ドライな僕と重めな蜜谷さん

神在月

第1話 その愛、重量級につき

 僕、小鳥遊たかなしはじめは昔から飽き性だ。いや、飽き性ともまた違う。僕はきっと他人より熱意がないだけなのだ。


 だから、高校生活を何か一つのことに費やす部活動の存在には懐疑的だ。ましてや人生をかけるなんて言葉は、後先考えないバカか嘘つきの言葉だと思っていた。


「一生をかけてハジメくんを愛します!」


 つまり僕は、今目の前で自分にラブレター渡している女学生をバカか嘘つきだと思っている。


「えっと、特進クラスの蜜谷さんだよね?告白する相手はホントに僕でいいんですか?」


「はいっ!初めてハジメくんを見た時から好きです!」


 そこまで言われると流石に悪い気はしない。けれど……


「僕はあまり恋愛に熱心なタイプじゃないから楽しくないと思いますよ?」


「その分私が熱心なので十分楽しめます!」


 とんでも理論で返されてしまった……


「で、でもお互い相手のこと知りませんしまずは友人からでも……」


「そこに関しては安心していいですよ?」


 そして、蜜谷さんは自慢げに語り始めた。


「私、ハジメくんのことは既に調べ上げてますから!家の住所から家族構成、食べ物の好き嫌いから寝る時の格好まで分かってます!」


「住所と家族構成はまだ調べれば何とかなれそうだけど、寝る時の格好まで知ってるとは……ちなみにその調査方法は合法ですよね?」


「違いますよ?」


 当然かのように違法行為のカミングアウトをされてしまった……


「ゴリゴリに違法です」


 ダメ押しまでされてしまった……


「何でそこまでして僕のこと知ろうと思う気がしれません……」


「それぐらい好きなんです!」


 そう言って蜜谷さんは僕に顔を近づけてくる。


 そうだ、この手の人間は決まってこんな瞳をしている。輝いてて、どこまでも先を見通すように澄んでいる。僕は、人生で一度でもこんな目をしていただろうか?


「……?」


 いや違う、蜜谷さんの瞳はそんな人たちとも違う。そうだ、彼女の瞳には混じり気がない。きっと純粋に僕のことを好いているのかもしれない。僕を部活に誘ったり彼氏にすることで何かを得ようとすると人たちとは違って見え透いたシタゴコロみたいなものが無いのだ。


 もしかしたら、ただ純粋に僕を好きでいてくれている蜜谷さんなら、僕の根っこの乾いた何かを潤してくれるかもしれない。


「だとしたら……」


 僕は改めて蜜谷さんの瞳を見つめる。すると彼女は気恥ずかしそうに目を逸らした。


「そ、そんなに見つめられると流石の私も恥ずかしいです……」


「あぁ、すみません」


「謝らなくていいですよ!それより、お返事はもらえますか?」


「そうですね、最初は振ってから警察に行こうと思ってましたが……」


「いいですよ、付き合いましょう」


 僕がそう言うと蜜谷さんは驚いた表情を浮かべて口をおさえると、やがてへたり込んだ。そして


「ふぇぇ……よがっだあ゛あ゛あ゛あ゛!」


 号泣し始めてしまった。


「えっ!ちょっと何で泣いてるんですか!?」


「だっでぇ゛うれじいがらぁ゛〜」


「だとしても泣きすぎです!ほら、これで鼻かんでください」


「うぅ……」チーン


 彼女を宥めること30分。何とか落ち着きを取り戻のを見計らって僕は話を始める。


「僕たちは俗に言うカップルになったわけですが、さっき言った通り僕はあまり恋愛に熱意がありません。だからきっとぼくは蜜谷さんを楽しませられません」


「それは問題ないって言ったじゃないですか!私は等身大のハジメ君が好きなんです。だから私のためにどうこうしようとは思いません」


 そして彼女は微笑んで言った。


「ただ私はハジメ君の隣にいることができれば幸せです」


「そ、そうですか……」


「とりあえず今日はもう帰りましょう蜜谷さん」


「美琴兎っ!」


蜜谷みつや美琴兎みこと。覚えてね、ハジメ君」


 そう言えばそんな名前だったか……覚えておこう。


「分かりました。それじゃあ帰りましょう、美琴兎さん」


 すると急に蜜谷さんの顔が真っ赤になった。


「どうかしました?」


「い、今!私のな、名前っ!〜〜〜〜っ!ふぇあうぅ」バタン


「ミコトさんっ!?ミコトさん!?」


 僕たちの恋人生活は、まだまだ前途多難そうだ。

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