第1部 復活編 第6話

「ポールさんは何故そんなに傷を負ったんですか?

 いったい彼は夜に何をしていたのですか?

 マイケル・四郎衛門を助手にって…」


処女の乙女の言葉に俺も同意してコクコクと頷いた。

マイケル・四郎衛門はコーヒーを飲み干して、遥か遠くを見つめる目つきになった。


大富豪ポールはその日の晩に自分の部屋に来るようにマイケル・四郎衛門に命じるとソファから立ち上がり部屋を出て行った。

昼前に大富豪ポールは着ていた血だらけ傷だらけの服が入った袋をマイケル・四郎衛門に渡し、誰にも見られぬように焼却するように命じた。


そして夜、執事としての仕事を終え、他の召使も皆寝てしまうとマイケル・四郎衛門は静かに大富豪ポールの部屋を訪れた。

大富豪ポールは寝室のソファに腰かけて静かに赤ワインを飲んでいた。

テーブルの燭台のろうそくが弱々しく室内を照らしている。


「やぁ、来たな。

 私の横に座りなさい。」


ソファの端に腰かけたマイケル・四郎衛門に大富豪ポールは微笑んだ。


「今日の朝方はさぞ驚いたろうな。

 お前はあの事を誰にも言わずに居た事は判っている。

 まぁ、ワインでも飲め。

 これは私が特別の時にだけ飲むワインだ。」


マイケル・四郎衛門は恐縮しながら注がれたワインを飲んだ。

少し酸味が強いワインだったがマイケル・四郎衛門は飲んだ。

その様子を大富豪ポールはじっと見ていた。


「さて、私は前々からお前の事を見込んでいた。

 お前は利発さと勤勉さ、そして善良でしかも悪、理不尽なことを憎む正義の心を持っている。」


マイケル・四郎衛門は大富豪ポールの言葉にますます恐縮しながらワインを飲んだ。

その様子を見て大富豪ポールは微笑んだ。


「お前の好きな所はそう言う所だ。

 お前は謙虚で少しも威張らず下働きの奴隷にも優しい気配りをする。

 昨日の私の姿を見て私が少々厄介な敵と戦っていることは想像がつくだろう、そう、私一人ではそろそろ限界があるほど強い敵なのだ。」

「その敵と何者ですか?」

 

大富豪ポールはワインを揺らしてしばし沈黙したが、ワイングラスを置いてマイケル・四郎衛門をじっと見た。


「一つは凶悪な心を持った人間だ。

 盗み強盗殺人、悪に手を染める人間だ。

 私の農園とその近くは平安で静かでいないといけないのでな…」

「それで保安官が度々ご主人様の所にお出でになるのですね?」

「その通り、私の農園の近辺で怪しい流れ者や悪人が引き起こす事件の情報を知らせてもらっているのだ。」

「それなら保安官に頼んで自警団を作るとか、わざわざご主人様が一人で危険な目に遭うような…朝方のような目に遭う必要は無いのではないですか?」


大富豪ポールが微笑んだ。


「そう、相手が人間である限りは保安官たちで対処が可能だが…。」

「だが…。」

「…相手が人間でない時もあるのだ。

 私でないと倒せない、私でさえ倒すのが難しい存在もこの世には存在しているのだ…。

 マイケル、悪鬼や悪魔の事は知っているか?」

「ええ、オオカミ人間とか魔女とか吸血鬼とか…でもそれは農民たちの迷信ではないのですか?

 仕事終わりに恐ろしい話を楽しんだり子供たちを怖がらせるような…。」

「いや、悪鬼の類は実在するのだ。

 皆が皆人間に悪さをする者では無いがな…それに中には人間の守護者のようなものもいるのだ…。」

「え…悪鬼が実在する?」


大富豪ポールがマイケル・四郎衛門に体を寄せた。


「私のように人間の悪しき者や悪鬼から善良な人間を守護する者もいるのだ、まぁ、それが私自身を守るためなのだが。」


大富豪ポールは牙を剝き恐ろしい悪鬼の形相に変わるとマイケル・四郎衛門の肩と頭を掴んでのどに牙を立てた。

生き血を吸われて声も上げられずに意識が遠のくマイケル・四郎衛門の耳に大富豪ポールは囁いた。


「マイケル、私の助手に、相棒に、無二の友になってくれ。」






続く


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