第8部 発覚編 第3話

またソファに座り直してむしゃむしゃとサンドウィッチを食べ始めた圭子さんを見て俺達も実は腹が減っている事に気が付いた。


「あの~圭子さん、私達も少し食べて良いかな~?」


加奈が口火を切った。


「加奈!遠慮しないで食べなさいよ~!

 あなた達がいっぱい食べると思ってたくさん作って置いたんだから!

 それにしてもあなた達、可哀想ね~!

 人間の時とは比べ物にならないくらい美味しいわよ~!」


俺達は圭子さんのお言葉に甘えておずおずとサンドウィッチに手を伸ばした。

パンを何斤使ったの?と聞きたくなるほど大量のサンドウィッチだが、成る程凄く美味しい。

これなら圭子さんがたらふく食べて俺達が食べたらすぐに無くなるだろう。

しかし、悪鬼の味覚が鋭くなるとは聞いていたがもっと美味しく感じるのか…。

少しだけ羨ましくなった。


喜朗おじがコーヒーのお代りを持って来た。

俺達は喜朗おじに先ほど護衛の人達が挨拶をしていった事を説明して、喜朗おじが律儀な者達だな!と感心していた。

段々と圭子さんが生き返った事の実感が湧いて来て、真鈴達が新たに嬉し涙を流して圭子さんを慌てさせた。


リリーも交えて俺達は和やかな空気を取り戻した。

そう、誰も死ななかった。

怪我をした者や悪鬼となって蘇った者はいたが俺達は一人も欠けていないのだ。


はなちゃんが目を覚ました。


「ふぅ~幾分疲れが取れたじゃの…おお!なんじゃ!

 圭子が悪鬼になっておる!

 これはいったいどういう事じゃの!」


驚き白目を剥いたはなちゃんに俺達は今までの経緯を話した。

はなちゃんは驚きながらも誰も死ななかったことを喜んでいた。


「うむ、われはちょっとトイレに行って来るぞ。」


四郎が立ちあがり、俺もトイレといい、立ち上がった。

四郎がトイレを済ますと俺は四郎に話しかけた。


「なんだ彩斗?

 トイレは良いのか?」

「四郎、それどころじゃないんだよ。

 ちょっと不謹慎な事だけどね、問題が起こったんだ。」


そして俺は圭子さんが悪鬼となり死霊が見える事を説明すると事情を察した四郎の顔が見る見る青ざめた。


「…そ、そそそれは非常にまずい事態だな…。

 圭子さんの性格からしたらブチぎれて暴れ出すかも知れんぞ…そしてそれを容認してきたわれらも…無事では済まないかも知れん…血の雨が降るかも知れん…。」


四郎の顔が引きつりがくがくと震え出した。


「とにかく圭子さんがスケベ死霊の群れに気が付く前に何とか説明しておかないと『ひだまり』存続の危機だよ…。」

「そそそそうだな彩斗。

 何か手を打たねばならん。

 『ひだまり』はわれの心のオアシスだからな。」

「…え?

 四郎も加奈達の制服姿…。」

「リリーには内緒だぞ。

 われはつまらん妄想を楽しんでいるだけだ。

 われも男だからな、男の魂を縛る事など誰にもできん事だからな。

 戦士には休息も必要なのだ。」


俺達は暖炉の間に戻った。


「そうなのよ!私達、籍は入れたけど結婚式も写真さえ取っていないからね~!」


圭子さんがサンドウィッチを頬張りながら熱く語っている。


「いい機会だからさ~圭子さんと景行ちん、結婚式すれば良いじゃん!」


加奈が立ち上がって叫ぶと女性陣全てが、きゃ~!それ、良いね~!と激しく盛り上がった。


「家が完成してプールも出来たらここで結婚式しようよ!

 盛大にさ!

 そして新しい『ひだまり』でパーティーしてまたここに戻って来てプールサイドでまたパーティーするのよ!」


ジンコが叫び、またボルテージが上がりはしゃいだリリーが提案をした。


「それ最高ね!

 ねえ、ノリッピーはカトリックだけど司教の資格持ってるんだよ!

 彼に結婚式上げてもらおうか!」

 スコルピオも参列するわよ!

 皆で盛大に祝わせて!」


また女性陣が盛り上がり、明石と圭子さんが顔を赤らめながら互いの手を握って頷いた。


「ごほん…よろしく…おおお願いします。」


明石が答えるとまた女性陣が盛り上がった。


「きゃ~!

 素敵~!

