第5話

一瞬の出来事に、健斗は足を動かすことができなかった。何か言おうとしたが、口がパクパクと動いているだけで、言葉は出てこない。そうこうしている間に、兵士が健斗の元に近づいてきて、人間とは思えぬ怪力で両腕を強く掴んだ。

「は、離せよ!」

ようやく絞り出した言葉がなんとも弱い響きで宙をふわりふわりと浮遊していた。

「黙りなさい。」

その言葉を断ち切るように、貴婦人がピシャリと言い放った。そして健斗をギロリと一瞥すると、大きくため息をついて、

「こんな小心者の泥棒に入られるなんて、私も舐められたものね。」と言い放った。

頭に血が昇りやすい性格の健斗だが、この時ばかりは反論の言葉が出てこなかった。せめてもの反抗として、両腕を掴まれたまま、ギロリと貴婦人を睨みつけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る