第23話 一難去ってまた一難
(何だか濃い一日だったけど、結果的には悪くなかったよね)
メーガンは友人だと言ってくれたし、令嬢たちに嫌がらせをされたもののステファニーが助けてくれた。
おまけにコナーについて相談したところ、ステファニーが力になってくれることになったのだ。
「コナー様に助けていただいたのに、八つ当たりして酷いことを言ってしまいました。謝りたいけど、それは自分が悪い人になりたくないだけのような気がして……」
「根が優しいから、そう思うのよ。大体それの何が悪いの?人から嫌われたいと思う人なんてあまりいないわ」
話しやすい雰囲気にお茶会後の出来事を打ち明ければ、ステファニーはジェシカの悩みをあっさりと肯定した。婚約者のことを相談するのは些か無神経だっただろうかと口にしてから不安になったが、ステファニーは気にする様子もない。
「コナー様は立ち回りが甘いのよね。年下だからこそ許容できるけど、騎士たるものそつなく振舞えないようではまだまだだわ。そうね、でも謝罪したいのであれば一緒について行ってあげましょうか?」
謝りたいけど誤解されたくないというジェシカの葛藤を、さらりと解消するような提案に、ジェシカはすぐさま首を縦に振った。
(お、お姉様と呼ばせていただきたいわ!)
頼りになる存在にそう思いかけて、ジェシカは自分を戒めた。グレイに頼らないと決めたばかりなのに、もう他の人に頼ろうとしている。
そんな自分の弱さを自覚しつつも、ステファニーの提案はそのまま受け入れることにした。そうしなければいつまでももやもやとした気持ちを抱えたままになってしまうだろう。
あとはコナーともエイデンとも関わらなければ、きっと問題ないはずだ。
帰宅したジェシカは気分を切り替えて勉強に取り掛かった。今は優秀な成績を収めているが、ここ最近の出来事で集中できていなかったのだ。ただでさえ目を付けられやすく、実技で後れを取っているのだから、座学だけはしっかりと結果を出していかなくてはならない。
しばらく机にかじりつき、少し休憩を取ろうかなと考えていた時だった。
ノックの音とともに母が申し訳なさそうな表情で扉を開けた。
「ジェシカ、悪いけど少し手伝ってくれない?いつもよりお客さんが多くて回らないのよ」
「すぐ行くよ!」
グレイも手伝いに来てくれているが、それでも追いつかないのであれば相当忙しい状態なのだろう。
気を遣わなくていいと何度も言っているが、学園に行くからにはしっかりと学ぶべきだと考える両親は、普段は店に出ることを禁止している。通常であれば平民が学ぶ必要のない知識だが、ジェシカの希望を尊重し応援してくれる両親には感謝しかない。
「悪いな」
「全然平気。たまには看板娘が顔を見せないとお客さんも寂しいでしょう?」
厨房に入れば父がぼそりと声を掛けてきて、ジェシカは笑顔で応えながら支度を整える。
「これ、二卓な。熱いから気を付けろよ」
「はーい」
あれからグレイと顔を合わせていなかったため少し気まずかったが、今の忙しいタイミングであることが幸いし、ジェシカはいつもの調子で返事をした。ステファニーのおかげであの時よりも状況は悪くない。普段通りを心掛ければ、グレイに心配を掛けることもないだろう。
「お待たせしました。特製チキンステーキ、辛味ソース付きです」
「お、今日はジェシカちゃんもいるのか。来て良かったぜ」
「ジェシカ、こっちにビール3杯よろしく」
ジェシカが店に出ると、次から次に常連さんから声を掛けられる。
(忙しいけど、やっぱり楽しい!)
それぞれに言葉を返しつつ、厨房と行き来しながら店内の様子に目を配る。最初の頃は大変だったが、お客さんとのやり取りや満足そうに食事を楽しむ光景にやりがいを感じるのだ。
小一時間経つとピークが過ぎたようで、店内は落ち着きを取り戻しつつあった。
「ジェシカ、もう上がっていいよ」
「折角だからもうちょっと働くよ。腕が鈍っちゃうと困るもん」
どうせなら最後まで手伝おうとジェシカがそう答えたとき、扉のベルが鳴った。
「いらっしゃい――」
「こんばんは、ジェシカ嬢」
驚きのあまりジェシカは言葉を失ったジェシカの視線の先には、珍しく微笑みを浮かべたエイデンが立っていたからだ。
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