第23話 SSランクダンジョンへ
さて、気を取り直して……
カオリたちを迎えに来たのはシゲさんこと天煌陛下の影の棟梁である。
「カオリ様、お久しぶりでございます…… 相変わらずのようで安心いたしました」
シゲさんの口調には諦めと呆れがあったがカオリは気づかぬフリをして挨拶をする。
「シゲさん、久しぶりね。ミネさんもお元気かしら? 主人とははじめましてよね?」
カオリの言葉にシゲは首を横に振り、
「いえ、タモツ様が中学生の頃に一度お会いしております。まあ、その時は立場を明かしてはおりませんでしたが」
と答えた。その言葉にタモツは少し考えてから、
「あっ!? あの時の!! その節はお世話になりました」
と思い出したのかシゲに礼を述べた。
「あなた、その節はって?」
カオリが不思議そうにタモツに聞くと、
「学校の修学旅行で僕の班が道に迷った時に案内してくれたんだよ」
とタモツが言うとシゲもその通りとばかりに頷いた。
「でもあなたが中学生の頃っていう事は何十年も前よね? よくその時案内してくれたのが目の前のシゲさんだって分かったわね」
とカオリが言うとタモツは
「いや、その…… 失礼かもしれないけどあの頃も今とそれほどお変わりない容姿だった……」
と言い淀む。
「あら、うふふふ。そういえばそうね。シゲさんって若い頃と今とであんまり変わってないものね。でも、年齢不詳で影としてはいい事よね」
「まあ、私の事は置いておいて、早速ですが参りましょう。シオリ様はまだ床に倒れられたまま誰も触れられない状態なのです……」
シゲがそう言うとカオリが少し怒る。
「まあ! 大の大人が揃ってレディを床に寝かせたままなんて! 煌宮も困ったものね!」
「いえ、カオリ様。あの
シゲの言葉にカオリもタモツも驚いた。
「えっ! お義父さんがっ!?」
「父がですか!?」
「はい、幸いというかご自身のスキルを発動されていたので大事には至りませんでしたが、体調を崩されておりまして…… タモツ様にご連絡をするのは決断されるまで悩まれておりました」
シゲの言葉にカオリはタモツとシゲに言う。
「シゲさん、お義父さんはまだ煌宮にいらっしゃるのかしら? そう、おられるのね。あなた、私は一足先に向かいます。あなたはシゲさんと一緒に来てちょうだい」
そう言うとカオリは加速を使って煌宮へと走り出した。残されたシゲはタモツに我々も行きましょうと言って案内を始めた。
煌宮に着いてカオリは先ずは橘家の間へと向かった。そこには床に伏せているタモツの父がいた。
「お義父さん、大丈夫ですか?」
起きている義父、
「おお! カオリさん、来てくれたんだね。済まないね、昨夜まではこの床から体を起こす事も出来なかったのだが、突然少しずつだが呪詛の影響が弱ってきてね。今は起き上がるぐらいは問題ないよ」
昨夜、ホテルからタモツが更に盾を張った事により、煌宮内部の悪しき物をも弱らせる事に成功している事は誰も気がついていない。
「良かった、お義父さんまで呪詛にヤられてしまってたらどうしようかと思いました。うちの兄はどうでしょうか?」
「ああ、宗一くんならば心配ないよ。直ぐに手を引いたので影響は小さかったらしく、奥さんのレアさんが故郷の秘術を使用されて呪詛を取り払ったそうだよ。だけどその秘術でも私もシオリも受けた呪詛を取り払う事が出来なくてね……」
「そうなんですね。さすがは
カオリが考えているとトウセンが言いにくそうにカオリに伝えた。
「カオリさん、済まないが大和州のSSランクダンジョンに向かってくれないか…… そこの8階層で手に入るアレがあればシオリの呪詛は解ける筈だから……」
「まあ! そうなんですか!? 大和州のSSランクダンジョンと言えば…… 【東大寺】ですね。8階層という事は明王の階層だけで良いんですね」
カオリは即座に受け答えた。
「うん、そうだ。【東大寺】は天の間(3階層)、明王の間(5階層)、菩薩の間(15階層)、如来の間(25階層)、釈迦の間(1階層)に分かれているけど、明王の間の最終の階層で手に入る、愛染夜叉明王の護炎があればどんな呪詛でも解く事が出来る筈なんだ。カオリさんにしか頼めない、私の娘の為という私事になるが、どうかよろしく頼む!!」
トウセンはそう言うとカオリに土下座をする。
「お義父さん、頭を上げて下さい。私にとってもシオリちゃんは可愛い妹ですもの。もちろん、ちゃちゃっと行ってもらってきますわ!」
笑顔でそう言うカオリにトウセンはまた頭を下げて有難うと言った。それを確認してからカオリはシオリを見に行くと言って部屋を後にした。
近習に聞いてシオリの部屋に向かうと中にはリョウちゃんがいた。倒れたシオリを力なく見つめている……