 ねえねえ!リリーと四郎も結婚式上げてないんでしょ?

 一緒にあげようよ!」


真鈴が叫ぶとリリーがええ!と声を上げて顔を赤らめて四郎を見た。

四郎はコーヒーを置いてリリーを見た。

四郎の顔もゆでだこのように赤くなっている。


「…うむ…リリーさえ承知してくれたら…われは別に…」

「何よ四郎!

 男でしょ!

 こういう時はちゃんとプロポーズするんだよ!」


圭子さんが一喝して、四郎はおずおずと立ち上がりリリーの前に片膝をついた。


「え~ごほん…リリー…今は指輪など持ち合わせていないが…その…われと…ごほん…。」


リリーが両手で口を押さえて純真な若い乙女の顔で四郎の言葉を待っている。

その目からは早くも涙が零れていた。

暖炉の間はさっきと違う張りつめた空気になった。

皆が四郎とリリーをじっと見つめていた。


「その…われと…。

 われと結婚…してくれるか?」

「もちろんよ!マイケル!」


リリーが四郎に抱きつき俺達は歓声を上げて盛り上がった。

俺達はコーヒーで乾杯をした。


「ああ、こんな展開になるとは思わなかったな。

 俺もちょっとトイレに…。」

「景行、俺も行くよ。」


明石がトイレを済ますと俺は明石に話しかけた。


「なんだ彩斗?

 トイレは良いのか?」

「景行、それどころじゃないんだよ。

 ちょっとおめでたい所不謹慎な事だけどね、問題が起こったんだ。」


そして俺は圭子さんが悪鬼となり死霊が見える事を説明すると事情を察した明石の顔が見る見る青ざめた。


「…そ、そそそれは非常にまずい事態だな…。

 圭子の性格からしたらブチぎれて暴れ出すかも知れんぞ…そしてそれを容認してきた俺達も…無事では済まないかも知れん…血の雨が降るかも知れん…きっと圭子は俺の体を半分に引き裂いてぴくぴく痙攣している俺に離婚すると言い出すかも知れないな…。」


明石の顔が引きつりがくがくと震え出した。


「とにかく圭子さんがスケベ死霊の群れに気が付く前に何とか説明しておかないと『ひだまり』存続の危機だよ…。」

「そそそそうだな彩斗。

 何か手を打たねばならんぞ。

 『ひだまり』は俺の心のオアシスだからな。」

「…え?

 景行も加奈達の制服姿…。」

「圭子には絶対内緒だぞ。

 俺はただつまらん妄想を楽しんでいるだけだ。

 俺だって男だからな、男の魂を縛る事など誰にもできん事だからな。

 戦士には休息も必要なのだ。」


ワイバーンの男全員が実はかなりスケベだと言う事を思い知りながら俺達は暖炉の間に戻った。

喜朗おじがシャンパンを持ち出して皆のグラスに注いでいた。

今日は特別と言う事で司と忍のグラスにもほんの少しだけ注ぎ、コーラで薄めていた。


リリーのスマホが鳴った。


「あらあらこんな時に…みんなちょっとごめんね。」


リリーが席を外した。

その間も俺達は結婚式の段取りやウエディングドレスの事やウェディングケーキの事などで話が盛り上がっていた。

暫くしてリリーが戻って来た。


「皆ごめんね…私すぐに帰らないと…。」


リリーの青ざめた顔に俺達は違和感を感じた。


「リリー、どうした?」


四郎が尋ねるとリリーは暫く沈黙した後、とても言いにくそうに言った。


「あの…創始者と言う化け物が言った『糸』って…クラにつけられていたものだったよ…。」

「え?」

「そんな…。」

「…恐らくクラが地下に潜入した時につけられたものだと思う…。

 あの後クラが立ち寄ったセーフハウス全部と私の家と…ここが襲撃されたんだ…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「…。」

「クラはそれを知ってしまって…責任を感じて自殺を図ったそうだよ…今は意識不明で重体だって…。」

「…そんな!クラの責任じゃないのにぃ!」

「そうだよ加奈、私もクラの責任だなんて思わないよ…。

 私はこれからすぐに戻るよ…。

 また何か判ったら連絡するね。」


リリーは沈黙してしまった俺達を残してヘリで帰って行った。


どうして…クラには何の責任もないのに…志願して危険な場所に潜入して生きて帰って来ただけなのに…貴重な情報を持ち帰ったのに…照れ屋のクラがはにかむ顔が俺の目の前に浮かんだ。









続く


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