第12部 黎明編 第34話
「ひゃぁあああ!
彩斗!やばいよ!
それを割ったらヤバいよ~!
景行に殺されるよ~!」
俺が落として割ったコーヒーカップを見てジンコが悲鳴を上げた。
足元を見た俺も顔から血の気が引いた。
俺が落として割ったコーヒーカップ、それは司が丹念に作った明石の為のコーヒーカップだった。
「う…う…うわぁああああ!
やばいやばいやばい!
景行に殺される~!
絶対に殺される~!」
俺とジンコは慌ててコーヒーカップの欠片を拾い集め、ダイニングのテーブルで瞬間接着剤でつなぎ合わせる事にした。
「も~、縁起悪い事しないでよ~!
私が月から帰れなくなったらどうするつもり~。
ともかく直そう!
何とかカップを直そうよ!」
ジンコがぶつぶつ言いながらもコーヒーカップの修復を手伝ってくれた。
「ごめんよジンコ。
だけどあまりに衝撃的だったからさ、真鈴の事…。」
「まあね~、真鈴のかか様のお京さんはね、小野先輩が私と真鈴を手伝っていてくれている間に真鈴が小野先輩の事本当に好きな事を知ったようなのよ。
小野先輩も何ていうか、男気?があってね、いざという時怖い物知らずに勇敢だけど普段はとても行儀が良くてさ。
真鈴のかか様のお京さんもぞっこんに惚れこんじゃってね。
なんたって真鈴に『私がアンタと同じ歳の頃はもうアンタが生まれていたんだよ。
ああいういい男は絶対に逃がしちゃ駄目だよ。あんたが小野先輩を逃したら私が頂いちゃうわよ!』と言ってたしね…もしかしたら小野先輩を将来咲田組の6代目組長になんて思っていたかもね。
凄い勢いで真鈴を焚きつけてたのよ。」
「そうか…真鈴のかか様のお京さんは偉く気っぷが良くて思い切り良さそうな人だから充分あり得るね…。」
「そうなのよ、だけどまぁ、時代も違うから高校卒業するまでは妊娠とかに注意しなさいよって真鈴に超高級コンドーム1箱12枚も渡すぐらいだから…ね。」
「…そうか…それでその4日間て…。」
俺はコーヒーカップの取っ手を付けようと悪戦苦闘しながら尋ねた。
「そうそう、あの悪徳暴力団がね、真鈴の素性まではまだ知らなかった様だけど、
私と真鈴と小野先輩が嗅ぎまわっている事が発覚して、しばらく咲田組が持っている山荘に籠もる事になったのよ。
勿論咲田組組員たちが周囲を警戒しながらだけど、そこでね…まぁ、皆命を狙われていたし…ね。」
「成る程ね~。
でも山荘だろ…広くはないんじゃない?…それは…ジンコのすぐ横の部屋でって事?」
ジンコはきゃはは!と笑い声をあげた。
「そうよ~私の隣の部屋で声も丸聞こえで聞こえていたわね~!
もっとも私はとっくに処女卒業していたから、ドキドキと言うより笑いをこらえるのが大変だったわね~!」
「え?どんな感じだったの?」
ジンコは細かい破片をピンセットでつまみ慎重にコーヒーカップの割れ目に合わせていた。
「ちょっと待って、今デリケートな破片を繋げているから…これで良しっと…それがね、真鈴と小野先輩の初体験は凄い感じだったよ~!
まぁ…ここまで話しちゃったから彩斗に教えても良いかな?
誰にも言っちゃ駄目よ。
行ったらマジでぶっ殺すからね。」
「ああ、絶対に誰にも言わないよ。」
「ユキにも言っちゃ駄目だよ。」
「うん、絶対に言わない。」
「じゃあ、話しておくか。
ちょっと一服したいな。」
俺とジンコは煙草に火を点けて、コーヒーカップの瞬間接着剤が固まるのを待ちながら話を続けた。
「まぁ、真鈴も小野先輩もどっちも初めてだからねそれはそれは大変だったみたい。
初体験の時は絶対どっちかが経験を積んでいないと!でなければ変なトラウマが出来るかも!と言うのが私の持論なんだけどね。」
そこまで言ってジンコがニヤリとした。
なるほど、それは確かに言えてるかも。
俺の初体験は経験豊富な女子大生の教育実習の先生だったしな…最高の手ほどきを受けながら最高の初体験を経験したのかも知れない…それにしても、始めはおしとやかで知的で家事もうまくこなす素敵な女性に見えたジンコの裏の顔を見た気がする。
ジンコは一体どんな性体験をしてきたのか…少し俺はドキドキした。
「もう、声が丸聞こえだから真鈴は実況中継にみたいに喋るし…今、何をやっているかどこまで進んだか本当に細かく判っちゃうのよ~!きゃはははは!