「リョウちゃん……」
カオリがそう声をかけると、
「カオリ姉さん…… 僕は…… 無力だ…… シオリは僕を守って……」
と力なく言う。そんなリョウちゃんにカオリは言った。
「胸を張ってしっかりと立ちなさい! リョウちゃん!! あなたは天煌なのよ! たかが妖蓮の呪詛ごとき、あなたには何の影響も無いわ!! さあ、シオリちゃんを抱き上げてベッドに連れていってあげて。それが出来るのはリョウちゃんだけよ」
カオリの言葉に周りにいた近習は目を白黒させ、影の護衛たちはオロオロとした気配を発した。
「できない…… カオリ姉さん…… 僕がもし呪詛に負けて倒れたら、シオリが守ってくれた事が無駄になってしまう……」
リョウちゃんからはそんな弱気な言葉が出た。
「ふう〜、どうやら泣き虫リョウちゃんに戻っちゃったみたね。あの時、私に誓ったリョウちゃんはもう居ないのね……」
カオリから、挑発とも取れるような言葉をかけられたリョウちゃんはハッとする。
「いやっ!! いいやっ!! カオリ姉さんに誓ったのは嘘じゃないっ!! 私は例え
リョウちゃんの身体から天煌のオーラが溢れ出す。天煌とは元来、
古来より日の本を守護してきた者の末裔なのだ。
そのオーラを身に纏ったリョウちゃんは躊躇せずに床に倒れたシオリに触れ、抱き上げた。
「陛下!?」
「陛下、成りませぬっ!!」
近習たちの声を聞かずにそのままシオリをベッドへと運ぶリョウちゃん。シオリの内部からリョウちゃんを襲う呪詛だったが尽くオーラによって阻まれ打ち消されて行く。
そっとベッドの上にシオリを横たえたリョウちゃんはすぐ側に近づいていたカオリにより頭を撫でられた。
「よく出来ました。それでこそ、リョウちゃんよ! さあ、後の事は私と主人に任せてお休みなさい。起きたら全ては終わって元のようになってるわ」
カオリがそう言うとリョウちゃんは微笑みながら、
「やっぱり、カオリ姉さんには敵わないな…… ゴメン、後はお願いします……」
そう言ってカオリの腕の中で気絶したのだった。
「ミネさん、リョウちゃんの私室はあそこかしら? 主人が来るまで私がリョウちゃんに着いておくわ」
呼びかけられ、何処からともなくスッと現れるミネ。
「はい、カオリ様。コチラでございます。けれども、相変わらず厳しいですね、カオリ様」
「あら、うふふふ。そんな事はないわ、ミネさん。私はリョウちゃんに出来ない事をやれって言った事は無いわよ」
そんな会話を聞きながら近習たちが不敬だなんだと騒いでいたが、すべてを無視してリョウちゃんを抱えて私室へ向かい、リョウちゃんをベッドに寝かせたカオリは、優しくその頭を撫でていた。
それから10分後、タモツが到着した。タモツは先ずはシオリに直接、盾を発動する。それは身体の主要部分に至るまでの徹底ぶりだった。それにより、呪詛の影響はかなり減ったが、まだ消しされた訳ではなくシオリの心臓に重くのしかかっていた。
「くっ! だ、ダメか…… 内部まで盾で覆えば消えると思ったんだけど……」
タモツは歯噛みするが、そのままシゲに案内されてリョウちゃんの私室へと向かう。
「あなた! 早かったわね。それじゃ、ココはあなたに任せて私はちょっと出かけてきます」
タモツは天煌陛下であるリョウちゃんに盾をかけながらカオリに聞いた。
「何処に行くんだい、カオリ?」
「うふふふ、勿論、この呪詛を消す為のアイテムを取りによ、あなた。私は探索者ですもの」
「そんなアイテムがあるのかい!? 何処に?」
「古き都、大和州よ。2〜3日で戻って来れると思うの。それまで、淋しいけどあなたはここで守っていてね……」
「う、うん、分かったよ。カオリ。何があっても僕が守るよ!」
「素敵よ、あなた……」
「気を付けて行くんだよ、カオリ……」
徐々に2人の顔が近づき、まさにキスしようとした瞬間に、シゲとミネからツッコミが入った。
「あの、お2人とも、ここは陛下の私室ですので、そういうのはお控え下さると……」
「カオリ様、今は急いでいただけるとこのミネが我が家秘伝のトロロをお2人にご馳走いたしますので……」
他に人がいた事に気付いたタモツはパッと顔を赤くしたが、カオリは
「本当!! ミネさん! あの秘伝のトロロをっ!! あなた! 2〜3日って言ったけど、出来たら日帰りで戻ってくるわっ!! シゲさんの家の秘伝のトロロは凄いのよっ!!! それじゃ、行って来るわね、あなた!!」
秘伝のトロロにつられてダッシュで部屋から飛び出していったのだった……
秘伝のトロロがどう凄いのかは賢明な諸氏ならば分かっていただけると思う……
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