第5話 十数年ぶりの愛をこめて
常日頃、マナーモードの音を猫のグルグルグルグルという喉を鳴らす音に変えれば、世界は平和になるのではないかと、私は本気で思っている。
グルグルは世界を救う!
さて、姉の話をしようと思う。
彼女は動物が嫌いだった。
それは幼い頃、アヒルに突かれたことがトラウマとなり、毛むくじゃらの生き物は「怖い」と思っていた。
なんとも不憫なことである。お猫様は愛であるのに。
対して、幼少期の私は風の谷のナウシカのように全ての生き物を愛でていた。
アリやダンゴムシ、てんとう虫の幼虫、おたまじゃくし、カエル、でんでん虫、蛾……。
今では無理な虫ですら「かわゆい!」と道端で見つけては拾って家で飼っていたのだ。
だが姉は、決して「やめて」とは言わなかった。初代お猫様を飼うことになった時も、トラウマを抱えているにも関わらず「やめて」とは言わなかった。
ただ、母と妹があらゆる生物を家に招き入れているのを黙って見ていた。
初代お猫様は——ケビンといった。母がケビン・コスナーが好きだったからだ——姉のベッドで寝るのが好きだった。
「みかちゃーん! 猫どかしてー」
朝起きると姉は珍しく私をちゃん付けして助けを求めた。
何度か猫に触れてみようとしていたが、やはりトラウマが彼女の手を押し留めさせていた。
だがある日、突然。
姉はトラウマを克服した。
四つ足の、毛むくじゃらの生き物は怖くない!
姉は気がついた。
そっと、姉は手を伸ばした。
ケビンは姉が触れてくる人間ではないと思い込んでいたため、判断が鈍った。
抱き上げられるケビン。
トラウマを克服した姉。
一人と一匹は、じっとお互いを見つめ合った。
そして。
姉は、パクッとケビンを食べた。顔から。
一瞬の出来事だった。
私は唖然としていたし、食われた猫も抵抗はしなかった。
口の中から解放されたケビンは、放心状態であった。
——もしかして、姉の前世は狼なのかも。
私は深い考えに至った。
狼は相手の口をガブっと噛んで、愛情表現をするらしい。きっと、それだ!
長年、本当は愛でてみたかった動物に触れることが出来た姉は、十数年ぶりの愛情をこじらせた結果、わけのわからぬ行動をとってしまったのだ! そもそも動物への愛情表現の仕方がわからなかったのかもしれない。
確かにお猫様は食べてしまいたいくらいかわいいが、食べてはいけないのである。
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