第5話「わたしもカレー!」

露天風呂からウリの後ろを歩いてゆくと、

陽もすっかり落ちてカレーの匂いが漂ってきた。

小さな森の中の、なんだか温室みたいな植物がいっぱいの不思議なおうち。

外のテーブルでイブと…また知らない天使が待っていた。

メイドさんスタイルで、料理人の天使かな?


イブ「おかえりー。ねぇ、アダムもカレー食べる?」


食べます!


イブ「わたしの前に座って。…アダムにもカレー。」

  「承りました。」

イブ「ところで料理の天使っていたっけ?」

ウリ「検索ー。…ペネム、ってのが甘味と苦みに関係してるくらいかも?」

イブ「あら。まみむめも語尾が初めてちゃんとした。」

ウリ「してやったりだみょ。」

イブ「じゃあ、アダム。その子がペネムね。」

ウリ「適当だまぁ~。」


皆いつ偽名じゃなくなるんだろう~。わたしただの元家電だから信用して~。

それでわたしはホントはアダムじゃなくて、…ゆ… …ユズ? …思い出せない。

でも、しばらくいいか。今のわたしにはそういう役が求められているのだろう。

そしてわたしの前にイブの2倍はある、大盛りカレーがふるまわれた。


イブ「体は男性だから、そのくらいいけるわよね?」


どうでしょう。そもそも食事が初めてだったりします。


イブ「そうなんだ。うちのカレーおいしいわよ。というより

   リ…ペネム、の作るものは何でもおいしいけどね。」

ウリ「リ…仮称ペネムは特に家事が上手な子なのですみょ。」


なんでも出来そうだけど、やっぱり特化してる子もいるんですね。

さて、カレーが楽しみだなぁ~。嬉しいなぁ~。

ロボットに生まれてカレーが食べられる日が来るなんて!

いただきまーす。


… … …


イブ「あっ。…これ気絶…した?」

ウリ「ど、どうしてシャットダウン… …もょ。」

イブ「うちの甘口なんだけどな…。」


… … …


しばらく、わたしは気を失っていたようだ。

どこか情報が押し寄せていっぱいに… …でも、とりあえず辛かったらしい。


ウリ「再起動したむぅ。」


初めてだったからかな?


ウリ「うーん… …一応アダムには味覚基準が設定されてるっぽいま。

   アダムもペネムのような家事手伝いだったようだから、

   過去に味見くらいは出来たようめぇ…それで… … …

   なんの問題もない、昔の人間の標準設定値ですめ。」

イブ「昔の人って相当甘口だったのね。」


いやー…どうなんだろう…。

設定値オーバーしてるということは、

未来の人がだんだん辛さに慣れちゃったのでは…。


ペネ「アダム様用には、ペッパーXXを抜いて、

   今度もっと甘いのを作らせていただきますね。」

イブ「味するの?それ?」

ペネ「大丈夫です。」


うん、ありがとう。わたし、もて成される方でいいのかな~。

ロボットとしてなんだかな~。たまにはいいけれど。

そして気絶してる間に食事もイブのお風呂も終わっていて、

既に寝るだけとなっていたようだ。


イブ「もっとお話したかったのになー。

   ま、明日があるか。今日はおやすみなさいね。みんな!」

ウリ「おやすみー!…も。」

ペネ「おやすみなさいませ。」


おやすみ。…さて、わたしはどうしたものだろう。眠くはないな。

寝るのかな、この体は。

メモリー管理が常に解らない内にされているようで、

随分と頭はしっかりしてたり。ねぇウリ、どうしてるの、夜の天使は?


ウリ「夜の天使とかなんかえっちぃ!あたしら夜には明日の仕込みがあるんだよ!」


仕込みってなに…?


ペネ「明日をまた、イブ様に楽しく過ごしてもらえるように、

   私たちは遊びの段取りをしておくのです。」


そういう仕込みなんだ。…わたしもそのうちだったんだろうか?


ウリ「そしてぇ…その辺はずっとこなしてたあたしたちの領分なので!

   おまえは散歩してるといいよ!」


えー。わたしも仕事ほしいなー…。


ウリ「昔の家電製品など、いまだ信用はしていないっ!

   自由時間なんだからとっとと散歩に行け!御寝所には近づくなよ!」


しませんって…。

そうかー、わたしはこの広い空中庭園の散歩をするしかないのかー…。

…ちょっと楽しそうだな。じゃあ、行ってきます。

夜道を一人で散歩かぁ、ロボットになってそんな事も初めてだ。

少しわくわく感を感じながら、わたしは温室みたいなお家を離れ、

小道はあるのでランダム分岐して道なりに歩いて行った。

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