第17話 攻略完了しちゃったわ

 AM10:15 戦闘回数5回 13階層走破


 AM10:19 戦闘回数8回 14階層走破


 AM10:22 戦闘回数3回 15階層走破


 AM10:26 戦闘回数6回 16階層走破


 …… …… …… …… ……


 AM10:32 20階層 中ボス部屋 ボス撃破


 AM10:35 戦闘回数8回 21階層走破


 AM10:39 戦闘回数11回 22階層走破


 AM10:45 戦闘回数5回 23階層走破


 …… …… …… …… ……


 AM11:16 30階層到着 表ボス戦……


「カオリちゃん、そっちに行ったよー」


「任せて! ハアッ!!」


 カオリの阿守羅のひと振りで塵となるボスが呼び出した眷族たち。ジェネラルミノタウロス5体にソルジャーミノタウロス8体。

 それら13体を一挙に眷族を消されて心なしかボスがギョッとしたような……

 その隙を逃さずにミチオとテツヤが斬込みダメージを与える。


「はい、下がってーっ、2人とも!」


 そこにヤヨイが準備が出来たとテツヤとミチオに下がるように言う。2人が下がったのを確認してヤヨイが魔法を放つ。


「エイッ!」


 詠唱は要らないようだ…… 時間がかかったのは魔力を込めていたかららしい。

 ヤヨイの5指から放たれた魔弾は正確にボスの頭、首、胸、腹、股間を射抜きボスが塵となった。


「どーよ! キングミノタウロスも私の魔法の前では無力よ!!」


「凄いわっ! ヤヨイちゃん。若い頃とは比べ物にならないわね!」


 カオリが興奮してヤヨイを褒めるが、テツヤが呆れたように言う。


「いや、カオリちゃん…… 若い頃と比べ物にならないのはカオリちゃんもだから…… 絶対に俺より強いよね……」


 続けてミチオも言う。


「カオリちゃん、阿守羅、進化してない? いや、ひょっとして神化かな? ミノタウロスの上位種を13体、ひと振りで消し去るなんて……」


「そうよ、カオリちゃん。私の魔法がなくてもキングミノタウロスも倒せたでしょ?」


 三者三様にそう言われてカオリは少し困り顔になっていたが、この3人には嘘は吐けないと思い正直に話し出した。


「えっとね、実はヤヨイちゃんの言うとおりで、キングミノタウロスならソロで倒せるの。黙っててごめんなさいね」


 カオリの告白にテツヤがヤヨイとミチオにこう言った。


「俺とヤヨイはS級だけどカオリちゃんはSSS級か? いや、ひょっとしたらそれよりも上か……」


「そうだね、カオリちゃんの強さから言えばXYZ級ってところかな?」


「そうよね…… 私とテツヤの2人で攻略出来なかったダンジョン、カオリちゃんならソロで行けそうだし……」


「ちょっ、ちょっと待って、みんな。私は主人と子供たちとの生活を守る為に復帰しただけだし、そんな高ランクダンジョンにも行くつもりは無いのよ。だから協会には内緒にしておいて欲しいの」


 雲行きが怪しくなったと見たカオリは3人にそう言って協会に言わないよう頼んだ。 


「分かってるよ、カオリちゃん」

「そうね、別に誰かに言ったりしないわ」

「僕も言わないよ」


 3人ともにそう宣言して誰にも言わないと約束してくれた事にカオリは感謝して、現れた宝箱を開ける事に。


「さてと、罠はあるかな?」


 ミチオが入念に宝箱をチェックする。そして3分後、


「どつやら罠は無いようだから開けてみるよ」


 そう言ってミチオが宝箱を開けた。4人で中を覗き込むとそこに入っていたのは、


「えっと、これは俺でいいか?」


 と片手剣を手にしてテツヤが言い、ミチオが


「それじゃ、コレは僕で」


 とダガーを手にする。


「私はコレね」


 とヤヨイがローブを手にして残ったのは


「良いの、みんな?」


 とカオリがツナギ服を手にしてそう聞いた。


「ああ、俺の戦闘スタイルだとそのツナギは合わないからな」

「僕は防具に関しては今ので満足してるし、攻撃力を上げたいからこのダガーが良いんだ」

「魔道士がツナギって私のイメージと一致しないのよ」


 と3人ともがカオリが手にしたツナギを必要ないと言うのでカオリは遠慮なくこのツナギを貰う事になった。カオリの持つスキル【素材鑑定】は、主に加工前の【素材】を調べるものだが、加工後の素材を知る事も可能だ。それによるとこのツナギは【龍の髭】で作られているらしい。

 ツナギ自体の性能は分からないが、素材である【龍の髭】は〔耐衝撃、防刃、察知〕の力を宿していると出た。これまで服の内側に着ていた防刃、防魔の鎖帷子をどうしようかと悩む事になったが、それは後で考える事にしてツナギを異空間にしまいこむカオリ。

