってくれた。
そして俺は、この揺れに“見覚え”がある。
これはそう、まるで。
「 G u u u u u・・・」
怪獣が出現した時のような───!?
「 G Y A A A A A A A A A ! ! ! !」
「うっ!?」
『耳を閉じてくださいトオルさん!』
家全体が怪獣の彷徨によって大きく揺れた。だが問題なのはそこではなく、その“声量”だ。耳を劈くとかそのレベルじゃない。
鼓膜が破れかねないほどの衝撃波を伴って、怪獣の咆哮は放たれた。威力はもはや咆哮ではなく、明確な“攻撃”として家の屋根がズタボロに吹き飛ばされた。
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