最初はいわゆる前戯って感じだけどキスしている音まで聞こえてさ…。」
ジンコは笑顔を浮かべながら目がギラギラしてきた。
「それでいよいよ小野先輩のアレが真鈴の中にって感じなんだけど相当お互い苦労したみたいだけど真鈴がブチ切れてね~!うひ~!今思い出してもおかし~!」
俺は笑い転げるジンコに話しを進めるように急かした。
「ああ、そうね。
真鈴は息を弾ませながら、ああ、熱い、固い、大きいとか言ってたんだよね。」
「ふんふんそれで?」
いつの間にか俺は身を乗り出していた。
「それでいよいよというときになってコンドームを付ける時に小野先輩も真鈴もなにせ初めてだからどうつけるのか小声で議論しまくってね…真鈴なんかコンドームの箱の説明書きを声を出して読み始めてさ…コンドーム被せようとした時に小野先輩のアレが柔らかくなっちゃって…その…真鈴がお口でね…そしたら真鈴が『お゛ぇ゛え゛え゛~!不味い~!』とか叫んだり…プッ!…何とかコンドームをかぶせる事に成功してさ…それでいよいよ入れるって時になったら、真鈴がね『ああ、もっとゆっくり、ゆっくり入れてください、痛い、痛い、もっとゆっくり、ああ!痛いよ!もっとゆっくり入れろって言ってんだろうがゴルァ!』とか叫んでね。」
「ふんふん、それで?」
「そして、たぶん真鈴が小野先輩をぶん殴ったと思う鈍い音が聞こえて小野先輩がベッドから転げ落ちたと思うのよ。
ドスン!という音と小野先輩の苦悶のうめき声が聞こえたからね~!」
「成る程~。」
「真鈴が慌てて小野先輩に謝る声が聞こえてその後四苦八苦しながら何とか2人は繋がったと思うんだけど…プッ!
真鈴はやっぱり痛いみたいでさ。
『ああ!いたい!もっとゆっくり!もっとゆっくり動いてください!ああ!痛い痛い!
もっとゆっくりって言ってるだろうがゴルァ!人の話聞けよこの野郎!ゴルァ!』て言いながら今度は小野先輩の首を絞めたと思うのよ。
小野先輩の苦し気なうめき声が聞こえて来たからね~!
でもすぐそのあとで小野先輩の『コケッ!』て鶏みたいな声が聞こえてさ。
その…小野先輩がね…その…イッチャッタみたいでね。
真鈴が『え?イッチャッタんですか?小野先輩、イッチャッタンですか?マジでイッチャッタんですか~?』てね。
初体験が真鈴にぶん殴られるわ首を絞められてイッチャウわで…なんか悲惨な初体験だったわね~!きゃはははは!小野先輩、可哀想~!
私がそばについていて2人を指導してあげればあんな悲惨な初体験はさせない!って思っちゃった~!」
笑顔で話すジンコだったが、真鈴と小野先輩の初体験を聞いている俺はなんかドキドキしてきた。
ああ、早くユキが帰ってこないかな…。
「まぁ、その晩はね、暫くしてまた2人でトライを始めて…一晩中大騒ぎだったわよ。
次の朝、小野先輩の右目に凄いアオタンが出来ていたけど、あれは真鈴が殴った跡ね、まあ、それでも2人は仲睦まじい感じだったわね~。
でもそんな感じでも3日目辺りになったら真鈴が今度は凄い喘ぎ声を上げてさ、なんか凄い感じだったわね~!
ケダモノって感じ。」
「成る程、なんか凄かったんだね…。」
「そうよ2人とも若いからね~真鈴はお京さんに電話して追加のコンドームを届けてもらったみたいだし、かなりの回数をしたと思うわ。」
「…。」
「怒涛の4日間だったわ…その後…今思うとあの時に岩井テレサが護衛の応援を咲田組に差し向けたと思うのよ。
私達は山荘から解放されて残りの夏休みを過ごしたと言う訳。
だけど…小野先輩があんなことになっちゃって…。」
ジンコが俯いた。
小野先輩は真鈴達と悪徳暴力団を壊滅させた後、残党のトラック襲撃で真鈴を庇ってトラックにぶつかり植物人間状態になり、その後、一度も目が覚めずに真鈴の高校卒業を見届けるように息を引き取ったのだった。
「真鈴はね、あの時避妊なんかしなければ良かったと、そうすれば小野先輩の子供が出来たかもしれないのにって酷く泣いてね…慰めようがなかったわ…。
真鈴と小野先輩は結婚の約束もしていたようだしね…真鈴はあの時、初恋の人であり、初体験の相手であり、将来の夫も全部一気に…失ってしまったのよ…。」
「…そうか…。」
「だからさっき私は真鈴と乾とどこまで行ったのか真剣に訊いたのよ。
真鈴が立ち直って新しい恋に進めるかとても心配なの…。
乾が真鈴を幸せに出来るか真剣に考えているわ。
私と真鈴は…親友だからね。
真鈴が死んだりしたら…私の魂の半分も死んだような物よ…。
私は真鈴が小野先輩の事を乗り越えて幸せになるのを心の底から願っているわ。」
俺もジンコも、なんとか修復がすんだがいささか、というよりもかなりデッサンが狂ったつぎはぎだらけの司が明石の為に作ったコーヒーカップを見つめて黙り込んだ。
乾…果たしてあいつは真鈴の悲しみを受け止めて真鈴を癒す事が出来るのだろうか…。
「私はじっと真鈴を見守るわ。
彩斗、私が月に行った後も真鈴の事を見守ってあげてね。
この事を知っているのはワイバーンでは私と彩斗だけだから。」
「うん、判ったよジンコ。
ジンコが帰ってきたら絶対に真鈴の報告するよ…ジンコ、絶対に生きて帰って来いよ。」
「もちろんよ彩斗!
彩斗も約束して。
私が帰った時に誰も死んでいないと、ワイバーンの誰も欠けていないで私にお帰りって言ってくれるように…約束よ。」
そう言ってジンコは小指を突き出した手を差し出した。
俺は人気のない深夜のダイニングでジンコと指切りげんまんをした。
続く
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