 他の3人はさっそく手に入れた武防具を装備したようだ。


「よし! それじゃ時間はまだあるからこのまま最終階層を目指そう」


 テツヤがそう言って31階層に向かうと宣言する。現在時刻はAM11:42だ。


「待って、みんな。ここなら落ち着いて食べられるからここでお昼ご飯を食べておかない? 私、お弁当を作ってきたから」


 ボスを倒したこの部屋でボスが復活するのは3時間後なので、今ならばカオリの言うとおり落ち着いて食事をとれる。

 それならばと3人も賛成し、カオリは異空間から机と椅子を取り出して机にランチョンマットをしいてから弁当とお茶とコップをその上に置いた。


「幕の内にしてみたの。さあ、食べてね」


 人数分の弁当はキレイに盛り込まれていてそれを見てヤヨイが、


「あの食べられたら見栄えなんて気にしなかったカオリちゃんの成長がこんなところに!?」


 と驚いている。


「もう、ヤヨイちゃん、若い頃の事は恥ずかしいから言わないでちょうだい」


 カオリの言葉にテツヤとミチオも笑っていた。楽しく食事を終えて10分ほど休憩した3人は次の31階層に向かう。


 PM12:35 戦闘回数2回 31階層走破


 PM12:37 32階層到達 裏ボス戦


「さあ、カオリちゃん、私たちに見せて!」

「俺たちは待機してるよ」

「僕は一応警戒しておくね」


 3人は今回の裏ボスはカオリ1人に任せるつもりのようだ。裏ボスはエンペラーミノタウロス。


 カオリは油断無く阿守羅を構えてエンペラーミノタウロスの股間を注視する。


『タモツさんより随分と小ぶりね…… その程度じゃ私を満足させられないわよ!』


 カオリよ、注視すべきはソコでは決してない……


 さて、カオリの背中を見つめている3人は何を考えていたのか……


「さすがだな、カオリちゃん。エンペラーミノタウロスは俺でもソロだと緊張するのに、背中に僅かの緊張も感じられないとは」


 テツヤよ、それはカオリの注視してる場所を知ってもそうは言えないだろう……


「凄いよね、若い頃もこんな感じで強敵に相対していたけど年齢を重ねて更に落ち着きを持った感じだね」


 ミチオよ、年齢を重ねてというよりもある経験夫婦の営みを経てのようだぞ……


「やっぱりカオリちゃんは最強よね〜。阿守羅を持ってからは本当にヤバかったけど今や敵なしって感じだものね!」


 ヤヨイよ、今のカオリは阿守羅よりもタモツ下腹部の影響により敵なし状態なのだ……


 とまあ三者三様にそのように考えていたようだ。そんな3人には関係なくカオリはエンペラーミノタウロスを挑発する為に阿守羅を軽くひと振りした。


 遠い間合いからなのでなんの脅威も感じなかったエンペラーミノタウロスは手に持つ戦斧バトルアックスを同じようにカオリに向けて振る。


 すると振られた戦斧から目に見える斬撃風がカオリに向かって飛んできた。


「うふふふ、目に見えてるようじゃまだまだ未熟よ」


 カオリは不敵にいや、いつも通り子供たちに笑いかけるように笑い、そして飛んでくる斬撃風を阿守羅で受け流し、その上でエンペラーミノタウロスへと斬撃風を戻してしまった。


 これにはエンペラーミノタウロスも驚いたのか大袈裟に右に飛び退き自ら放って戻ってきた斬撃風を躱した。


「グモォーッ!?」


 一声鳴いてから怒りに身を任せてカオリに肉薄するエンペラーミノタウロス。下位種であるミノタウロス、ソルジャー、ジェネラル、キングはパンツを履いているのに対してエンペラーはコレこそがエンペラーの証だと言うようにパンツを履かずにその股間を晒している。


 事実、エンペラーとして認められる個体はその股間のサイズで決まるようだが、そのエンペラーミノタウロスをも超えるタモツは一体何者なのか……


 いや、今はその検証の時ではない。


 カオリは肉薄するエンペラーミノタウロスを見て言う。


「うふふふ、私が魅力的だからって迫ってきても私にはタモツさんという最高の伴侶がいるからお付合いはお断りするわね」


 そう言うとカオリは阿守羅をエンペラーミノタウロスに向かってひと振りした。


 一閃と呼ぶに相応しいそのひと振りにより、エンペラーミノタウロスの身体は自分の頭が胴体と切り離された事に気付かずに五歩進み、そしてドウッと倒れた。落ちたエンペラーミノタウロスの首はどうして自分は倒れているのだという不思議そうな顔をした後に、ようやく自分が斬られた事に気がついたかのように目を見開き、絶命したのだった。


 エンペラーミノタウロスの身体はそのまま塵となり、後にはキレイに部位ごとに切り分けられたドロップ品、超高級焼肉用牛肉がその場にソッと佇んでいたのだった。

 

「うふふふ、出直して来なさい」


 カオリはそう言いながらドロップ品を異空間へと収めたのだった。


「やったな、カオリちゃん! 腕は衰えてるどころか更に上がってるようだ!」byテツヤ


「カオリちゃ〜ん! 焼肉の時は私たちも招待してくれるんでしょ?」byヤヨイ


「ああ、その時はミズホも連れて来てもいいかな、カオリちゃん?」byミチオ


 3人からそう言われてカオリはうなずき、


「日曜日に家の庭で焼肉パーティーをやりましょう! ゴウキのおじさんや買取窓口の職員さんたちもお誘いしたいのだけどいいかしら?」


 と言った。それには3人も嬉しそうに頷いて了承する。


 エンペラーミノタウロスの滅多に落ちないドロップ品である超高級焼肉用牛肉は量的に牛10頭分である。そこにカオリの二つ名であるラッキースターの要素が加わり、今回は牛22頭分の分量がドロップされていた。

 

 若い頃にパーティーを組んでいた3人は知っていた。滅多に落ちないドロップ品もカオリが倒せば必ずドロップすると。だから今回はカオリ1人で倒して貰ったという裏の事情はカオリだけは知らない……


 そして、出現した宝箱をミチオがチェックして開けると、そこに入っていたのは基礎能力底上げ機能付の焼肉のタレであったのも3人には当然の事だったようだ。

 

 最終階層の攻略を終えた時刻はPM13:00。ダンジョン外に出られる転移陣を使って4人は外に出る。


「予定時間までに攻略完了しちゃったわ?」


 とカオリが不思議そうに言うが、3人は思っていた。Aランクダンジョンならば、カオリならば当たり前だと……  







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